第144話 カラパスの村

 森の中に入るのを避けるために右か左かで右を選んだ結果、

どうやら違ったみたいだったんだけど、

おれ達の進行方向には運の良いことに、村があった。



 で、その村に近づいたおれ達に、


「止まれ、そこの怪しい奴ら。」


 村の門番たちが立ちふさがった。



 おれは髪を隠すためにフード被ってるし、

ジョンもミザリーさんも目や耳を隠すために

同じフード付きのローブを羽織っている。


 シアンさんやバーントさん、ヴィラック、

マルゼダさんたちはもうローブは荷物の中に片付けているが、

アルテナは普段通りのビキニアーマー姿。



 ……はたから見たら……まぁ、確かに怪しいかもしれない……



「なに、この村は旅人や冒険者は通さないの? 」

「そうだ。村人以外の者は通さない。」


 アルテナが門番の人に話を聞いているけど、

閉鎖的な村もあるんだなぁ……


 まぁ、そもそも田舎とか村って、

都会みたいに人の出入りも少ないし、

魔物とか賊みたいなのもいるから余計に、かな……?



 それにしても……門番の人達、

アルテナのことをジロジロ見過ぎじゃないか?

いくらアルテナの恰好が恰好だからって――


「村の近くに魔物が出てきたら――」

「―― 引き返すか森の中を進むか、どっちかでいいよ。」


 そう思ったら なんだかムカッときたから、

アルテナの言葉をさえぎってしまっていた。


「ソーマ……」

「別に この村じゃなきゃダメってわけでもないんだからさ。」


 なんだか目を丸くして驚いた様子のアルテナに、

おれは続けて言葉を投げかけていた――





 カラドナ大陸の北西にある小さな村『カラパス』

村の北には山々が、南から西にかけてに森林があり、

チカバの街とハニカ村とを行き来する者達は

立ち寄ることのない外れた辺境の村。


 山の低地に牛や馬、山羊などが生息し、

その低地から離れたところには川もある。


 南から西の森林には木の実や、

水分を豊富に含んだ果実が成っているため、

肉や水、飲み水などを交易に頼ることがなく、

村での自給自足ができていた。


 カラパスの村の閉鎖的な理由は、それだけではなく――





 ―― ん?


 アルテナをジロジロ見ていた門番の一人が、

突然血相を変えて、村の中へ走っていっていた。


「どうしたの? 」

「えっ!? あ、い、いえっ、なんでもないです!? 」

「? 」


 急に態度や対応が変わって、

アルテナもおれ達も内心、首を傾げていた。


「村に入らせてもらえないのか、どうなの? 」

「そ、それは……」


 それになんだか、アルテナに対して弱腰になってる……?



 村の門番たちが門前払いし続けるなら、

腹が立つけど、村に入らず通り過ぎれば良いんだけど、

急に、変に押し留めるようになったものだから、

おれ達はどうすれば良いのかわからないんだよね……



 待たされるのは待たされるので苛立つんだけど、

村の入り口の方から複数の人がやってきて、


「ど、どうします……? 」


 さっき村に走っていった門番が戻ってきて、


「えぇ、みなさんはどういった要件で、この村に来られたのですか? 」


 先頭に立ったお爺さん―― 村長さんかな? が、話しかけてきた。



「実は―― 」


 アルテナが村長っぽいお爺さんに事情を説明している間、

おれは なんとなく村人たちを見ていて、


 血の気の多そうな男の人やおれたちを警戒してそうな人達の中で、

一人だけ白いコートを羽織った女性に、おれは目を引かれていた。


 白いコートと薄い水色の髪に、

利発さと活発さを持った同色の目をした女性。


 彼女は金のネックレスと金で装飾された杖を持って、おれ達を見ていた。



 あれ? この村人たち――



「ソーマ、行きましょう。」

「え? 」

「話を聞いてなかったんですか? 村に滞在しても良いんですって。」


 アルテナに声を掛けられて驚いていたら、

シアンさんが説明してくれた。


「この村の、近隣の安全確保の依頼を受けたんだ。」

はちの魔物のこと、ハニカ村から聞いてたんだってさ。」


 バーントさんとマルゼダさんが補足説明して、

おれは事情を飲み込むことができた。



 急に態度を変えてきたのは、

ハニカ村のことを聞いていたからだったのか……


 そう思いながら村の中へ入って行く時に、


「……」


 ヴィラックが不機嫌そうな顔をしていた。



 まぁ、おれもちょっとイラっとしてたけどさ……



 こちらをチラチラ、ジロっと盗み見ている村人たちの視線に

不愉快な物を感じながら、

また白いコートの女性の視線を受けながら、

 おれ達は権力者っぽいお爺さんの後をついていっていた。

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