第82話 彼にできること

 ブラウさんは完全に体調を取り戻した途端に、

アルテナたちみたいに屋敷の外に出ていくようになっていた。


 それにブラウさんは街を全滅から救った英雄みたいな扱いになってて、

街のあちこちの人達を元気づけに行っているらしいし。



 おれはというと……


 パプル家の屋敷の、ジョンにあてがわれた部屋のドアの前にいた。



 あれからジョンは部屋に引きこもっていて……


 まぁ引きこもってもしかたないよね……


 おれだって、逆の立場だったら引きこもってるよ。


 ……おれの両親とか……まぁ おれのところのは別にいいか。

たぶん生きてるんだろうしね。きっと。



 でもなんで、おれがここにいるかっていうと……


 ブリアン家の使用人の人達とか、ディールさんたちに頼まれたんだよね。

元気づけてやってくれ って……


 ジョンが男色家だから って、おれをあてがおうとするなよ……

いや、おれだって元気づけれるなら元気づけたいけどさぁ。


 それにさ……



 ガチャ



「あ……」


 ジョンがドアを開けて出てきた。


 おれは言葉も思考も詰まってしまっていた。


 だって、すぐに出てくるとは思ってなかったし……




「……ごめん、今は君の相手をする余裕がないよ。」


 ジョンはかなり泣いて、

夜もあまり眠れてなさそうな顔つきになっていた。


「そ、そうですよね……」


 正直、人の悲しんでる顔とかって、あまり見てられない……

おれには、どうすれば良いのかもわからないし……


 何ができるかもわからないし……



「……」


 なぜかジョンはその場に立ったまま、

一歩引いた おれを見つめていた。


「……ジョン? 」


 どうしたんだろう?



「……気が変わった。」

「へ? 」


 ぼそっと呟いたのを聞き返そうと思ったら――


「うわっ!? 」


 ―― ぐいっと腕を掴まれて、

部屋の中に引っ張られてしまっていた。


 引っ張られた勢いで つんのめってしまいそうになり、

そのままベッドにうつぶせに、上体が倒れ込んでしまった。


 おれは慌てて仰向けになると、

追いついたジョンの両手がのびてきていた。


 ジョンの両手はおれの脇の下に、

そして体をぐんと持ち上げられてベッドに寝かされてしまって――


「……」

「ちょ、ちょっとジョンっ!? 」


 ―― ジョンは無言のまま覆いかぶさってくるっ!?


「ま、待って! 待ってくれ!? 」


 また押し倒されてるし、腕掴まれてるし、

でもジョンが寝そべって体重かけてるから、おれ逃げれないし――



 あの時の男達の姿が思い浮かんで、でもあいつらより、


 夜中に涙を流しながら唇を奪っていたミザリーさんや、

おれを押し倒したシアンさんの姿がより強く脳裏に浮かんで――



「―― 待てって言ってんだろっ!! 」


 ―― おれはベッドに寝かされながらも精一杯に反動をつけて、

ジョンの顔に頭をぶつけた。


「ぐぁっ!? 」


 まさか顔をぶつけられると思ってなかったのか、

仰け反って両手で顔を押さえたジョンの肩や腕を急ぎ掴んで、

ぐるりとお互いの態勢を入れ替えた。


「こっちは、まだ押し倒されるのが怖いんだよっ!! 」


 シアンもジョンもミザリーも、押し倒すの好きだな異世界人こいつらはっ!!


 それに、ジョンを慰めたいと思ってるけど、

こういう慰め方はしたくないんだよ!


「っ!? ……す、すまない……」

「ったく……」


 申し訳なさそうに顔を逸らしたジョンを見て、

そのままジョンの体の上に寝そべった。


「そ、ソーマっ、くんっ!? 」


 あ、この態勢、首がツラい。


 戸惑ってるジョンを無視してちょっと位置調整、

ジョンの胸元を枕代わりに横向きに頭を乗せた。



 心臓がドックンドックン鳴ってる……



「生きてるんだよな……」

「え? 」


 目線だけ上げて、おれを見つめてるジョンを見返した。


「ジョンには悪いけど、おれ 男とヤる気はないよ。」


 おれ ノーマルだし。

ジョンはイケメンだけど、三次元で男はちょっと……


 まぁ、二次元には女の体で設定上『男』ってのもいるし、

画面上で見る分には最近……いや、そっちもノーマルだった。


 女相手だけど、おれ……急に押し倒されるのダメになったしね。



「だから……だ、抱きしめるくらいなら……いよ。」


 そう言ってジョンの腰に軽く腕をまわすと、


「い、良いの……かい? 」


 ジョンは変に躊躇ためらっているみたいだった。


「出逢った時から、強引に抱きしめてきたのは誰だよ? 」


 声が出なかった頃で、振りほどこうとしてもさせなかったくせに。


「そ、それは……」


 押し倒してきたくせに、こっちが 良い って言ってるのにさぁ。



「ジョン。」

「な、なんだい……? 」


 おれはジョンの目を見つめながら、


「抱きしめる以上のことをしてきたら、また頭突きするからね。」


 そう言って、ニッと笑ってみせた。


「っ……それは……困ったなぁ……」


 泣きはらして、眠りも浅くて疲れたような顔のジョンは、

おれの背中に両手をまわして、ふっ と笑みを浮かべていた。



 生きてるんだもんなぁ……


 生きてるから、良いことも悪いこともいっぱいあってさ。


 街も酷い状態だし、そりゃ街の人達もジョン達も、

みんなの精神状態も不安定になったりするよ。



 おれだってそうだしね……



 もっとジョンのことも元気づけてあげられれば良いんだけど、

おれにできることって、これくらいしかないみたいだ……


 はぁぁ……おれにできないことの方が多過ぎるよ……



 ジョンは……あまり眠れてなかったせいか、寝ちゃってるみたいだ。



 ……まぁ、いいか。


 おれもなんだか眠くなってきたよ……


 ……

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