第65話 来るモノたち、待つモノたち。

 加工屋のおやっさんは、息子さんのヒューリーって人が死んだと聞いて、

悲しみのあまりに もう仕事はしない、とか言っていた。


 でも、死の真相をバーントさんたちから聞いて、

すこしだけ元気になったみたい。


 お弟子さんたちと、これから酒を飲んで食べてってやるらしいから、

おれたちはこのまま居続ける必要もないし、挨拶してから店を後にした。



「アルテナ。」


 屋敷に戻る途中、おれは彼女に声を掛けた。


「何? 」

「あのおやっさんと知り合いだったの? 」

「……まぁ、そんなところね。」


 そっか。


 また、あのおやっさんたちと会うことになるし、

そのうち把握できる わかる でしょ。



 さて、アルテナがいつ旅を再開させるつもりかはわからないけど、

こっちの都合だと、もうしばらくはこの街に滞在することになりそうだ。





 ある貴族の屋敷の一室で、

寝台の上で美女が三人、裸で身を寄せあっていた。


「はぁ……そう、二人とも良いわ。ラティ、フォリア。」

「んんぅ、嬉しいわ。カルミア姉様。」

「……っぁぁ……おいしい……」


 中心にいる美女カルミアが自身の体に赤い果実酒を垂らし、

両側の二人に、舌を這わせてめとらせていた。


「やっぱり舌の使い方も、男どもでは相手にならないわねぇ。」

「こっちが盛り上がる前には、出して終わりますしね」

「……触るとすぐ終わる。」


 彼女達三人は、以前、ジョンがソーマに紹介した按摩師の三人であった。



「あの黒いも、同じかしらねぇ? 」

「あー、頭連中が悩んでるアレ? 」

「……髪が黒かった。」


 カルミアは口を開けて、果実酒の瓶を傾けて酒を流すように飲んでいたが、

流れ落ちる勢いで彼女の唇からダバダバと酒があふれ落ち、

アゴや首筋、胸元へと流れ伝っていた。


「そう、なんか普通そうだったし、持ち物も服が高そうってだけだったしねぇ。」

「言われた通り、ヴィラックに渡して良かったんですよね? 」

「……ヴィラックは嫌い。」


 ラティがカルミアの首筋を、フォリアが下腹部に顔を近づけ、

カルミアの体と果実酒をペロペロと舐めて味わっていた。


「最初『珍しく少女でも連れてきたのか』って思ってたけど、

あのジョンが、わざわざ連れてくるのが女のわけがないものねぇ。」

「私達を相手にしなかった『女嫌い』ですものね。」

「……ナニは立つけど『役立たず』」


 ラティ、フォリアの二人がカルミアの体を唾液で濡らしている間、

カルミアはフォリアの髪や背筋に、ラティの背筋から尻肉へと手を踊らせていた。


「フォリアったらウマいこと言うわねぇ、ホホホッ! 」

「本当ですわカルミア姉様っ! アハハッ! 」

「……ウフフっ! 」


「まぁ、ちょっと黒いのを、味見してみても良かったんだけどねぇ。」

「まさか特性の美容油 アレ を塗られても、欲情せずに寝るとは思いませんでしたわね。」

「……子供も塗られてアソコが大人になるのに。」


 三人でクスクスと笑い合ったあと、再び彼の話題に戻った。


 しかし言うほど、興味もない様子の三人だったが、

その一点だけは気になっていたようだった。


「まぁ、どうするかは連絡が来るまで待ちましょうねぇ。」

「それまではこうして……はふっ……」

「……んんっ……」

「あぁっ……そう、そこ……」


 三人は部屋を、果実酒と汗と女の匂いで満たすように、

互いの体を触れ合わせ、交わりあっていた。





 黒魔導教団のローグレー導師は、

ドゥチラナカの街から馬車を急がせて、ノースァーマの街にやってきていた。



「こちらに来るのも久しぶりになるな。」


 旅人の姿に成りすましながら、彼は懐かしみもしていたが、


「この街に、本当に何かが起ころうというのだろうか……」


 眉間にしわを寄せつつも、宿を探すことにした。



(ウィステリアめ……気になるのなら、来れば良かったものを……)


 ローグレー導師が街にやってきたのは、彼と近しい立場であり、

また親しくしているウィステリア導師の依頼によるものであった。



 ―― ノースァーマの街で、大きな悲しみと憎しみを感じました。


 ―― そして、何かが何かを呼び寄せているのを感じました。

あれが魔力を通じて呼び寄せたのであれば、魔物も恐らく集まるでしょう。


 ―― お願いします。どうかノースァーマの街を魔物の脅威から守ってください。


 それが彼女ウィステリアから聞いた街の危機だった。



(最近は……『誰が仲間か』わかったものではないからな。)


 街にやって来る時に、彼は信頼できる団員たちを先行させ、

あちこちに散らばらせていた。


 元より この街に居ついている者たちの、

心の内がはかりしれなかったからだ。


(何が穏健派、過激派だ。御主神様ごしゅじんさまのみを信仰していれば、

団員が割れることもなかったろうに……)


 主神が邪神とおとしめられ、それを良しとする過激派が、

ローグレー導師にとっては忌むべき存在であった。


 邪神の名のもとに、各地で悪行を重ねる過激派が、

彼にとって最も嫌悪し、憎悪を抱かせる存在であった。


 そして、団員の中で誰が過激派なのかを心配せねばならない現状が、

ローグレー導師にとって一番の悩みどころであった。



(この黒魔導教団こそ、

ヤクターチャ様の手によって救済破壊せねばならないのかもしれないな……)


 嘆息し、引き続き条件の良さそうな宿を探そうと顔を上げた先に、


(く、黒い髪っ!? )


 冒険者であろう男性に横抱きに抱え上げられている黒髪の人物を発見した。


 貴族女性の衣装 キメルス に腕足と鎧を着た白金の髪の少女と会話をしているのが、

遠くからでもローグレー導師にはわかった。


 遠いため会話の内容は聞き取れないが、

『彼女』は先導している黄色の髪の貴族に囲われているようだと、

ローグレー導師はそれを見て、そう受け取った。


(男性だと聞いていたが、その時点で偽の情報を掴まされていたのか!? )


 いつ、どこで、誰が、それもわからず、ただ歯がゆい思いをさせられ、


(過激派め……許さんぞっ!! )


 ローグレー導師は怒りに震えながらも、宿を探しにその場を後にした。





 犬の魔物の群れは、そのすべての個体の口元から 血が垂れていた。

群れの後方には無残にも壊された村があった。


 魔物の群れは変わらずに、西へと進路を取り続けていた。

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