第51話 ミザリー

 体調不良でぶっ倒れて、夢から覚めたら、

起きるまでずっと裸の女性と抱き合って眠っていた。


 これなんてエロゲ?


 薄黄色なサラリとした髪にパチリとした瞳、

スラッとした鼻立ちに、小さな唇がニコリと笑んでいる。


 それを間近で、しかも裸で抱き合いながら、おれは見ている……


 状況はわかったけど、なぜこうなっているのかがわからない。

とにかく、照れや恥ずかしさで顔が赤くなる。



「あぁ、まだお熱はあるの……ありますね。」

(ちょっ!? )


 彼女は片手、手のひらをおれの額に当てていたが、

おれはそれどころじゃない。


 見たいような見ちゃいけないような、

視線は心配そうにしている表情か、はたまた下に広がる肌や双丘か。

 視線と一緒に体が少し震えてしまう。


 体調は崩していても、男としてドキドキしてしまう自分が情けない。


 目のやり場がなくて、目を閉じてジッとしていることしかできなかった。



 くそっ、ドキドキするし、この人 誰なんだよ……



「ソーマ様。」

(は、はい……)


 声は出ないから思うだけの返事をして、

恐る恐る彼女の顔に視線を向けた。


 体をジロジロ見ちゃってたから、嫌われたかな……嫌われるよな……


「怖いものは何もありませんよ。」

(えっ? )

「屋敷におられる間、ミザリーがお世話させて頂きますからね? 」


 額に当てた手で頭を撫で、その手で鼻根はなねから下瞼したまぶたへ、

顔を濡らしていた涙を、彼女は親指の腹で拭い上げて取っていた。


 夢の中だけじゃなくて、おれは実際に泣いていたのか……


 ミザリーと名乗る彼女の動き優しさで、それに気づかされた。



 カーテンの隙間のガラス窓から見える外はもう夜で、

室内も薄暗く、けれど彼女の髪色微笑みが月明りのように優しかった。



「それと、なんとお詫びすればよろしいのか……私のせいで……」


 ―― っ!?


 ミザリーさんの言葉で、おれはハッとなった。


 この人、オイルマッサージの時にジョンを呼びにきたメイドさんだ。


 たしかマッサージが終わったら、

按摩師の人たちに報酬を支払うように言われてたな。


 ってことは、寝てるおれをそのまま、ほったらかしにしたのって……


 そう思うと――



 ―― いや、いいや。



 按摩の途中から寝てたのはおれだし。

他人に責任押し付けて『自分は悪くない』なんて言えないしね。



 さて、声出ないから、どう伝えたら良いものか……


 伝え方はわからないけど、とにかく、おれの涙で汚れた彼女の手を取って

頬に当てて、頬擦りして微笑んで見せた。


「……ソーマ様……なんとお優しい……」


 伝わった……かな?



 彼女はしばらく目を閉じて、じっとしていたけど、


「では、私は皆さまに、目を覚まされたことをお伝えしてきますので。」

(は、裸っ!? )


 おれの頬から手を放し、抱き合った状態から離れ起き上がった。


 おれはベッドから起きる彼女の裸体を

なるべく見ないように仰向けになり、


(うぅ……)


 少しだけ気は晴れたけど、

体の不調が思い出したようにずっしりとのしかかっていた。



 その間にミザリーさんはメイド服を着て、


「では、すぐ戻りますので。」


 会釈えしゃくして部屋を出て行った。



 あー……こっそり、着替えてる後ろ姿でも覗けば良かったかな。

なんてちょっとだけ、思ってもいない後悔をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る