第38話 彼を助けるために

「焼き尽くせ! 灰燼乃波かいじんのなみ!! 」

「叩きつけよ! 暴撃ヶ風ぼうげきがかぜ!! 」


「―― 狩らせてもらうわ!! 」


 シアン、ブラウ両名の杖の先から凝縮された魔力からなる魔法が放たれ、


 アルテナは ぐっと姿勢を低くして力を溜めると、

剣を横に構えて黒い魔物へと飛び出すように駆けだした。



 シアンが放つ炎の球は一個が二個、二個が四個と増殖し、

それが膨大な数に増えた途端 集合し、

巨大な一個へと姿を変えて魔物へと迫る。


 ブラウが放つ風の球は一定距離から上空へと上がり、

まるで重力のように真下へと突風を圧しかけていった。



 大鷲と狼とが混合した魔物は翼で空へ飛ぶこともできず、

風の圧力により膝をついたところに、シアンの放つ炎の球が直撃した。


 直撃した炎の球は本来 衝撃により周囲へと飛散するはずであったが、

ブラウの魔法により防止され、かつ、風に煽られて火柱へとなった。



 火柱が消えた後、煙とともに生物の焼け焦げた匂いが漂ってきていた。



「やった……」


 シアンはその光景に喜色と、呆然と呟いていた。


 だがそれで警戒を解くブラウとアルテナではなかった。


「でしょうねぇっ!! 」


 煙の中から駆け出してきた黒い魔物の姿にアルテナは叫ぶ。



 横へと薙ぐアルテナの剣を、魔物はカギ爪で受け止めた。


 ブラウやシアンの魔法を受け、体毛や皮膚が焼けてはいたが、

仕留めるまでには至っていなかった。





「う、うーん……」


 気が付いたら、おれはさっきまで寝てたみたいだった。


 いや、寝てたのか?


 スイッチを切り替えたみたいに、今は意識がはっきりとしている。


 寝ぼけまなこの目頭をちょっとこすって周りを見ると、

黒い化け物とアルテナたちが戦っていた。



 ……なんだ黒い化け物 あれ は……



 化け物っていうかアレは……グリフォン?

グリフォンって鳥の尻から狼の体が出てたっけ? 何か違うよなぁ?


 ……なんて、のんびり考えている場合じゃない。


 気を失っている間に大惨事になってるじゃないか……



 冒険者や村の人たちは軒並み殺されちゃってるし、

未だに森の火事は治まってない。

 血と肉の焼ける嫌な臭いがしているし、思わず顔をしかめてしまう。



 アルテナが魔物と踊るかのように戦っている。

ブラウさんとシアンさんが巣の前方で、様子を見守っている。


 魔法は? と思ったけど、アルテナとグリフォン(? )の戦いに、

アルテナが巻き込まれる可能性があるんだろう……



「ととっ……」


 彼らに近づこうと思ったけど、

思ってる以上に足が震えてふらついて、四つん這いになってしまった。


 直前まで、殺されそうになっていたのを思い出した。



 だから、まだ体は怖くて震えてるんだ……



 アルテナが剣を振る。魔物は避けたり受け止めたりしている。

魔物が腕を、ツメを振るう。アルテナは避け続けていた。


 けれど体格に差があり過ぎて、武器の長さにも差があって、

このままじゃアルテナが不利だっ!



「ちぃっ!? 」


 下から救い上げるように振るわれたカギ爪に、

後ろへ反るように避けたアルテナの額当てが触れ、割られて壊された。



「アルテナぁっ!! 」


 それを見て、思わず声を張り上げてしまった。


 全員の視線が、おれに向いて集まっていた。





 ソーマの声に、アルテナは一瞬 意識を魔物から外してしまった。


(やられるっ!? )


 と、思ったアルテナだったが、黒の魔物からの攻撃は来なかった。



「――っ、逃げてっ!! 」


 その一瞬の隙に魔物は標的を変え、巣へと走る。



 標的は――



「ぐっ!? 」「きゃあっ!? 」


「――っ!? 」



 ―― ソーマだった。



 翼を広げ狼の足で駆けせまって来る魔物。


 シアンを魔物の進路上から押しのけ、剣と盾を構えたブラウだったが、

虫を払うかのような腕の一撃を受け、シアンとともに木へと殴り飛ばされた。



 そして四つん這いの状態だったソーマの目の前に、

大鷲と狼の混ざった黒の魔物が立ちつくしていた。





(あ、殺される。)


 おれは目の前に立つグリフォンに、そう思った。


 今の状況で、自分には何もどうすることもできない。

グリフォンが手を伸ばしてきても、体が震えて言う事を聞かない。



 頭上を、視界一面にカギ爪が映る。



 どうせなら一思ひとおもいに、楽にしてくれないかな……

なんて思って、目を閉じた。


 皆には悪いけど……



 ん?



 ぐりぐりと頭を撫でられた。

力の加減が下手で痛いんだけど、これは……?


 手が離れ、顔を見上げるとグリフォンと目が合った。

グリフォンは短く鳴くと、用が済んだとばかりに背を向けていた。



 もしかして……あの母鳥?


 おれは今になって、あの大鷲と狼の黒い魔物  グリフォン  が、

もとは緑色の大鷲の魔物  母鳥  であることに気づいた。



「ソーマ、今助けるからねっ!! 」


 視線の先にいるアルテナが、剣を構え直し、

グリフォンは数歩前に出て、翼を広げ、咆哮を放って威嚇をした。

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