第38話 彼を助けるために
「焼き尽くせ!
「叩きつけよ!
「―― 狩らせてもらうわ!! 」
シアン、ブラウ両名の杖の先から凝縮された魔力からなる魔法が放たれ、
アルテナは ぐっと姿勢を低くして力を溜めると、
剣を横に構えて黒い魔物へと飛び出すように駆けだした。
シアンが放つ炎の球は一個が二個、二個が四個と増殖し、
それが膨大な数に増えた途端 集合し、
巨大な一個へと姿を変えて魔物へと迫る。
ブラウが放つ風の球は一定距離から上空へと上がり、
まるで重力のように真下へと突風を圧しかけていった。
大鷲と狼とが混合した魔物は翼で空へ飛ぶこともできず、
風の圧力により膝をついたところに、シアンの放つ炎の球が直撃した。
直撃した炎の球は本来 衝撃により周囲へと飛散するはずであったが、
ブラウの魔法により防止され、かつ、風に煽られて火柱へとなった。
火柱が消えた後、煙とともに生物の焼け焦げた匂いが漂ってきていた。
「やった……」
シアンはその光景に喜色と、呆然と呟いていた。
だがそれで警戒を解くブラウとアルテナではなかった。
「でしょうねぇっ!! 」
煙の中から駆け出してきた黒い魔物の姿にアルテナは叫ぶ。
横へと薙ぐアルテナの剣を、魔物はカギ爪で受け止めた。
ブラウやシアンの魔法を受け、体毛や皮膚が焼けてはいたが、
仕留めるまでには至っていなかった。
*
「う、うーん……」
気が付いたら、おれはさっきまで寝てたみたいだった。
いや、寝てたのか?
スイッチを切り替えたみたいに、今は意識がはっきりとしている。
寝ぼけ
黒い化け物とアルテナたちが戦っていた。
……なんだ
化け物っていうかアレは……グリフォン?
グリフォンって鳥の尻から狼の体が出てたっけ? 何か違うよなぁ?
……なんて、のんびり考えている場合じゃない。
気を失っている間に大惨事になってるじゃないか……
冒険者や村の人たちは軒並み殺されちゃってるし、
未だに森の火事は治まってない。
血と肉の焼ける嫌な臭いがしているし、思わず顔をしかめてしまう。
アルテナが魔物と踊るかのように戦っている。
ブラウさんとシアンさんが巣の前方で、様子を見守っている。
魔法は? と思ったけど、アルテナとグリフォン(? )の戦いに、
アルテナが巻き込まれる可能性があるんだろう……
「ととっ……」
彼らに近づこうと思ったけど、
思ってる以上に足が震えてふらついて、四つん這いになってしまった。
直前まで、殺されそうになっていたのを思い出した。
だから、まだ体は怖くて震えてるんだ……
アルテナが剣を振る。魔物は避けたり受け止めたりしている。
魔物が腕を、ツメを振るう。アルテナは避け続けていた。
けれど体格に差があり過ぎて、武器の長さにも差があって、
このままじゃアルテナが不利だっ!
「ちぃっ!? 」
下から救い上げるように振るわれたカギ爪に、
後ろへ反るように避けたアルテナの額当てが触れ、割られて壊された。
「アルテナぁっ!! 」
それを見て、思わず声を張り上げてしまった。
全員の視線が、おれに向いて集まっていた。
*
ソーマの声に、アルテナは一瞬 意識を魔物から外してしまった。
(やられるっ!? )
と、思ったアルテナだったが、黒の魔物からの攻撃は来なかった。
「――っ、逃げてっ!! 」
その一瞬の隙に魔物は標的を変え、巣へと走る。
標的は――
「ぐっ!? 」「きゃあっ!? 」
「――っ!? 」
―― ソーマだった。
翼を広げ狼の足で駆け
シアンを魔物の進路上から押しのけ、剣と盾を構えたブラウだったが、
虫を払うかのような腕の一撃を受け、シアンとともに木へと殴り飛ばされた。
そして四つん這いの状態だったソーマの目の前に、
大鷲と狼の混ざった黒の魔物が立ちつくしていた。
*
(あ、殺される。)
おれは目の前に立つグリフォンに、そう思った。
今の状況で、自分には何もどうすることもできない。
グリフォンが手を伸ばしてきても、体が震えて言う事を聞かない。
頭上を、視界一面にカギ爪が映る。
どうせなら
なんて思って、目を閉じた。
皆には悪いけど……
ん?
ぐりぐりと頭を撫でられた。
力の加減が下手で痛いんだけど、これは……?
手が離れ、顔を見上げるとグリフォンと目が合った。
グリフォンは短く鳴くと、用が済んだとばかりに背を向けていた。
もしかして……あの母鳥?
おれは今になって、あの
もとは
「ソーマ、今助けるからねっ!! 」
視線の先にいるアルテナが、剣を構え直し、
グリフォンは数歩前に出て、翼を広げ、咆哮を放って威嚇をした。
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