第30話 追跡
おれ、山のトンネルから出てきた時には柱みたいな山が目立つくらいで、
他にはあまり意識していなかったけど、
小高い丘やら森やら、川やら、眼下には色々と新たな発見があった。
一部、紫色に変色したみたいな森が見えたけど、
あれが魔力植物ってやつかな?
あの書きなぐられたような地図も大まかには合ってるみたいだな~
魔物に捕まってるって現実さえなければ、
この遊覧飛行も楽しめるのになぁ~~
……で、おれの荷物を掴んでいるこの鳥の魔物は、
どこに行こうというのかね?
見上げるけど魔物の体しか見えなくて、顔すら見えない。
「はぁ……誰か助けてくれぇ……アルテナぁ……」
我ながら情けなく喉から出た声は、
向かい風の雑音に掻き消されて自分の耳にしか残らない。
空を飛んでいる今、意識しないようにしているけど怖いんだよ。
何かがあってこの高さから落とされたらどうしよう。……とかさぁ……
あ、だんだんと高度が下がってきてる。
巣の近くにでも来たのかな?
うおっ!? 木の先端がっ!? 怖ぇよぉ……
*
いくら私が一対一で魔物を相手に戦えたとしても、
ひたすら飛んで逃げる魔物を追いかけるのは無理があったか……
アルテナは草原を、丘を、平坦な道を突っ走り、体力の続く限りに走ったが、
ついにはその限界に達して膝に手を当て 肩で息をしながらも、
視線だけは下を見ることなく上空へと向け続けていた。
アルテナの見ていた限りでは、大鷲の魔物は一直線に飛行し続けていた。
すでに視界から遠ざかってしまっているが、
それでも魔物の進行方向は変わらないと感じていた。
アルテナは今、自分がどこにいるのかわからなくなってしまっていた。
置いてきたあの二人が自分のように、
まっすぐに追いかけてきているかもわからなかった。
だがアルテナは、周囲を見回して現在地の確認をしようとは一切思わなかった。
そんなことをする暇があれば、一秒でも速く体力を回復させたかった。
視線を動かして魔物の進行方向を間違えてしまってはいけない。
ソーマが今、どんな状況でどこにいるのか。
今までの経験から、彼だけで魔物を相手にできるとは思ってなかった。
「ソーマ……無事で、いなさいよ……」
顔に浮き出た汗を手でぬぐい落しながら、アルテナは歩き出した。
疲労はまだ回復できていない。
けれど先を急ぐ気持ちが彼女の足を動かしていた。
*
ブラウは冒険者を辞してから街で過ごしている間に、
自身の勘や能力が鈍っていたことを改めて認識していた。
冒険や旅をするうえで必要な想定を、
更に
現実は、それを更に上回る事態に発展してしまっていたからだった。
ブラウは教え子であり義理の娘であるシアンの身を案じながら、
シアンは長年屋敷に引きこもっていただけあり戦闘には向いていない。
ならば代わりに守ればいい。魔物からも人からも。
外を出歩くこともないのだから体力もないことはわかっていた。
二人には申し訳ないが、この旅を通して体力を身につければいい。
魔物に遭遇すれば、四人で対処をすればいい。
あえて見晴らしの良いところばかりを選んで通っているのだから、
襲われることもそうないだろう。
だがしかし、こうなるとはブラウですら思ってもいなかった。
ブラウは何者かがずっと尾行してきているのに気づいていた。
あえて見晴らしの良い場所を選んだのには、それも含まれていた。
尾行を
襲ってくるなら返り討ちにすればいい。
老いても かつてのように力を振るえると感覚でわかっていたし、
若かりし頃とは違い、今は魔法をも扱うことだってできる。
最後尾のシアンの保護と、
遠くで見えない尾行の存在を意識していたからこそ、
上空から降りてきた魔物の存在に気づけなかった。
魔物の目的はわからない。だが彼が連れ去られてしまった。
尾行の目的はわからない。今もまだその存在を感じ取れている。
(ソーマ君。無事でいたまえよ……)
ブラウは彼の無事を祈りつつ、
尾行を警戒しながら シアンとともに歩き続けていた。
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