3 『母親の家』に連れられて

第29話 強襲 強奪

 おれ達はホルマの街を出て、西に進んでいた。


 地図の中心に描かれている、

塔か柱みたいな山の近くにある街を目指したほうが良いんじゃないかと、

おれもアルテナも思っていたんだけど


「ホルマの街から まっすぐドゥチラナカの街に向かうのは、

魔物や魔力植物の群生地帯に入ってしまう可能性がある。」


 というブラウさんの忠告もあって、

その地帯を避けるように進むためだった。


 まぁ用心するに越したことはないものな。


 それに行商や旅人がよく通る道へは、ちょっと遠回りになるらしいし。



「でも魔物だけじゃなくて魔力植物とかいうのもいるんですね? 」

「まぁ、魔物も魔力植物も『魔力によって変異した』と考えられているし、

新たな変異をした魔物たちも発生するかもしれないしね。」


 ―― 未知の発見もあるかもしれないね。


 ブラウさんは笑みを浮かべて そう応えていた。



 街を出て1時間くらい経って振り返った時にはすでに、

街の姿は完全に見えなくなっていた。


 なだらかな道をただ延々と歩き続けていただけなんだけども、

 空の青と草の生い茂った緑の地面とで成る風景は、

まるで田舎で見るような感じでもあり、

異国の雄大な自然を見ているようで心が落ち着くし、


 これからどんな街や村に辿り着くのだろうかと、期待に胸が踊っている。


 ここが異国どころか、異世界なのはわかってるんだけど、

元居た世界とどう違うのか、ってのも気になるんだよね。


「ま、待って……はぁ、くださぃ……ふぅ……」

「「……」」


 後方、おれ達より遅れて杖を突いて歩くシアンさんは、

もう息が上がっていた。


 そりゃそうだろうね。体力があるように見えないもの。

それに胸も大きいから重量あるだろうし、足元見えにくそうだし。


 ……そういや、この世界の下着ってどうなってるんだ?

ブラなしで大きな胸を支えるのって、ツラいんだろうし……


 アルテナを見る。


 ブラは必要なさそうだもんねぇ。


 それにしても、あの夢はいったい何だったんだろうか。

悪夢なのはまず間違いないけど。

 あのグロい場所といい見たこともない魔物たちといい、寝起き最悪だったよ。


 ここらへんは見晴らしが良くて

魔物も賊も出て来なさそうだから、まだいいけど……


 やっぱり魔物だなんだと言っても生物だから、外敵とか気にするんだろうか?


 シアンさんが追いつくのをのんびり待っていると、


 シュッという音とともに 重力と浮遊する感覚がおれを襲い、

一気に地上から引き離されて―― ええええぇぇぇぇっっ!?





「そ、ソーマ!? 」「ソーマ君!? 」「ソーマさん!? 」


 宙吊りになったソーマを見上げ、アルテナ達は驚きに声を上げた。


 彼は全身に緑色の羽毛を持つ大鷲おおわしに、

魔物のかぎ爪に荷物を掴まれているせいで、身動きが取れなくなっていた。



「――っ、――! 」


 ソーマも現状に気づいたようで、

遠目から見てもわかるほどに顔を青ざめさせ、声も出ないようだった。


 ただ彼も、荷物を掴み 落ちないようにすることだけで精一杯だったようだ。



「今助けますからっ! 魔力よ集え――」


 シアンがそういうと杖の先端を大鷲の魔物に向けて、呪文を唱え始めたが――


「待って! 彼を巻き込む気っ!? 」

「――っ!? 」


 ―― その可能性があったから、アルテナは中断させた。


 アルテナはそれだけではなく、

 攻撃を仕掛けたことによってあの魔物がどう動くのかの予測がつかず、


(あの高さから彼が落ちるのだけは避けなければいけない――)


 ――とも 判断していた。



「ソーマぁっ!! 」


 大鷲の魔物は地上の三人を見下ろしたかと思うと、

大きく翼をはためかせて飛び去って行ってしまった。


 その方向は奇しくも、自分たちがこれから進もうとしていた方角と

同じであったのは幸運であったのか否か……。



 アルテナは一も二もなく駆け出し、魔物の後を追った。

驚き、声をかける二人の言葉も今の彼女には聞こえてはいなかった。





 初めての旅は、本で読むより思った以上に苦しいんですね……

目的地まで、ただただ歩き続けるだけで汗もかくし疲れるし……


 お師匠様は元冒険者だけあって旅慣れていますし、

アルテナさんも体調を崩していた時が信じられないくらい。

 それにソーマさんも、あれだけ大きな荷物を担いで歩いていても

平然としていたのには驚きでした。



 私、このままで旅についていけるんでしょうか……?


 そう不安に思っていたんですけど、

突然空遠くから現れた魔物が、ソーマさんをさらって行ってしまったんです。


 彼を助けるために、アルテナさんも一人で飛び出して行ってしまって……


 お師匠様は私の身を案じて、彼の救出をアルテナさんに任せながらも、

私達も駆けつけられるよう先に進むことを言ってくれました……



 ――待って! 彼を巻き込む気っ!?


 さっきの言葉が耳に残ってます。

私、何も考えずに魔法を使おうとして……


 はぁ、情けないなぁ私……

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