穢多や非人に対する差別の根源である病気の理解を深めさせたいところだ

 さて、以前は弾左衛門が統括管理していた、身分外の穢多や非人と芸能民や医者などは取りまとめる長が分けられて、芸能民や医者に関しては差別的な意識はだいぶ取り除かれたと思う。


 しかし穢多や非人は、いまだにそういったものから解き放たれていない。


 西洋でも屠殺や処刑を行なうものは差別・区別されたが、日本でそういった傾向が強いのは日本独自の”穢れ思想”が関係しているからだ。


 そして穢れとはなにかといえば簡単に言えば病気のことだ。


 穢多は死んだ牛馬の解体をするために炭疽症や蝿が媒介する病気などにかかりやすいし、非人はもともとは皮膚病患者を集めたものが呼ばれたことで、双方とも病気を持っており、一緒にいるとそれが伝染すると考えられていたのだな。


 特に畜産が重要な位置を占めるヨーロッパでは長い間この炭疽症に苦しめられてきたこともあって、牛や羊が炭疽になると急死することが多く、1度病気の出た農場からは何年にもわたって病気が発生してしまうこともあって恐れられていたのだが、これがキリスト教と組み合わさると神罰とか魔女の呪いとかという話になってしまったりするわけで、血液や内臓などの腐敗しやすい物は蝿を呼ぶこともあって、市場でも食肉を扱う部分だけは離れていたりもしたし、生きた山羊・羊・豚などを商う者は登録が必要とされ、臓物などの廃棄物の処理が問題となって、特別の畜殺場を設け廃棄物は川の中ほどに干潮時を見計らって投棄しなければならなかったりもした。


 ちなみに穢多はきつい年貢もなく牛馬を解体した後でみんなでして、鍋を囲んで食べたりすることが普通に行われていたが、そのため穢多のほうが栄養状態もよく、農民のほうが食料状態が悪かったのも、農民に反感を抱かせ憎悪をつのらせる理由になったとは思うけどな。


 穢多が困窮したのは明治以降で江戸時代はいい暮らしをしているとむしろ思われていたんだ。


 そして非人だが江戸時代でも病人として非人に落とされたものはいるが、それは多くなく親などがもともと非人であったものや兄弟姉妹同士などの近親相姦的密通者や心中の生き残り、摘発された私娼等に適用されたが、もっとも多いのは年貢の村請けが進行するに伴い、病気や災害などにより年貢を皆済できない百姓が村の人別帳から外れ、無宿非人となってしまったり、商家の奉公についていけなくて逃げ出したパターンだ。


 これは取締の対象となっていて、捕まった野非人は元の村の家などに返されるか、抱非人に編入されて火や水の見回りなどをさせられた、村や役目の脱走が3回に及ぶと働く意思なしとみなされて死罪にされた。


 要するに非人に対しては働くことが出来るのにそれをしないで他人の情けにすがろうとするものとみなされていることもあったりする。


 江戸時代では働いたら負けなどと言っていたら、村などから追い出されて、最悪殺されてしまうのだな。


 当然この時代は心身の障害によって出来なくてもしょうがないという考え方もないわけだが、明らかに重い障害の場合は小さいうちに死ぬか間引かれてしまうことがほとんどだろう。


「単純に働く気がないとかそういう奴は庇い立てできねえが、うつ病で動けないやつも結構いるんだろうな」


 無論この時代にうつ病とかノイローゼという考え方はない。


 それどころか21世紀でもうつ病は甘えとか言われてしまったりするくらいだしな。


「ともかく穢多や非人の穢れは近づいたり触れれば伝染するという類のものではないことは伝えていくか」


 俺はそれをわかりやすくするため菱川師宣に頼んで挿絵入りの本で示すことにした。


「というわけで今度は穢多非人の穢れは、簡単に伝染したりするじゃないことを書いてほしい」


「わかった、金を払ってくれるならそれもやるぞ」


 これで少しは差別などがなくなってくれればいいんだがな。

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