楓を正式に格子太夫に昇格させたんで挨拶も道中を派手にやらせたぜ
さて、松の内が終われば揚屋や引手茶屋に遊女たちが挨拶に回ることになる。
これを道中初めと言うが、その前に俺は楓にあることをつげていた。
「楓、お前さんを今年から正式に格子太夫に昇格させるぞ」
楓は驚いていたが頭を下げて返答した。
「ありがとうございやす。
その分もっともっと頑張りやすよ」
見習いの振袖新造だった楓もとっくに格子に加わっていたが、売り上げもいいし茉莉花が抜けた格子太夫に正式に昇格させることにしたんだ。
「じゃあ太夫道中も派手にやらないとな」
「あい、よろしくお願いしやす」
格子と格子太夫の間は大きな壁があり、格子太夫は格子に立たないで基本は予約だけの相手の正式な太夫ではないが扱いとしてはほぼ太夫とおなじになる。
つまり格子太夫になるということは、店の看板を背負うということでもあるのだ。
そして正月の挨拶道中で正式なデビューをアピールするわけだな。
正式に楓の世話をする禿を二人選んで、その他見習いの新造も顔見せのために道中に行列のように参加させる。
「道中の時は決して横を見たりせずに、真っ直ぐ前を向いてゆっくり進むんだぞ」
「あい、わかりやした」
格子はお馴染みさんなどがいた場合には、そちらをむいて横を向いて挨拶しても良いが、格子太夫や太夫はそのように道中で客に対して媚びを売るようなことをしてはいけないのだ。
あれこれとやることやっては駄目なことを、俺や母さんや初代藤乃に叩き込まれつつ、挨拶道中の当日を迎えた。
挨拶道中を見ようと見物人が押しかけて、路上に莚敷いて座りこんでいるものすらいる。
楓はシャン、シャンと金属製の棒を鳴らしながら歩く金棒引きを先頭に煙草盆、煙管箱、煙草入れを抱えた禿を三人前に従えて、名が入った箱提灯を下げた提灯持ち、歩く際に肩を貸す肩貸の肩に右手を乗せ、長柄の和傘をくるりと回しつつ傘を支える傘さしといった男衆を周りに従え、振袖新造達を後ろに従えて、最後に番頭新造まで長く連なる行列をつらつらと三枚歯の重くて高い黒塗下駄でしゃなりしゃなりと揚屋へ向かい始めた
「お、いい感じだな」
普通に歩けば10分もかからない所を、一時間近くかけてゆっくり歩いて無事道中を終えた楓にも予約が集まったのは言うまでもないが、今まで馴染みだったやつが金がなくて遊べなくなることもあったりする。
「まあそればかりはしょうがないよな」
安く遊べる振袖新造の頃からの馴染みが、金がなければ遊べなくなるというのも悲しいが、大名様相手の大見世はそういう場所でもあるんで客の方にも割り切ってもらうしか無い。
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