水戸の初代黄門様の徳川頼房とその家族
さて、霜月(11月)の終わりの今日は赤小本や定本の応募締め切りの期日だ。
選考はこれから行うわけだが年末年始はそれなりに忙しいしちょっと大変かもな。
身分や性別職業を問わずに募集した結果かなりの数の作品が俺の手元に届いたのは実に喜ばしいことだ。
江戸時代初期において文化が花咲いたのは元禄の1688年から1704年頃と言われるがそれは明暦の大火以降大川の東にも広がっていった江戸の街の人口がどんどん増えていったことによる先の不安を気にしなくても良い景気の良さがその後も続いたからだな。
そして今日は水戸の若様の家族が水戸藩の奥向きで書かれた赤小本をもってやってきている。
そしてその家族とは現水戸藩藩主の徳川頼房公であったりする。
「はっはっは、どれもこれも力作だと思うがどうかね」
中々豪放磊落な御仁らしい。
「そうですね、やはり教養のある方の多い大奥や藩邸の奥女中の皆さんがかいたものは中身がしっかりしているように思います」
「うむ、そうであろう」
彼は先代将軍の家光公の親政時に水戸にほとんど戻らず幕府の政治を支え続けたことからその後水戸藩主は参勤交代を行わず江戸常住である定府となったのだが、家光公は頼房公を最も頼りになる身内として江戸に常住させたらしいので水戸藩主が俗に“副将軍”と称されるようになったのはそのためだったりする。
そして水戸藩の跡継ぎは水戸の若様こと光圀公なわけなのだが、彼は長男ではなくて上には
だがその理由に関して実は彼の母の身分が低く正式な側室ではないからだったようだ。
しかし、水戸藩家臣であり頼房公の乳母夫婦であった三木之次夫妻により匿われた後、秘密裏に出産させ、徳川頼房に隠したまま江戸で育てられた。
その後光圀の側室が懐妊するとやはり堕胎を命じられたが三木之次によって、密かに三木邸で生まれたのだな。
そして頼重公と光圀公の間には異母兄弟で夭折した次男の亀丸や四男で常陸額田藩の初代藩主である
しかし、光圀公が寛永9年(1632年)に水戸城に入城し翌年の寛永10年(1633年)に光圀は世継ぎに決定したのに対して、頼重公は同じく寛永9年(1632年)に水戸の藩邸に入るものの寛永14年(1637年)まで、父である頼房公に御目見できず、水戸藩の嗣子に同母弟の光圀公が決定し、翌年の寛永14年(1638年)に右京大夫を名乗り将軍徳川家光に御目見したが、その際は光圀公に次ぐ次男の扱いであった。
これに対して水戸の若様はかなり悩んだらしく実際に水戸藩28万石の第2代藩主となるときに兄の長男・松千代を養子にすることを条件にしている。
水戸の若様が吉原で遊び回っていたのは実の子供をなるべく作らないで、兄の子供を養子にするためでもあったらしい。
「うむ、父上、この鮭のばたあむにえるはうまいですぞ」
いや、最近の若様は食い物が目当てな気もするけど。
それに頷いてる徳川頼房公もいい年なんだけどな。
とは言え鮭というのは中々健康効果が高い魚でもあるんだけど。
「鮭は水戸の名産品であるからな。
もっと美味いということを広めてくれると助かるぞ」
実際この時代では鮭は水戸藩領内の那珂川以北でしか取れなくなっている。
なので結構高価なものだったりする。
「かしこまりました、万国食堂の献立(メニュー)に加えられるよう考えてみます」
そして水戸の若様がもう一人の男性に言う。
「兄上もどんどん食べてください。
ここの物は美味ですぞ」
「う、うむ、ではいただこうか」
この男性は讃岐高松藩初代藩主である松平頼重(まつだいらよりしげ)公で若様の兄上。
でちょっと困ったことがあるのだが。
「父上私も頂いてよろしいですか?」
そう松平頼重公に言うのは水戸の若様の実子の鶴千代様だったりするのだが、水戸の若様はその子供をまるでいないように扱っているのだ。
「うむ、遠慮なく食べなさい」
何しろ彼は承応元年(1652年)に生まれたのだが翌年に高松に送られて頼重公の高松城内で育てられたし、そのまま讃岐高松藩の第2代藩主となるのである。
本来であれば儒教思想を反映して自分は高松藩と兄が水戸藩藩主になるべきであると頑なに信じていた水戸の若様なんだが、子供を巻き込むのはどうかなと思うんだけどな。
武家というのは色々面倒で大変そうだ。
そう言ってももちろんそこに口を挟むことはできないので俺は宴に必要な膳と酒を揃えて本を受け取ったけど。
「ちなみに皆様の中で最も素晴らしいと思った作品はどれでしょうか?」
「うむ、それはだな……」
徳川頼房公や若様兄弟の推しの本を万が一選考で落としてしまったらめんどくさいことになるだろうし予め教えてもらっておくことにした。
もちろん中身のレベルが低ければそれを承知で落選もあり得るが、流石にそこまで身内びいきではないことを祈っておこう。
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