対決!大小神祇組四天王対三河屋用心棒

 さて、翌日のことだ。

 大小神祇組の連中は昨日と同じように野犬を追い立ててこっちの方へ向かってきた。


「はっはー、犬畜生めが、無様に逃げ回れやぁ」


 しかし、今日は犬が切り殺される前に唐犬組(とうけんぐみ)の町奴衆が前に出て行った。

 そして犬を逃がすと大小神祇組の連中にほえた。


「おうおう、手前らは長兵衛親分をだまし討ちしておきながらのお咎めなしの狼藉三昧は許せねえ、

 しかし今日こそは手前らも年貢の納め時よ」


 大小神祇組は哄笑する。


「はっ、俺たちに年貢を納めてくれるのかい?

 こちとら公方様の尻持ありよ」


 お互いにガンを飛ばしあう旗本奴と町奴たち。


「んだとこら!」


「やんのかこら!」


 双方が得物を抜いてにらみ合う。


「おう、ここじゃせまくてやりにきぃ。

 場所を変えるぜ」


「おう、吐いたつば呑むんじゃねえぞ」


 柄の悪い連中がどかどかと店から離れていく。


「ふう、店の前での斬り合いにならなくてよかったぜ」


 そんなの事考えていたら、特に派手な格好をしたやつらがまたやってきた。

 その数は6人。


「ふん、町奴どもは追い払えたようだな」


「ええ、残ってるのは女の用心棒だけのはずですぜ」


「くく、美人の女剣士か、楽しみだな、いろいろと」


 下卑た笑いを浮かべたそいつらがこっちにやってきた。


「おい、用心棒の女、出てきやがれ」


 その言葉を聞いて佐々木累がすくっと立ち上がり出て行った。


「貴様らが大小神祇組が頼光四天王になぞらえた渡辺綱・坂田金時・碓井貞光・卜部季武、それに水野十郎左衛門に保昌独武者か」


 そいつらは下卑た笑いを浮かべた。


「おう、そうだぜ。

 女の癖に剣を振るうなんざ生意気じゃねえか。

 痛い目を見たくなければおとなしく降参するんだな」


 そこに店から出て行く人影。


 小兵が一人、黒い肌をした巨漢が二人。


「おっと待ってもらおうか、用心棒は一人じゃないぜ」


「HAHAHA、そのとおりね」


「私たちも用心棒だよ」


 水野が表情をゆがめた。


「なんでい、てめえらは」


 身の丈5尺(150cm)程の小兵が答える。


「俺は関口新心流(せきぐちしんしんりゅう)の小杉九十九(こすぎつくも)。

 義によって助太刀いたす」


 そして黒い肌の身の丈6尺(180センチ)以上ある巨漢二人も答えた。


「私ジャックあらため佐々木助三郎ネ」


 こっちは一間(180cm)ほどの長さの棒を持っている。


「私ジョンあらため渥美格之進ネ。

 ボスの命令で助太刀するネ」


 こっちは素手だ。


 二人とも全盛期のマイク・タイソンのようなごっつい筋肉をつけているし、荒場にも慣れているのだろう。


 黒人二人は徳川光圀の家来で、元は長崎の出島のオランダ人のハウスキーパー奴隷として使われていたところを徳川光圀が買ったと聞いている。


 そして二人は、実は水戸黄門における助さん角さんのモデルだったりする。


 水野十郎左衛門とその家来たちは笑った。


「は、チビに炭まみれのでくの坊か、おう、おめえら叩きのめせ」


「へい!」


 四天王と称された4人が刀を抜くと斬りかかってきた。


 佐々木累は刀を抜くと迎え撃った。


「皆さん気をつけ……え?」


 まず黒人の佐々木助三郎に斬りかかっていった碓井貞光がカウンターの棒で”ドゴオッ”っと胸倉を突き倒されて吹き飛び、もう一人卜部季武は刀をあっさりかわされると、”バキィ”と目にも留まらぬ速さのハイキックで蹴り飛ばされて目を回して伸びてしまった。


「はっはっは、シンバ(ライオン)を狩るのに比べれば楽勝ね」


「まあ、そのとおりね」


 まあ、黒人の狩猟民族は槍一本だけでライオンを狩れてやっと一人前という過酷な世界だからな。


 そりゃそんなことをずっと続けてきたら格闘やスポーツで白人や黄色人がかなわないわけだよ。


 まあそれでも鉄砲を持つ白人につかまったりはするわけだが、どちらかというと黒人の富裕層が貧民層を奴隷として売っている例のほうが多かったりするらしい。


「ふっ!」


「ぐえ!」


 小杉九十九も坂田金時の刀を振るう腕を掴み取って、地面に投げ倒すと水月へこぶしを入れて気絶させた。


 そして渡辺綱と対峙していた佐々木累だが……この二人はなかなか動けないでいた。


「こいつ、できるな」


「そちらもな」


 日本刀を日本刀で受けるとか、つばぜり合いのようなこととかは実際にはほとんど起きない。


 そのようなことをすれば簡単に刃こぼれを起こすし、刀が曲がって使い物にならなくなる場合がほとんど、下手すれば大事な刀が折れる。


 腕のある剣士がそれなりの名刀を手に入れようとすれば金も手間もかかるし、刃を研ぎなおしたとしても切れ味が戻るかわからない。


 じりじりと、距離が狭まり、先に動いたのは渡辺綱。


「きえええい!」


 綱は累の手首めがけて剣を振り下ろしたが、累はそれをかわし、逆に綱の手首を返す刀できりつけた。


「はああっ!」


「ぐああ」


 渡辺綱が太刀を取り落として、膝をついた。


「ち、役に立たないやつらめ」


 水野十郎左衛門と保昌独武者こと加賀爪直澄が思案していると、店のおくからまた一人、人物が姿を現した。


「若様、この中華饅頭もうまいですぞ」


「このワンタンとやらもいけますな」


 そしてフリーダムに食い散らかしている男が2名。


 店から出てきた男が水野十郎左衛門たちに向かって言った。


「いい加減、そのあたりにしておいたらどうかね?」


 二人は腰のものを抜いた。


「何だてめえは」


「俺たちを公儀の尻持と知っての事か?」


 その人物は眉をしかめていった。


「上様がそのようなことを許したことは無いと思うがのう」


「んだと?」


「ん?」


 そして言う。


「うつけ者めが、その方ら余の顔を見忘れたか?」


 そして印籠を取り出す格之進。


「この紋所が目に入らぬカ!」


 と。


 二人は驚愕する。


「何だと……まさか、お前は」


「と、徳川光圀?! なぜこんなところに?」


 そこへ駆けつけてくる大目付、目付けと徒目付、小人目付たち。


「その方ら潔くお縄につけ!」


「くそがぁ」


「私は扇谷上杉家の末裔の加賀爪直澄だぞ。

 お前たちこのようなことをして!」


 二人は取り押さえられて連れて行かれたし、転がっていた連中もお縄となった。


 そして時を同じくして、同日旗本奴の一斉検挙が行われ、鉄砲組(てっぽうぐみ)、笊籬組(ざるぐみ)、鶺鴒組(せきれいぐみ)、吉屋組(よしやぐみ)も一網打尽となった。


 その後、旗本奴の頭領たちは切腹、加賀爪直澄も切腹の上武蔵国高坂藩は改易となった。


 下っ端たちは斬首などになったようだ。


「これにて一件落着でいいのかね……」


 まあ、とりあえず面倒の元は無くなったと思うんだが。


 俺は佐々木累たちに頭を下げた。


「あんたらのおかげで店を守れたし礼を言うぜ」


 佐々木累はいった。


「いや、私はやつらのようなものが気に食わなかっただけだ。

 と、ところでだが、ひとつ頼みたいことがある」


「頼みごとか、無理難題じゃなければ当然受けさせてもらうぜ」


 少し顔を赤らめながら佐々木累はいった。


「う、うむ、私にも美人楼の施術を受けさせてほしいのだ」


「なんだ、そんなことならお安い御用だぜ。

 今日も予約が飛んでるから好きなだけ使ってくれ」


「う、うむ、ありがとう」


 笑った佐々木累は年相応の女に見えた。


 まあ、武家の娘だってきれいにはなりたいよな。


 そして、その姿に一目ぼれした小杉九十九と結婚するようになり、佐々木累のお家再興は無事かなうことになる。


 俺は佐々木累を美人楼に案内し、万国食堂に人が戻ったところで店の奥の座敷に水戸の一行を桟敷に上げて、食事を振舞いつつ俺は水戸の若様にお願いをすることにした。


「徳川光圀様、どうか俺のお願い事を聞いてはいただけませんか?」


 徳川光圀は俺に聞いた。


「うむ、内容によるがどのような物だ」


「はい、俺や万国食堂の料理人へ若様の家来の南蛮人や唐人に料理を習わせてはいただけませんでしょうか。

 そうすればもっと献立が増やせると思います」


 徳川光圀はうれしそうに手を打った。


「うむ、許す。

 私のために万国食堂の献立を思う存分増やすがよい」


 俺は深々と頭を下げた。


「はは、ありがとうございます」


 こうして俺は水戸藩所属の黒人の二人や徳川光圀に中国料理を教えた朱舜水からオランダの料理や中国料理を教わることになった。


 これで、うろ覚えの記憶から新しいメニューを作るのではなくて、この時代の南蛮料理や中国料理をちゃんと作れるようになるんじゃないかな。

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