風邪ひきはこの時代は致命傷になることもある

 さてこの季節は寒暖の差が激しい。

そのせいで喉を痛めたり風邪をひく人間がどうしても出てくる。

そして桃香が絶賛風邪ひき中だ、子供は体が小さいし免疫もまだ弱いからしょうがないが。


 熱を出しごほごほ咳をしてる桃香と一緒にいさせて、他の禿に風邪が移るとやばいので一旦俺の部屋に隔離したが、こういった病人を隔離できて寝泊まりできる入院設備も欲しいよな。

なにせ禿や新造は大部屋で雑魚寝だから、無理して一緒にいさせて、他の禿たちにも風邪が移ったら最悪だ。


「へくち!あうー、戒斗さま、すまんだぁ」


「おいおい、桃香。

 素が出てるぞ、言葉遣いは常日頃から気をつけるんだ」


「あ、あい、失礼しんした」


 ズビズビ鼻を垂らしてる桃香の鼻を紙でちーんしてやる。

それからおでこや首筋に濡らした手ぬぐいを当ててやりながら言う。


「まあ、こういうときは無理しないで濡れぬので冷やして

 一日寝てるんだな」


「あい、すいやせんす」


 それから焼いて焦げ目の付いたネギを刻んで手ぬぐいに包み、喉から胸の上に載せる。

こうするとネギから硫化アリルなどの匂い成分がでて効率的に吸引できる。

ネギの匂い成分には、消炎や殺菌効果と、神経を落ち着かせて睡眠へ誘導するする働きがある。

風邪を引いたら焼いたネギを喉にまくってのは正しいのさ。

尻の穴から突っ込むというのも、大腸からの栄養吸収は実は胃を介さないだけ有効であったりはするんだが、まあ、絵ヅラ的にもまずかろう。


 この時代には漢方薬は在る。

風邪を引いたら葛根湯というのもありなんだが、漢方薬は効く効かないが個人差が激しい。

漢方で考える風邪には、大きく分けて2つのタイプがあり、熱っぽい風邪と悪寒がする風邪。

これだけでも効果のある漢方薬は違う。

そしてこの時代における漢方薬は基本めちゃくちゃ高い。

時代劇なんかでも薬代が払えなくて大変な目に遭うシーンが多いが、単純に原材料が手に入りにくいことが多いからだ。


 この時代に安い解熱剤として利用されているのは内臓を取り除いて干したミミズを煎じたものだ。

俺は粉になったそれをお湯でとかして湯呑みにれて桃香に手渡した。


「ほら、これをのみなさい」


「あい」


 干したミミズは地竜と呼ばれ解熱作用のほかに、気管支拡張や血栓溶解、血圧降下などの作用があり風邪以外にも喘息などの治療にも使われている。

しかしまあ薬があるに越したことはないし今度富山の薬売りに来てもらうか。


「なんからくになったきがしんす」


「そうか、じゃあ後は一晩ゆっくり寝なさい」


「あい」


 桃香の咳もだいぶ止まったようだ。

穏やかな顔で寝ているな。

そして翌朝。


「だいぶようなったでありんす」


「おう、良かったな、念のためよもぎ茶を飲んどけ」


「あい、ほんいありがとうでやんす、戒斗様」


 ミミズの煎じたものは高熱を下げるには良いが、ある程度熱が下がってきたらヨモギやオオバコ、びわの葉などのお茶の方がいい。

まあ、もう大丈夫だと思うけどな。

気管支炎、肺炎、脳炎などにならないでよかったぜ。


 まあ、この機会に働いてるみんなを病気にさせないための施設を作るとしよう。

湯船につかる内湯とは別に、海藻蒸し風呂、よもぎ蒸しぶろ、びわの葉蒸し風呂を作る。

それと水風呂も作る。

蒸し風呂には高温によるウィルスに対する殺菌効果があり、血行を良くする効果もある。

海藻ぶろはミネラル分を、ヨモギには殺菌成分を、びわの葉に老廃物の排出効果が期待できる。

そして水風呂に入ると血管が収縮して血の巡りが良くなる。


 なにせ遊女はたいして運動をしないから運動不足で血行も悪い。

風呂と蒸し風呂というのはまた別なわけだが血行を良くして老廃物の排出を促進すれば病気にもなりにくくなるわけだ。

そして蒸し風呂に入った後に冷たい水風呂に入ると気持ちが良いんだよな。


 希望があれば客も別途料金で入っていいことにしようか。

金もかかっていることだしな。

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