第43話 オーガさんと街遊び。。。
「「────っ、見つけたっ!!」」
こちらに駆けつけた二人組冒険者の一人が、今度は逃がすまいとカオウさんに掴みかかった。
「やっと、捕まえましたーっ!!」
「……えっ?」
何が起こったのか分からない表情から、自分が今どういう状況なのかを理解したカオウさんが次に取る行動は予想が出来た。
まずいっ、止めないと!!
「……っ、きゃーーーっ!!」
「カオウさっ……ぶふぉっ!!」
掴みかかった冒険者と、それを振り払おうとした彼女の手の間に入り込んで、冒険者の代わりに吹き飛ばされる。
……今日はよく殴られる日だ。体が丈夫で良かった。
「……はっ、ごめん!! また私、あんたを……」
「だ、大丈夫です。今のは仕方ありま、せん…………カオウさん、ローブが」
「えっ、あっ……」
心配して傍に来てくれた彼女を見ると、その身を隠していたはずのローブがなく、頭から生えた二本の角が露わになっていた。
屋台の前には、彼女のローブを握ったまま尻もちをついている冒険者がいる。
……よりによって、こんな人通りが多い場所で……。
「……女性? いえ、それよりもその角は」
「なっ!? おまえオーガだったのか……っ!!」
冒険者二人組みの声が周りに響きわたり、中央広間に集まった人々がざわめきだした。
ギルドはすぐそこだ。ここで冒険者達を呼ばれては、カオウさんの身が危ない。だが、すでに多くの目に晒されてしまった今、ヘタに身動きを取る事もできない。
彼女は、自分に集まった視線に怯えたようにうつむいてしまった。
「カオウさん……」
「わ、私……」
……どうする? 逃げたところで、街を出る前に捕縛される可能性の方が高い。戦うにしても、こんな街中で彼女と冒険者達が争えば、周辺の被害が計り知れない。
そもそも、彼女は戦おうとすらしないかもしれない。今日一緒に街を回った程度の関係だが、彼女は誰かを好んで傷つけるような人種ではないはずだ。
楽しそうに歩き回っていたときの彼女の表情が頭によぎる。…………上手くいかないもんだな。
「おいっ、旦那っ!!」
「……はい」
強面の冒険者さんが憤然とした面持ちで、こちらに足音を大きく向かって来た。
「どういうことだっ!!」
「…………彼女は確かにオーガですが、決して人に危害を与えるような悪いモンスターではありません。ただ、街の営みに憧れて触れてみたくて訪れただけなんです。その証拠に、彼女は誰も襲うようなこともしていません」
「…………あんた」
カオウさんを背に庇いながら、彼女の友好的な人となりを訴える。
きっと、勇気を出して街に来たはずだ。ここで俺が彼女の安全性を伝えられなければ、もう街にいることができなくなるだろう。ツイーツを食べることも、お店を見て回ることも、せっかく出来た友達と遊ぶこともできなくなってしまう。
そんなの、もったいないじゃないか。
「わ、私は人を襲うために街に来たわけじゃないわ!! この人もただ私に付き合ってくれてただけ!! だから……」
「お願いします、彼女を信じてあげてくれませんか」
「……旦那」
カオウさんが必死に言葉を探しながら冒険者さんに自分の思いをぶつけているのを聞きながら、俺は頭を下げる。
頭を下げた先で、ゆっくりと近づいてきた冒険者さんの足元が見える。
「…………何、言ってんだ? そんなことはどうでもいいんだよっ!!」
「……っ」
「見つけたら教えてくれって言ったじゃねぇか!! 俺達がどんだけ探し回ってたか分かんのか!? もう今日は冒険もできねぇぐらいクタクタになっちまったぞっ!!」
「…………え?」
「え? じゃねぇよ、旦那っ!!……ずっと心配で走り回ってたって言ってんだよ」
……冒険者さんは、彼女がオーガだということに怒っていたわけじゃなくて、彼女を見つけたことを伝えなかったから怒っていたのか?
「おい、オーガの嬢ちゃん」
「な、なによ?」
「体は大丈夫か? ガキを助けた代わりに、馬車に轢かれちまってただろ」
「う、うん。そんなに大した怪我もしなかったし、シスターに魔法もかけてもらったから」
「……そうか、なら良かった。街の恩人に何かあったらと思ってずっと走り回っちまったぜ!! はっはっはっ!!」
「……街の恩人?」
「おう、ガキは街の宝だ。ガキの成長と共に街もでかく豊かになっていく。そいつを助けてもらったんだから、嬢ちゃんは街の恩人だ」
「……でも、私は」
「彼の言うとおりです。オーガであろうと何者であろうと、街の子供を救ってくれた貴方を責め立てるようなおバカさんは、この街にいませんわ」
「……悪いのはこれ」
カカさんと、ローブを剥ぎ取った優男風の冒険者を脇に抱えたダッカさんが、カオウさんを安心させるように窘める。
成人男性が引きずられている絵は、哀れに見えるな。
「お姉さまの言うとおりです。いきなり女性に抱きつくような真似をした人の方が、よっぽど危険ですわね」
「……そのとおり」
「ち、ちがいますっ、わざとじゃなかったんですっ!! 女性だったとは思わなかったんですー!!」
「たとえわざとでなかったとしても、まずは謝罪の一言が先ではありませんか? ねぇ、お姉さま」
「……そのとおり」
「す、すいませんでしたーーー!!」
「…………危なかったな。俺もとっ捕えに行くところだったぜ……」
強面さんの言葉とダッカさん達のやり取りのおかげか、中央広間に集まっていた人々も、彼女が友好的なオーガであることを知り、穏やかな空気を醸し出している気がする。
「わ、私はあまり気にしてないから……」
「らしいですわよ。彼女が優しくてよかったですわね」
「……反省」
「本当に申し訳ありませんでしたーっ!!」
「だ、大丈夫だから頭上げてよ……」
ダッカさんに解放された彼は、土下座の格好でカオウさんに謝罪をしている。
彼女は頭を下げられることになれてないようで困惑しているが。
「……カオウ、その程度のことなのよ」
「え?」
「貴方がオーガだから街から出ていけなんて、私は言わないし誰にも言わせない。ギルドに話を通しておけば、ローブなんて着ていなくても街を歩けるようになるわ」
「……何で、そこまでしてくれるの?」
「友達だからよ」
「……ともだち」
「ええ、友達の友達は友達という言葉があるの。まだ出会って間もないけれど、もう私と貴方は友達なのよ」
「……いいの?」
「良いも悪いもないわ。友達に必要なのは少しの勇気。相手のことを受け入れることができるかどうか、ですわ。私は貴方を信じた。カオウは私を受け入れてくれる?」
「……うん、カカは私のことを羨ましいって言ってくれた、信じてくれた。だったら私は、オーガの私を信じてくれたカカを信じるわ」
「ふふっ、それではこれからよろしく、ですわ」
「──っ、うん!」
……あんまり心配するようなこともなかったかな。
彼女が、この街でうまくやっていけそうで良かった。
「……串焼き」
「……俺がおごりますよ」
「……十本」
「三本までです」
「……むー」
ダッカさんが美味しそうに串焼きを食べているのを発見したカオウさんにおねだりされ、結局カカさん含める女性陣におごるハメになり、俺の財布はすっからかんになった。
まさか今日一日でこんなに使うとは。
「……なくなった」
「……ダッカ、私の分食べてもいいわよ」
「……まじ?」
「カオウ、お姉さまを甘やかしてはいけないわ」
「……鬼妹」
「誰がですかっ!!」
「まぁまぁ、二人共……」
でも、彼女達が楽しそうに食べている姿はお金以上の価値がある、なんて。
仲良きことは美しきかな、とはよく言ったもんだな。
その後、姉妹はギルドに用事があるとのことでその場で別れた。依頼の話のついでに、カオウさんのことも伝えておいてくれるらしい。
カオウさんも、それならとついて行こうとしたがカカさん達は、私達に任せなさいと別れを告げギルドに向かっていった。まだカオウさんが人目になれてないこともあって、気遣ってくれたようだ。
そして、いろいろと一悶着もあったが、俺達は昼過ぎにお店に帰ってきた。長い半日だった。
「それじゃあ俺は店を開けるんで、カオウさんは勇者さんの屋敷に帰りますか? 道が怪しければ送っていきますけど」
「……ねぇ、借りたお金は返さないといけないわよね」
「別にすぐじゃなくてもいいですよ。カカさん達がギルドに上手く話してくれたら、冒険者としてやっていくこともできるかもしれませんし」
「……お店で働いている子が帰ってくるまでは、あんた一人なのよね?」
「そうですね」
「…………」
彼女は神妙な面持ちで何か考えるように黙りこくってしまった。
あずさちゃんに会いたいのかな。まだ、帰ってくるまで時間があるけど。
「カオウさん?」
「……お願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「私をここで雇ってくれない?」
「…………へ?」
「先輩、ただいま帰りましたー…………そちらの方は?」
「おかえり、あずさちゃん。こちらは新しい従業員の……」
「き、今日から働くことになったオ、オーガのカオウよ。よ、よろしくね」
「は、はぁ、よろしくお願いします…………って、えええええええーーーーー!!!!」
今日から騒がしくなりそうだ。
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「さすが顔と違ってソフトなハートですね!」
「……何がだよ」
「あはは、何でもないです」
「……調子のんな」
「ぁだっ!!」
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