第40話 オーガさんと勇者宅へ。
「そ、そこそこ大きい家ね……」
「……カオウさん、緊張してます?」
「し、してないわっ!! ほら、行くわよ!!」
「ちょっと、門を乗り越えようとしないでくださいっ!!」
勇者さんの屋敷に来たカオウさんは、屋敷の大きさよりも、こんな建物もあるのかと驚いているようだ。
照れている彼女が屋敷に乗り込まないうちに、屋敷の主に登場してもらいたい。
「すみませーん!! シスターさんいますかー!?」
「……別にいいじゃない。どっちにしろ会うために来たんだから……」
……突然オーガが侵入してきたら、それこそ襲いに来たものと勘違いするだろう。勇者さんの屋敷が戦場になってしまうぞ。
呼んでからそれほど待たない間にシスターさんが屋敷の中から出てきてくれた。
「こんな朝からお邪魔してしまってすいません……」
「おはようございます、店主様。そちらの方は?」
「俺の友達なんですけど、足を怪我していてシスターさんに見てもらえないかと」
「よ、よろしく……」
どうも緊張している様子のオーガさんだ。
街には朝に来たばかりだと言っていたし、今まで人に会うことも少なかっただろうから戸惑っているんだろうな。
「そうですか、大丈夫ですよ。中へどうぞ」
「ありがとうございます」
「モグモグ…、おはよう店主。こんな早くから…パクパク、珍しいな」
「ふむ、今日は友達も一緒かの」
シスターさんに案内された屋敷の居間では、勇者さんとヴァンさんが朝食を食べているところだった。
勇者さんは口の中の物を全部食べてから喋ってくれ。
「それではローブを脱いでもらってもいいですか?」
「…………でも」
「カオウさん、シスターさん達なら大丈夫ですよ」
「…………分かったわ」
「えっ」「むっ」「ぶふっ!!」
不安げなカオウさんだったが覚悟を決めてローブを脱ぐと、シスターさん達がわずかに驚いたような声を上げた。勇者さんは食べていたものを吹き出している。
流石の彼らでも、オーガである彼女にはビックリしているようだな。
「……ほぅ、オーガじゃったのか」
「とても大きい方だとは思っていましたが……」
「げほっげほっ、は、鼻に異物がーっ!!」
「……そ、その私は……」
周りの視線に注目された彼女は、さらに身動きが取れないようになり石のようになってしまった。勇者さんは、むせ込んだついでに鼻を押さえて悶えている。
一応、俺から彼女のサポートをしておこう。
「カオウさんは自分も足が痛いのに怪我させた相手のことを先に心配しちゃったり、危険な目に会った子供を助けたのに何ともない風を装ったり。優しくてちょっと素直じゃないだけの女性なんですよ」
「……っ、何言ってんのよっ!!」
「うぐぅっ!!」
背中を叩かれてしまった。手加減はしてくれたみたいだが、背中がヒリヒリする。
……せっかく援護してあげたというのに、ひどい仕打ちじゃないか? いつ全力のつっこみが来るのかを考えると恐ろしいな。
だが、叩かれた甲斐もあって、場の雰囲気は和んでくれたようだ。
「ふふっ、それでは足の様子を看させてもらいますね」
「……お願いするわ」
「…………それほど状態も酷くはなさそうですね。癒しの魔法をかければ痛みもなくなると思います。───『癒し』」
シスターさんがカオウさんに手を向け魔法を唱えた。
青い光に包まれたカオウさんが警戒するシュゴレムのように体を震わしたが、青い光が消えると自分の体を見て足を確認するように立ち上がった。
「本当だ。全然痛みを感じなくなってる……」
「足だけでなく体も看ましたが、特に異常もなさそうなので普通に生活していただいても大丈夫ですよ」
「……ありがとう。でも、私を治しても良かったの? オーガなんてモンスターは、あんた達からしたら倒すべき相手のはずでしょ……」
「うーん、店主様が連れてきた方ですし、それに貴方はどうにも危険なモンスターのようには見えませんので」
「……そう」
どうやら街の観光に支障はなさそうだ。
でもカオウさんは嬉しそうな顔をせず、オーガである自分を躊躇いもせず治したことに少し世惑っているようだ。
「それで、オヌシはしばらくこの街におるつもりなのか?」
「え、ええ、たくさん街で見たいものがあるから……」
「じゃが、住む場所はどうするんじゃ? 街中で宿を借りるのもオヌシには難しいじゃろう」
「…………どうしよう?」
そこで俺を見られても困る。……まぁ、解決法がないわけではないけど。
アパートに住むとしても、大家さんなら受け入れてくれそうな気はするし、色々と不便かもしれないがウチのお店に身を置くこともできなくはない。
「……だったら、この街にいる間は僕達の屋敷に住めばいいんじゃないかい?」
「えっ?」
「どうせ部屋も余ってるし、一人ぐらい同居人が増えたぐらいで困るようなことはないよ。ねっ、ヴァン爺、シスター」
カオウさんは勇者さんの突然の提案に、呆気に取られ勇者さん達の顔を見ている。
勇者さんの言葉に、シスターさん達も笑みを浮かべて頷いている。
「……でも、いいの? 私はオーガだし、街の生活なんて分からないから迷惑かけるかもしれないし……」
「別に気にしないよ。この辺りは他に家も建ってないから周りに気を使う必要もないしね。……だから、ヴァン爺に無茶な修行もさせられるんだけど……」
「ふぉっふぉっふぉ、今日もいつも通り行うからの。多少はユウもマシになってきたじゃろ」
「くっ、この鬼爺め……。今日こそは、ぎゃふんと言わせるからなっ!!」
「ほう、ぎゃふんとかのぉ。昨日はぎゃふんとすら言えない状態になっておったのは誰じゃったか? ぜひ儂に言わせてほしいものじゃなー。」
「ぐうぅぅーーーっ!!」
「……………………」
勇者さんとヴァンさんがじゃれあって盛り上がってしまい、カオウさんが置いてけぼりになってしまった。シスターさんも、呆れて眉間を押さえている。
……すっかり仲良しな爺と孫になっちゃったな。
「あまり怪我はしないようにお願いしますよ。勇者様、ヴァン様」
「ちょ、ちょっと……」
「カオウ様、でしたね。勇者様が言ったとおり、この屋敷には余っている部屋がたくさんありますので、この街にいる間だけでもせひお使いください」
「…………本当にいいの?」
「はい、どうせ貰い物の屋敷ですから。遠慮せずに、自分の家だと思って暮らしてもらって大丈夫ですよ」
「……あ、ありがとう」
勇者さんの屋敷に来て良かったな。大家さんに彼女の居住を頼む必要もなくなったみたいだ。ここなら何かあったときでも安心だしな。
もう街も動き出す時間帯だ。
「それじゃあ、そろそろ街の観光に行きましょうか?」
「あっ、うん」
「シスターさん、ありがとうございました。それでは、今からカオウさんと街に行ってきますので」
「あら、そうだったのですか。では、楽しんでいらしてください。今日はずっと屋敷にいる予定なので、いつでも帰ってきてくださいね、カオウ様」
「……うん、行ってきます、シスター!!」
出会ってから今までの時間で、最も嬉しそうな顔をしているカオウさんと一緒に屋敷を出て街へ向かう。
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「来い、ヴァン爺!!」
「行くぞ、ユウ。……ファイアーボール!」
「……っ、せい、せい!!」
「ほう、やるようになったのぉ。しかし……」
「……なっ、いつの間に後ろに……、ぎゃふんっ!!」
「ふぉっふぉっふぉ、まだまだじゃのぉ」
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