第38話 オーガさん、ご来店。
朝、店を開店する前の準備をしていると店の扉が乱暴に開かれた。
ローブを着た人物が入ってきたので、ヴァンさんかと思ったが明らかに背丈が違う。
ダッカさんよりも更に身長が高そうだ。
「すいません、まだ開店前で……」
「はぁ……はぁ……、冒険者達に追われてるの! 私を匿って!!」
ローブを深めに被って分からなかったが、声からして女性のようだ。その体躯から勝手に男だと思っていた。
鬼気迫った様子でこちらに近づき、会計台に身を隠すようにして蹲った。そして、彼女が隠れると同時に再び店の扉が開かれた。
「邪魔すんぜ、旦那!! こっちにローブを着た大柄なやつが来なかったか!?」
「はぁ、あの人はどこに行ったんでしょう。早く見つけないと……」
二人組みの冒険者に切羽詰った表情で彼女について聞かれた。街の大掃除をしたときに同じ南区の担当だった人達だ。
匿ってとは言われたけど、彼女は何で彼らから隠れているんだ?
……まさか街中で誰かを襲いでもしたのか?
「その人物が何かしたんですか?」
「いえ、僕達がギルドに向かっていたときだったんですが、大通りを横切ろうとしていたお子さんが走っていた馬車に気付かず轢かれそうになっていたんです」
「でもな、俺達が探しているやつがそのガキを助けたんだよ。だが、代わりにそいつが轢かれちまってな」
「怪我は大丈夫かと思い声を掛けたんですが、何故か逃げられてしまって」
「必死に追いかけていたんだが、見失っちまったんだよ」
「そうだったんですか」
犯罪者か何かだと思ってしまったけど、善良な一般市民だったのか。でも、馬車に轢かれたにしては平気そうにしていたな。
彼らにも見覚えがないとすると、少なくともこの街の冒険者ではないんだろう。
別に引き渡してもいい気がするけど、匿ってと言われたからなぁ。
「それじゃ俺達は引き続き探すから、もし旦那も見かけたら教えてくれ!」
「あっ、ちょっと…………」
行ってしまった。
彼らが去ったのを確認すると、彼女が影からゆっくり出てきた。
「……ふぅ、助かった。礼を言うわ、ありがとう」
「それはいいんですけど、貴方はいったい……」
馬車に轢かれたようだけど大丈夫なのか、何で彼らから逃げていたのか。
色々と聞きたいことがある。
「……私のことは詮索しないで。助けてもらったのは感謝するけど、もう行くわ」
「でも、馬車に轢かれたって……。体は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、別に大したことは……くっ」
彼女は店から出て行こうとしたが、右足を押さえて屈みこんでしまった。
やっぱり怪我をしてるんじゃないか。
「足を怪我しているんですか? ちょっと見せてください。」
「……っ、いいわ!! 何とも無いから、気にしないで!!」
「え? っ、ぶがっ!?」
彼女に近づこうとして容態を見ようとしたが、それを嫌がるように振り回した彼女の手が俺の胸に当たり、店の壁まで体が吹き飛ばされた。一瞬、息が出来なくなった。
どんな力をしているんだ、彼女は。体がとても痛い……。
「……はっ! ご、ごめん、上手く力を制御できなくて!!」
「……だ、大丈夫です。それより足を怪我してるんですよね? 貴方の怪我が酷くなってしまったら、貴方が助けた子にも申し訳ないんで見せてもらえないですか?」
「でも、私は……」
「少しの応急処置ぐらいなら出来ますから、お願いします」
あまりにも怪我が酷そうであれば、シスターさんにも見てもらった方がいいかもしれない。
屋敷にいてくれたらいいんだけど……。
「…………あんたは大丈夫なの? 私が思いっきり突き飛ばしちゃって……」
「あー、ちょっと体が痛むくらいで何ともないんで、大丈夫ですよ」
「……あんたも怪我をしてないか、確認させてくれるならいいわ」
「……わかりました。なら休憩室に行きましょうか」
「それじゃあローブを脱いでもらえますか?」
彼女を休憩室に連れて行きイスに座らせてから、足の様子を見やすくするためにローブを脱いでもらうようにお願いする。
「……絶対びっくりしないでよ」
「はい?」
彼女は一言忠告してから羽織っていたローブを脱いだ。
そして、ようやく彼女の体と顔をしっかりと確認することができた。
「………………」
「何か言いなさいよ」
彼女の体は、服の上からでも分かるほど筋肉が隆々としていて、ある種美しさを感じる造形をしていた。あれだけ吹き飛ばされたのも納得だ。
……しかし、何よりも、額から生えている二本の角がチャーミングだった。
「貴方は……」
「カオウよ。……私は、オーガなの」
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「おい、あんたちょっと待ってくれ! 速っ、追いつけねぇ!!」
「はぁはぁ……、ま、待ってください~~!!」
「くっ、捕まったらバレちゃうじゃない!! しつこいわねっ!!」
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