第30話 大家さんの買い物。


「………………」


朝食のテーブルには、いつもと違い少々不恰好な卵焼きや目玉焼きが何故かたくさん皿に盛り付けられていた。


「大家さん、これは……?」


「……あんたの後輩ちゃんだよ」


「あっ、先輩おはようございます!!」


「……おはよう」


このところ狭しとならんでいる卵料理はあずさちゃんが作ったんだな。卵焼きは巻きが解けかけてぼろぼろだし、目玉焼きは白身部分が黒くこげているものがたくさんある。


……今まで、アパートで料理することなんかなかったもんな。


「何でこんなに?」


「練習だとよ」


「……なるほど」


確かによく見ると、上手く作れているものもいくつかあるな。上手く出来るまで頑張っていたんだろう。


でも、朝からこんなに食べるのか……。


「さぁ、私の手料理を食べてくださいっ!! 見た目はあれですけど、味は大丈夫なはずなんで!!」


「……そうだね、いただこうか……」


自分の席に着いて、とりあえず卵焼きに箸を伸ばす。


……美味しいな。


流石に、大家さんが作ったものと比べると食感は生焼けっぽさも感じるけど、普通に美味しい。いつも通りの醤油ベースの卵焼きだ。


「どうですか、美味しいですか!?」


「うん、思ったより美味しくてびっくりした……」


「もぅー!! 思ったよりは余計ですよっ!!」


正直、醤油と間違えてソースを入れてたり塩とお砂糖を間違う、という良くありがちなうっかりをしていないかと疑ってしまっていた。


「大家さんの作ったものと、味自体はそんなに変わらなかったからさ」


「ふふふっ、大家さん監修の下でたくさん練習させてもらいましたからね!!」



「もう卵なくなっちまったけどな」


「あ、あはは、……コ、コツネちゃん、今日はお姉ちゃんがあぶらあげ切ってあげたんですよー?」


「クゥーン?」


大家さんからじとーっと呆れるような視線を受け、あずさちゃんがコツネに逃げた。


「……もう卵焼きと目玉焼きに関しては、一人でも大丈夫だろ」


「はい!! おかげさまで要領は分かりましたっ!!」


「明日からも続けるのか?」


「もちろんですっ、明日はお味噌汁をお願いします!!」


「……はぁー、今日手伝っちまったしな」


また明日もあずさちゃんの手料理が食べれるらしい。大家さんも一度手伝ったことで、最後まで見てあげるようだ。


この卵料理のように、明日はお味噌汁を何杯も飲むことになるんだろうか。


もう結構お腹一杯なんだけど。


「明日も楽しみにしてくださいね、先輩!!」


「……うん、楽しみだよ」


可愛い後輩ちゃんの手料理が食べれるんだから、俺のお腹の調子なんてどうでもいいことだな。




「行って来まーす!!」


「「行ってらっしゃい」」


あずさちゃんが学校に行き、店が休みの俺と大家さんが見送った。


コツネは食事の後のお昼寝、……お朝寝タイムだ。


あいつもそのうち太ってしまうんじゃないか?


「さて、今日は何をしようかな……」


「てん、予定がないなら食材買いに行くから付き合いな。あずさの練習で卵がなくなっちまったからな」


予定もないのでコツネと同じようにお朝寝でもしようかと考えていると、大家さんからお誘いがかかった。


……あずさちゃんのためにも、今日は荷物持ちだな。


「わかりました、時間まで部屋でゆっくりしていますね」


「あぁ、時間になったら呼びに行く」



……お味噌汁の具を多く買うんだろうなぁ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「溶いた卵に砂糖と醤油を少し、っと………」


「……っ、バカ! それはソースだ!!」

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