第9話 大家さん、ペットができる。
「今日もお仕事頑張りましたねー!」
「お菓子食べてばっかりだったけどね。また太るんじゃない?」
「……先輩、言ってはならないことをいってしまいましたね。乙女の謎は謎のままにしておくのが、もてる男の秘訣ですよ」
「ちゃんと乙女の体を気遣って指摘してあげることができるのが、大人の男だと思うけどね」
「……食べた分働いているんで、大丈夫です。大丈夫なはずです……」
この間、学校で身体測定したときに以前よりふとっ……謎が重くなっていたのが判明したらしい。
少し言葉尻が弱くなっているぞ。
男からしたら、そんなに気にするほどのもんじゃないと思うけど。
「うわ、結構雨降ってるね。さっさと帰ろうか」
「……わたしはふとってない、ふとってない……朝食べ過ぎたせいで消化が遅れてただけ………そう、美味しそうなご飯が私をさそって……」
「…………」
思っていたより体重測定の結果にショックを受けていたらしいあずさちゃんと傘をさし、店を出て帰り道を歩く。
そのまま消沈中のあずさちゃんと帰っていると、途中で横切る公園の中で、大家さんが傘をさしながら何かを抱いているのをみつけた。
「あれ、大家さんだよね」
「これからもわたしはお菓子をたべつづける……気のせいだったんです。……もういちど測りなおせばきっと……」
「そうだね、きっと気のせいだね。でね、大家さん見かけたから声かけていこうか」
「……そうです、気のせいだったんです!!……大家さんですか?本当ですね、何してるんでしょう?」
あずさちゃんも戻ってきたので、公園にいる大家さんに近づき声をかける。
「大家さん、こんな雨のなかどうしたんですか?」
「……うん?あぁ、てんとあずさ、か……」
大家さんが抱いていたのは、犬、いや、子キツネみたいだ。地面には、カゴが置いてあり中には毛布が敷かれている。だれかが捨てていったみたいだ。
まったく、無責任なやつだな。最後まで責任を取るべきだろう。
ウチにだって、サボり癖がある間食大好きペットがいるのに。
「………先輩、何か失礼なこと考えませんでした?」
「ううん、全く無責任なやつがいるなと思っただけだよ。どんな理由があろうと最後まで面倒を見るべきだってね」
「……何か引っかかりますけど、本当ですねっ!!」
勘がいい子だ。嫌いではないけど。
大家さんもいろいろと食材を持っているのを見ると、買い物帰りに子キツネを見かけて放っておけなかったんだろうな。
「その子どうするんですか?」
「……ふぅ、どうしたもんかな」
「別にアパートに連れて行ってあげてもいいと思いますけど」
「だがな、私はペットなど飼ったことはないしそもそも、あまり動物に好かれん」
「……でもその子、大家さんに抱かれて安心しているみたいですよ」
「………………」
大家さんの腕の中で少し震えているが、決して逃げて離れようとはしないキツネを見るに怯えているようには感じない。それに、大家さんもそのキツネを見て、表情が柔らかい気がする。
姉御気質が発揮して、もう見過ごせなくなっているんだろう。
「アパートに連れて行ってあげましょうよ、大家さんっ!私も時間があるときは一緒に遊んであげられますよ!!」
「…………あぁ、そうだな。……しょうがない、連れて行ってやろうか」
「ふふふ、アパートの住人が増えますねっ!!」
「ああ」
あずさちゃんの最後の一押しもあって、アパートに新しく入居することが決まったようだ。大家さんはしょうがないと言いながらも、優しげな顔でキツネを抱いている
もう心の中では、なんだかんだで拾っていくことは決めていたんだろうなぁ。
「それじゃぁ名前考えてあげないといけないですねっ!!」
「……そうだな、どうするか」
「毛の色もすこし白みがかっているんで、シロちゃんでどうですか!?」
「却下だな」
「えーーーっ、何でですかっ!!」
「気にいらん」
「むぅ、先輩は何か候補ありますか?」
……あずさちゃんはネーミングセンスがないようだな。かといって、俺も得意じゃないしな。一番にこの子を拾ってあげた人が名付けてあげるのがいいと思うけど。
「大家さんが名づけてあげるのが一番いいんじゃないですか?」
「………そうか?」
「これから一番そばにいてあげるのは大家さんになるわけですし」
「……そうか」
大家さんは真剣にキツネの顔を見ながら考えている。
「……コツネだな。お前の名前はこれからコツネだ」
「……クゥン、クゥン!」
「……この名前でいいのか?」
「クゥーン!」
「……そうか」
どうやらキツネ改めコツネも喜んでいるみたいだ。でも、シロもコツネもそんなに変わらなかった気がするな。
まぁ、本人が一番嬉しがっているみだしいいか。
「これから、よろしくなコツネ」
「クゥンクゥーン!!」
~~~~~~~~~~~
「「大家さん、おはようございます!」」
「おう、おはようさん」
今日の朝ごはんは、あずさちゃん待望のお魚みたいだ。
ちゃっちゃと席に座って、いただきますをしている。
俺も早く食べよう。こっちの分まで取られかねない。
「ほら、お前も早く食べな」
「クゥン」
大家さんの隣にあぶらあげが皿にのせて置かれる。
コツネを撫でながら、大家さんも席について一緒に朝ごはんを食べる。
「クゥーンクゥーーン!!」
「あぁ、たくさん食べな」
少しアパートがにぎやかになった。
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……後日、書店でキツネに関する本をいろいろ探っていた大家さん。
本当に面倒見がいい人だ。
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