冒険者ギルドのぼっち男女

ちびまるフォイ

冒険者カーストの傷のなめ合い

冒険者がまず訪れる場所と言えばここ!

そう、冒険者ギルド!!


ここでは日々冒険者への依頼が貼りだされるほか、

冒険者が集い力を合わせるまさに出発地点!!



……の、はずれのテーブルに1組の男女が背中を向けていた。



「うーーっす」

「ああ、うん」


「お前、今日もここにいるのな」


「だって、呼ばれるかもしれないじゃん。あんたもでしょ?」


「……まぁな」


「いつも同じ時間に来るくせに、今日だけなに遅れてんのよ。

 おかげで私だけこのテーブルにひとりでいるから

 ほかの冒険者に変な目で見られまくったわよ」


「変な目?」


「ナンパ待ちみたいに思われてたんだから。

 あんた来たら睾丸蹴り飛ばしてやろうと思ったわ」


「冒険に旅立つ前の冒険者を再起不能にさせんなよ」


ふたりは男の持ってきた飲み物をずずとすする。


「……で、なんで今日は遅れたのよ」


「いや、毎日長い時間ここにいるだろ?

 それだと逆に地雷冒険者だと思われるかもと思って

 少し時間をずらして、それなりに用事がある冒険者に見せようかと」


「それ、あんたを毎日見てる人しかわからないでしょ。バカじゃない?」

「…………」


「あーーあ、なんで私冒険に呼ばれないんだろ」


「クラスがグールだからだろ。

 女でグールのクラスを選んだ冒険者って聞いたことないぞ」


「あんただって、銃魔法士なんていうクラス、珍しいわよ」


「当たり前だろ。ほかの人が使っていない珍しいクラスで

 なおかつカッコイイクラスを選んだんだから」


「……うん、まぁそうだろうね。そんな感じがすごいするもん。

 銃魔法士のオレカッコイイ、がすごい感じる」


「え!? そう見えてた!?」

「自覚してなかったのかよ」


「……もしかして、俺が冒険に誘われない原因ってそれ?」


「まぁ、ナルシストはパーティに入れたくないっしょ。

 女からしてもなんかイチイチ絡んできそうだし」


「マジか……」


男はがっくりと凹んだ。


「よく考えれば、女魔法士という花形のクラスがあるし

 俺みたいな男をパーティに入れるくらいなら

 ぴちぴち女魔法士を入れて、キャッキャウフフの冒険したいよな……」


「そういうネガティブなところも減点されてるんでしょ」


「うっせー、お前だって同じNEET冒険者だろーー」


「あんたと一緒にしないでよっ。これでも多少は冒険いってるし!」


「はぁ、女はいいよなぁ。男は性能だけでパーティに誘われるけど

 女だと冒険者としてイマイチでもパーティに呼ばれるもんな」


「あのね、こっちの苦労もしらないで勝手なこと言わないで。

 下心ありありの野郎パーティに呼ばれたら地獄なんだからね」


「そうなの?」


「男はいちいち守っていいとこ見せようとして被弾するし

 女は女で可愛い子ぶってむかつくし、

 グールで死なないからって女でも普通に前線立たされるし」


「お前も可愛い子ぶれば多少は扱い変わるだろ」

「死んでもイヤ」


 ・

 ・


「……そういえば、昨日もパーティに誘われてただろ。

 あれはどうだったんだよ? また呼んでくれないのか?」


「最後の場所で死んだ仲間をグールにして蘇らせて倒したら

 パーティ全員からすっごい怒られた」


「うわぁ……」

「もう呼ばれないわよぉ!」


女はジョッキをがっと持ち上げて一気に飲み干した。


「……クラス、グールから変えたら?」


「……もう変えたわよ。何度も変えすぎて怒られて出禁にされたの。

 "クラスは洋服感覚で変える者じゃない!"って」


「そっか……まあ、飲めよ」

「うん……」


背中ごしに聞こえるほかの冒険者の騒がしい声。

二人はもくもくと誰かの誘いを背中で待っていた。




「……趣味でも始めてみようかな」



「えっ、どうしたの急に。モテたいの?」


「ちげーよ。なにか……人と違う要素が必要かなと思ったんだ」


「えーー……たとえば? どんな趣味を始めるつもり?」


「たとえば……モンスター絵画とか。

 モンスターを観察して絵を描いていくうちに知識も増えるし

 同じ趣味をもった冒険者にパーティ誘われるかもしれないだろ」


「いやいやいや、ないでしょ」

「なんだこのやろ。唇奪うぞ」

「バカが移るからやめて」


「私だったら絶対そんな冒険者誘わないわ」


「でも有能だぜ? 戦えるしモンスターにも詳しいんだ」


「モンスターの知識を持つくらいなら、

 最初っからそのモンスター倒し慣れている冒険者のがいいでしょ。

 机で理論を学んだ学者よりも、現場で戦える戦士のがいいじゃん」


「あっ……」


「ぼっちこじらせてるわよ、あんた」

「バカ言え。お前のがうつったんだ」


「私はあんたよりは呼ばれてるもん」

「どうだか」


すると、後ろから声がした。


「おーーい! そこの冒険者ぁーー」


二人の目がカッと開いて思わず同時に立ち上がった。


「ああ、ちがうちがう。そっちの女の子に声をかけたんだ」


「はぁ~~い♥ 今行きますぅ~~♪」


女はひじを曲げた手を横に振りながら、

あざとく胸を寄せつつ内股でダッシュしてパーティに向かった。

振り返りざまに、べーと舌を出して勝ち誇っていた。


「あいつ……可愛い子ぶるの死んでもイヤって言ってたじゃん……」


「あの、お肉注文のお客様」


「……ああ、ここで大丈夫ですよ」


男は女の注文した分まで食べてやった。




翌日、ギルドのテーブルには女がいた。


「うーーっす」

「ああ、うん……」


「今日はギルド騒がしいな。仕事の依頼がすごいあるらしいぜ。

 これは俺とお前もパーティ呼ばれるかもな」


「……そうね」


「テンション低いな。昨日パーティに呼ばれたじゃないか。

 あれだけ自分を捨てたんだから、何かしら実入りはあったんじゃないか?」


「ああ、あれね……いろいろあったのよ。

 それでね、ちょっと今日は相談あるの」


「相談……?」


冒険者ギルドにまた大量の仕事依頼が舞い込んで、ボードに掲示された。

冒険者は血気盛んに武器を掲げた。


「さぁ! 街で大量に発生しているグールを倒そう!!

 冒険者よ、今こそ力を合わせるときだーー!」


「うおおおーー!!」




はずれのテーブル席では水を打ったように静かだった。


「え、お前……いったい、なにしでかしたんだよ!?」



「ねぇ、私今度……音楽でも始めてみようかな……」



女は遠い目でギルドの天井を眺めていた。

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