休み明けの仕事〜午前〜

 陽菜との温泉旅行が終わり、残りのゴールデンウィークはゴロゴロ過ごして終わった。

 陽菜はその後も友達とかと遊びに行ったりしていたため、忙しそうにしていた。


「パパー、起きてー。朝だよ? そろそろ起きないと会社に遅れるよ?」


 陽菜に身体を揺すられて目を覚ました。

 お腹に違和感を感じ見てみると陽菜が俺のお腹の部分にまたがって座っていた。


「お、おい。なんで俺のお腹に座ってんだよ。せめて普通に起こして欲しかったんだが」

「なんでって、こっちの方が起きやすいでしょ?」


 陽菜は、さも当たり前だろと言ったような顔をしながら俺の方を見てくる。

 俺からしたらどこが普通なんだと言ってやりたいが、起こしてくれたのも事実なため、怒るに怒れん。


「そ、そうか。起こしてくれてありがとな。ところで今何時なんだ?」

「今? 多分7時半じゃないかな?」

「なんで疑問系なんだよ」

「だって、起こしに来たのがその時間だったってだけで、その後は時計見てないもん」

「なるほどな。確かにここには時計ないしな」


 ってことは、もうすでに30は過ぎてるってことか。……ってそれやばくね? 普通に遅刻コースじゃね?


「そうだよ!」

「だよなぁ。って今はそれどころじゃない。早く準備していかないと」


 俺は勢いよく起き、慌ただしく着替えた。まだそこには陽菜がいたが気にしない。どーせ陽菜には前にも見られてるし、少し恥ずかしいが気にするだけ無駄だ。それよりも仕事に間に合う方が大事だしな。

 陽菜の方をみると、いきなり脱ぎ出した俺を見て、顔を真っ赤にして見ないように手で顔を隠していたが、指の間からチラチラと見ていた。


「パパ、脱ぐんなら先に言ってよ!」

「悪い悪い。この前陽菜に裸見られてるしな。別にいいだろって思ってたわ」

「そりゃー、見たけどさ。急だと心の準備が」


 陽菜は話しながら徐々に俯いた。その時に何かを言っていたが、声が小さくて聞こえなかった。


「最後の方なんて言ったんだ? 声が小さすぎて聞こえなかったんだが」

「な、なんでもないよ。ほ、ほら早くご飯食べないと、遅刻しちゃうよ?」

「それもそうだな」


 若干陽菜の言動が気になったが、今はそれよりも早く会社に行かないと遅刻しちまう。ここで話してるだけでだいぶ時間経っちまったし、急がねば。

 慌ただしくご飯を食べ、家を飛び出す。




「秋本ー。随分とギリギリだったな。休み明けだからって寝坊か?」


 会社に着くと野田が笑いながら言ってきた。

 それを見ると少し殴りたくなったが、寝坊したのも事実な為何もいえない。


「まあな。陽菜が起こしてくれなかったら、遅刻間違いなしだった」

「陽菜ちゃんが起こしてくれたのか」

「おう」

「起こしてくれる人がいるってのは羨ましいな」

「俺もそれは感じた。朝起こしてくれて、ご飯まで準備してあるとか、最高だよな」

「秋本は陽菜ちゃんがいて羨ましいなぁ〜」

「そうか?」


 俺からしたら毎日変態な発言してくるから、心臓がもたないんだが。最近はそれに加え、スキンシップが激しくなってきてる気がするし。


「おう! まぁなんにしても、陽菜ちゃんに変な事はするなよ?」

「わかってるわ。そもそも手を出そうなんてこれっぽっちも思ってないし」

「そんな事、これから先も言ってられるかな」


 野田が小さい声でなにかを言っていたが、なにを言っていたかはわからない。


「なぁ、なんか言ったか?」

「秋本はヘタレだもんなって言ったんだよ」

「お、おう。そうか。って、誰がチキンだよ」

「秋本だろ?」


 野田にお前なに言ってんの? みたいな顔で言われた。

 た、確かに、チキンだが、そこまではっきり言わないでくれませんかね? 少し傷ついたんだが。


「うっせ。俺だってやる時はやる男だ」

「ほんとかな?」

「おう」

「いつかその時がくるのを楽しみにしてる」

「おう」


 そこで話を一旦やめ、仕事に集中する。

 集中してやっていると水原さんに声をかけられた。


「秋本さん。これ、頼まれてたやつできました!」

「おっ。今回は随分と早いな」

「そうですかね?」

「おう。そんじゃ、確認してオッケーだったら次の仕事渡すわ」

「はい!」

「少し時間かかるし、席に戻ってていいぞ?」

「わかりました!」


 水原さんはいい返事をして席に戻っていった。


「そんじゃ確認しますかね」


 そう言いながら書類を確認していく。

 途中まではよかったのだが、後半になるにつれ誤字脱字が多くなっていた。

 ここを俺が直してもいいけど、最後までやらせた方がいいし、持ってくか。


「水原さん。誤字脱字が多いからそこ直してくれる?」

「そんなに多かったですか?」

「まあな。平仮名の変換ミスだとは思うが」

「わかりました! 直したら持っていきますね!」

「おう。まぁ直すのは午後からでもいいからな。もう昼なんだし、一旦休憩してご飯食べてからでも大丈夫だからよ」

「わかりました!」

「そんじゃ、よろしく頼む」

「はい!」


 俺は自分の席に戻り、野田とご飯を食べることにした。だが、席に戻ると野田の他に八城さんがそこにいた。なにやら野田と楽しげに話している。俺のことは気づいてないみたいだったため、俺は弁当を持ってその場を後にした。


「……しょーがねーな。今日は1人で食べるか」


 どこか1人で食べれるところはないかと探していると、水原さんに声をかけられた。


「あの、秋本さん。一緒に食べませんか? 丁度私も1人だったので」

「いいのか?」

「はい!」

「そんじゃ遠慮なく」

「はい!」


 水原さんとご飯を食べることになったのだが、話すネタを提供できるわけもなく、淡々と食べていた。


「前から思ってましたけど、秋本さんって、彼女います?」

「俺か? 彼女いない歴イコール年齢だぞ」

「そーなんですか?! てっきり彼女の1人か2人はいるもんだと思ってました」

「いや、2人もいたらダメだろ」

「てことは今はフリーなんですね?」

「無視ですか。まぁそーだな」

「なら私にもチャンスがあるってことだよね」


 水原さんが小さい声でなにかをいっていたが聞こえなかった。まぁ、詮索するのはよしとこうかな。


「水原さんはどうなの? 彼氏いるの?」

「私ですか? 私も秋本さんと同じですよ。いた事ないです」

「なんか意外だな。水原さん可愛いからモテてるものだとばかり思ってたわ」

「か、可愛いって、そんな事ないですよ。私なんてモブですよ」

「そんな謙遜すんなって。水原さんならすぐにでもいい人見つかると思うぞ?」

「そ、そうですかね?」

「おう! そんじゃそろそろ戻るわ」

「あ、あの、今夜一緒にご飯食べに行きませんか?」


 水原さんにご飯に誘われたが、流石に陽菜に悪いしな。断っとくか。


「あー、今日はやめとく」

「そ、そうですか。わかりました」


 目に見えて落ち込む水原さんを見ると、断るだけじゃ申し訳なく思う。

 明日なら大丈夫だし、明日にしてもらおうかな。


「明日ならいいぞ」

「ほ、ほんとですか! 楽しみです!」

「お、おう。そうか」

「はい!」

「そんじゃ、戻るわ。直したら持ってきてくれ」


 そう言って俺は自分の席に戻った。

 これから午後の仕事が始まろうとしていた。






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