第37話 経験値稼ぎ用モンスター織田信長
俺達は国境沿いの街で水、食料。そして燃料である薪の補給をして、砂漠に挑む事となった。砂漠で注意しなければならないのはスタックだ。中途半端な位置で車を止めてしまうと、その場でタイヤを砂にとられ、動けなくなってしまう。
しかし木炭車はガソリン車と違い、定期的に燃料である薪を車体後部のかまどにくべねば動きが止まってしまう。つまり必ず駐車しなければならないのだ。
幸い現実世界の砂漠同様、砂ばかりではなく、岩や乾ききってひび割れた土が露出した箇所が割と多い砂漠であった。こういった個所を選んで駐車。燃料を補給する。こうすればスタックすることなく木炭車は進むことができる。
「ていうか」
「なんでしょう?フリーズアローっと」
「ひゃあぁ!冷たくて気持ちいいわー」
ももかんは運転席でハンドルを握るガラさんに氷の魔法をかけていた。かなりの抜群の調節である。頭と、腕と脚を残し、胴体部分をカチンコチンに凍らせている。これ人間だったら確実に死んでね?
「お前自分の母親になにやってんだよ?」
「なにって、私の母さんスライムじゃないですか。砂漠は暑いですからね。こうやって魔法で凍らせないと水分が蒸発して気体になって消滅してしまうんですよ」
「難儀やなぁ。スライムの砂漠旅行って・・・」
そういうわけで車外での作業。車体後部のかまどに薪をくべる仕事は俺の役目になっていた。
「薪の在庫が半分を切ったな。どこかに燃料を補給できそうな街とか村があればいいんだが」
車内に戻った俺は簡単に報告する。実際にはもう少し多いが、砂漠というだけあって見渡す限り砂だらけだ。道端の樹木を切って燃料にする事もできないのでそういう場所は早めに探した方がいいだろう。
「そうは言われましても私達西の国の地図なんて持ってませんしねぇ」
「おい。大丈夫なのかよ?」
「方角事態は合っているはずですよ。砂を見てください」
「砂?」
砂には一定方向に向かって進み続ける人間と、偶蹄目の動物の足跡が大量に続いている。
「これは間違いなく西の国の兵隊の足跡です。これを追って行けば西の国の街まで辿り着けますよ」
「なるほど。砂だから普通の地面の上よりずっと足跡が追いかけやすいのか。砂漠の旅ならではだな」
木炭車は水のない渓谷後のような場所に差し掛かった。ここには足跡がないが、一本道だ。おそらくこのまま進んでしまって大丈夫だろう。
「今日はここいらで一泊しましょう。ちょうど野宿に丁度よさげな洞窟もあるし」
ガラさんは渓谷の途中に開いた洞窟の前で木炭車を止めた。
「洞窟って、ゴブリンとか出てこないのか?」
「まさか。こんな砂漠の厳しい環境で生活できるゴブリンなんているわけないじゃないですか」
「そうよ。こんな地獄のような光景を見れば心がかわく」
「砂の臭いがしみついてむせるはずです」
「現に私達は見知らぬ街を探して迷っているじゃないですか」
「でしたら渇死したゴブリンの白骨死体が砂の中に転がってなきゃおかしいですよ」
まぁそうだな。この洞窟にゴブリンは流石にいないだろう。俺は今晩の食料と水。そして毛布を持って洞窟の中に入った。
洞窟内は薄暗い、いかにもファンタジー世界の鍾乳洞と言った感じの洞窟だ。ここだけ中世ヨーロッパという感じがしないでもない。まぁ洞窟の構造なんてものは世界中どこでも同じだろう。
「丁度いい場所なので食事前に召喚魔法でモンスターを召喚しましょう」
「モンスターを?なんでまた」
「ふるちんさん。この世界に来てからモンスターを一回も倒してないじゃないですか。つまりレベル1のままなんですよ。そのままだとそこいらの雑魚モンスターにあっさりと倒されてしまう恐れがあります。ですので経験値稼ぎ用にちょうどいいモンスターを召喚し、それを倒してふるちんさんのレベルを上げます」
「まぁ一応俺も物語の主人公なんだしそこいらの駆け出し冒険者や街の警備兵より弱かったら困るよな。じゃあどんな敵と戦うんだ?定番のぷよふわスライムか?それともゴブリンと全力で戦えばいいのか??」
「いえ。もっとレベリング効率のよいモンスターです」
しゅっわわあああ。
魔法陣が光り、和甲冑をまとった丁髷頭の中年男性。右手に並々と酒が注がれた骸骨を持ち、背中に火縄銃を持った人物が出現した。
「我が名は第六天魔王!!最強のチート転生者にしてこの異世界を支配する者也!!!」
「こちらの一介の尾張大名さんを倒してレベルを上げてください。そりゃもうさっくりと」
「ざけんなぁつ!!!織田信長なんてそこらの転生チーター百人が束になっても勝てないくらいの超絶チーターじゃねぇかよっおおおお!!!!」
「いえいえちゃんと私がパーティ組んであげますから楽に勝てますよ。はい」
ももかんは右手を俺に向けて差し出した。
「じゃ、パーティ組みますんで握り返してください」
「本当に大丈夫なのか・・・?」
俺はももかんの右手を握り返した。
システム:ふるちんとももかんはパーティを組みました。
「この第六天魔王に歯向かおうとは愚かなり!!所詮は異世界人よっ!!!!」
「本当に大丈夫なのか?相手は未来に行ったり、冥界の支配者だったり、時々女の子だったりする織田信長なんだぞ?」
「信長さん今どくろの盃持ってますよね?」
「如何にも。これは浅井長政を討ち取り、その頭骨を酒杯としたのだ」
「こちらにルイス・フロイスさんがお書きになった日本史という本を御用意致しました。第一級の歴史資料です」
「ルイス・フロイス?誰だそいつは?」
「フランシスコ・ザビエルさんと一緒に日本に来た宣教師ですよ。この資料にはこうあります」
*
「日本にはオダノブナガというトノサマがイマース。トノサマというのは私達の国で言うキングのことデース。彼はとても気が短く、短気な性格デース。但し決断力が早く、聡明な人物デース」
*
「ふ。正しい評価だな」
織田信長は実に得意満面な笑みを浮かべた。
「そうですね。実際にお会いして、ヨーロッパの珍しい品々を献上し、布教の許可を頂いた織田信長さんの性格を詳しく記録しています。重要なのはここからです」
*
「ノブナガはオサケを飲みません。ゲコデース」
*
「なに?」
「ルイス・フロイスは宣教師として日本にキリスト教の布教をする為に日本にやってきました。つまりヨーロッパの本国に日本が布教の価値がある国であると報告する必要があります。そうすればその為の追加の宣教師、資金などを船で送って貰えますからね。内容は正確かつ正しい物である必要があります。つまりこの内容を偽証する理由がありません。当時の欧州人の視点から見た、本物の信長像です」
「それってつまり?」
「織田信長さんはお酒は飲まなかったのです」
どごああああああああああんん!!!
ドクロの盃を中心に、盛大な爆発を起こした。
「やったぜ!!魔王信長を一撃で倒した!!!まさかこんなにも楽勝で信長を倒せるとは・・・」
「・・・確かに驚いたぞ。織田信長が酒を飲まないという、一級歴史資料があったとはな・・・」
二歩、三歩。後ろに後がる音。白い煙が晴れた後には。
「む、無傷・・・??!!!!」
「いや。効いてるぞももかん!!よく見てみろ!!!」
右の肩口から先を綺麗に吹き飛ばされた織田信長が不動の姿勢で立っていた。
「ていうかももかん。お前ビビってないか?なんか俺の手。ちょっと強く握り過ぎだろ?」
「びびいびいびいいってないですよ?えええ。びびびいってないですととおとも???」
「めっさびびってるやんけ」
しかしダメージは与えた。これならば。
「我が右腕を奪った事は褒めてやろう。しかし!!!」
織田信長は左腕でセンスを取り出した。一体何をするつもりだ?
「人間五十年。下天のうちに~~~」
「な?!左腕だけで敦盛を舞うだと??!!!」
「そんなっ!!左腕だけで敦盛を舞うだなんて!!!こんな相手には到底敵わない・・・」
「まだ驚くには早い。敦盛だけではないぞ?」
織田信長は地球儀を取り出した。
「地球儀をどうするつもりなんだ?」
織田信長は左腕だけで地球儀を回した。
「見るがいい!ここがヨーロッパだ!そしてここが日本!なんと小さき事よっ!!!」
「くっ!!左腕だけで地球儀を回すだとっ?!!」
「どうしましょう?勝ち目がありません!!!」
「そして織田信長と言えばこれよ!!」
織田信長は左腕だけで火縄銃を構えた。ピタリ。とももかんの眉間に狙いをつけ。
「武田信玄が待っておるぞ?極楽でも地獄でも、好きな方に行くがよい!!!」
ズガーーン!!と銃口が光り、弾丸放たれる。日本で眼の前で銃が撃たれる。という経験がなかったせいなのだろう。これでは異世界チートは無理だろう。
経験値0。レベル1。当然ステータスも最低ランクのはずだ。
だから動きは遅れた。というより火縄銃が撃たれた事を銃声が耳に届いた後、初めて気づいた。その銃弾は俺には命中していない。ならば誰に弾丸が当るのか。それはもちろん。
「も、ももかあぁーーーーーん!!!!」
「なんですか。うるさいですね」
平気な顔でももかんは返事しやがった。
「今銃で撃たれた気がしたが、大丈夫なのか?」
「直撃コースですたね。命中してたら即死してたかもしれませんが、幸い近くに母さんバリアがあったので無事でした」
「貴方自分の母親を盾にするなんていい度胸してるわね」
プッ、とガラさんは口から銃弾を吐き出した。
「ていうかももかん。さっき物凄い驚いてたようだけどもう立ち直ったのか?」
「ほんのちょっと驚いて腰を抜かしていただけでもう大丈夫ですよ。ヌハアハハハ!!!」
あ、まだ足ふらついてんじゃんこいつ。
「こちらにはスライム母さんがいますからね。火縄銃如き鉛玉発射装置なぞ物理耐性持ちの母さんの前には無意味なのです!!」
「お前自分の母親完全にシールド扱いやな」
「異世界でスライムのキャラがいるなら、そのスライムとしての特性を有効利用しければ!序盤で人間形態になってその後は神様になってチート能力を行使し続けるなら最初から神でいいのです!!!スライム要素は不要なのですっ!!!」
「その女の方は銃弾は通じぬとも小娘、貴様の方はそうではないはずよ!この火縄銃を再装填して」
織田信長は火縄銃を縦にして、弾丸を込め直そうと銃身の前から火薬を入れようとして。
こてん。
火縄銃は横に倒れた。
「ぬぅ!これでは火縄銃に弾丸を込める事が出来ん!!だがしかし!!!」
織田信長は日本刀を抜いた。
「異世界において最強のチート武器。それがこの日本刀よ!!!エクスカリバーや魔法学科の賢者の簡単に折れるカッターナイフを造って凄いですよって自慢するぞ生なんぞこの織田信長様の前で言おうものなら戦場でカッターの刃を交換してる最中に火縄銃の餌食にしてやるわくらいの切れ味!!!!それがこの日本刀よっ!!!!!如何なる窮地であってもこの日本刀があれば」
「あ、信長さん貴方本能寺で最後に使った武器日本刀じゃなくて長槍じゃありませんでしたか?」
ぱっきーん。
信長の持つ日本刀が砕けた。
「ぬ、ぬうううう!!!しかし長槍は片手でも使えるわっ!!!これにて貴様らに華麗な死を」
織田信長は左腕だけで槍をぐるぐると回転させ始めた。
「いいえ。信長さん。貴方にはとてつもない弱点があります」
「なに?この異世界にも未来にも行ける信長に弱点があると申すか?」
「これは明治時代に刊行された西洋料理事始めという本です」
「おいももかん。織田信長は戦国時代の人間だぞ?」
「はい。1550年くらいの人間ですね。明治時代は1868年から1912年です」
「百年くらい前じゃねぇかよ。ぜんぜん関係ない時代だぞ?」
「ふっ、ならばこの織田信長を倒す事などできんな」
「いえ。この本には名前の通り西洋料理の仕方が書いてあるのです。カツレツ、コロッケ、エビフライ、オムライス、ロールキャベツ、シチューにオムレツ」
「どれもこれも洋食だ!なろう主人公が中世ヨーロッパ風異世界人に食べさせたら、『これは私達の国でも造れそうな料理ですね』と言われそうなものばかりだ!!!」
「そしてカレーライス!!!」
「カレーの本場はインドだっ!!!日本料理じゃないぞっ!!!!」
「織田信長さん。貴方はカレーを食べた事がありませんね?」
「なに?なぜそんな事を言いきれるのだ?」
「もし貴方がカレーを食べた事があれば宴会の席でドクロの盃ではなく、徳川家康に前でカレーを食べていたはずです!!そして豊臣秀吉を倒して日本に300年の平和を築いたのは徳川江戸幕府!!!ふるちんさん、日本の時代劇で江戸町民がカレーを食べているシーンはありましたか?」
「はっ、そういえばないぞ?!!カレーを食べているシーンはない?!!お刺身を食べているシーンはあるが、カレーはないっ!!!」
「カレーが日本人の間に広まったの明治以降!!!すなわちカレーは純粋な日本料理ではないですっ!!!!」
「うぉのれっ!!!!私の部下に現代からタイムスリップしたフレンチシェフがおればあ!!!!
カツラギケンンンン!!!!!!!!!」
ゴドオオオオオオオオンンン!!!!!!
盛大な爆発を起こし、今度こそ織田信長は異世界から消滅した。
テレッテー。
ふるちんはレベルがあがった。
「お、レベルがあがった」
「織田信長を倒しましたからね」
テレッテー。
ふるちんはレベルがあがった。テレッテー。
ふるちんはレベルがあがった。テレッテー。
ふるちんはレベルがあがった。
「なんか連続してレベルが上がっていくんだが」
「織田信長大量に経験値を持っていたようですね。しばらくその状態ですから我慢してください。じゃあ今晩の晩御飯造りますか」
ももかんはガラさんのお腹に手を突っ込んだ。そしてガラス瓶に入った野菜と豚肉を取り出す。
「じゃ、鍋に水張ってください」
「お前自分の母親冷蔵庫にしてたんかいっ!!!」
「母さんはスライムですから有機物は全部消化しちゃいますからね。でもこうやってガラス瓶に入れておけば肉も野菜もバッチリデス」
そうやって鍋に人参と玉葱と豚肉を開ける。
「あれ?ジャガイモがないぞ?」
「あ、今回ジャガイモ抜きで行こうと思います。ジャガイモは大航海時代以前の中世ヨーロッパにはありませんでした」
「ならカレーも無理だろうが」
「ヨーロッパとインドは歩いて行けるのでカレー粉がヨーロッパに来ることは可能です」
「微妙に正しいようなガバガバ基準やんけ」
「ねぇももかん。街で香辛料買ってないみたいなんだけど?」
「母さん本当ですか?」
「んーどうもそうみたいね。普通に煮込んだけで済ます?」
「いえ。せっかくなので現代のふるちんさんが中世人と比べてどれだけ豊かな食生活を送っているかを実感してもらう為、カレールーとジャガイモを用意しましょう」
と、言ってももかんは村山アニメーションに繋がっている扉を呼び出した。
「じゃ、ちょっと買い物してきますので。まぁ近くに危険な怪物はいないと思いますが母さんと一緒にお留守番お願いします」
「お前の母さん強いからな。大人しく待ってるぜ」
「ももか~ん。いってらしゃい」
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