第17話 転生チーターと地元異世界人との戦い3

 一週間後。ニホンジンが缶詰一万個を持ってサルディスの城にやって来た。


「お約束通り缶詰一万個を御用意致しました。早速ですがこちらを金貨百万枚と交換」


「そのことなんだがまずはこちらを見てもらおうか」


 クロイソス王子は床の上に正方形の鉄の箱を置いた。


「なんですかその塊は?」


「こいつはつい三日ほど前に完成した試作品でね」


 金槌を使って乱暴に叩き割る。すると鉄箱が砕け、内容物が床に零れた。


「君が売ってくれた『魔法の品』の模造品。桃のシロップを漬けを金属の箱に封入したものだよ」


「ば、バカなっ!!!?下等な中世ヨーロッパ風異世界で缶詰なんて造れるわけがないっ!!?」


 ニホンジンの商人は驚愕した。こんなことは絶対にありえない。そう。中世ヨーロッパ風異世界では。


「私の古い友人が農園をやっていてね。また別の友人は金属製品を扱うギルドに所属しているんだが。両方から相談を受けていた。農園の方から今年は豊作だ。だが余った農産物は街の市場で売り切ることはできない。折角の作物が腐ってしまう。なんとかならないだろうか?とね。そして金属製品を扱う友人の方だが、実はこの世界の、少なくともこの国を脅かしていた魔王を少し前に倒すことに我々は成功した。それ自体は大変喜ばしい。だが世界が平和になるので武器や防具がいらなくなり、鉄の値段が下がってしまう。なんとかならないだろうか?とね。そこに君が来たんだ」


 クロイソス王子は近くに置いてあった木箱からもう一つ正方形の箱を取り出した。


「し、しかし桃の缶詰だんて・・・!!?技術的に不可能なはずだっ!!そもそも材料が手に入るはずがないっ!!」


「おや。君は知らないのかい?桃は古代ローマの皇帝ネロの時代にはもう栽培されていたんだよ?」


「こ、古代ローマだとおお??!!!中世ヨーロッパよりずっと昔のはずだあああああ!!!!!」


「そして鉄だが、古代エジプト、オジマンディアス王の時代にはもう精錬法が確立されていたんだよ」


「こ、古代エジプトだとおお??!!中世よろーろっぱよりずっと昔のはずだあああああ!!!!」


「そして砂糖だが」


「そうだ!!砂糖は日本から輸入しないと手に入らないぞ!!う、嘘をつくなああああああ!!!!!」


「ウルクの王のギルガメッシュ王はサトウダイコンを栽培していたんだ。君知らなかったのかい?」


「ぎ、ぎるが・・・う・・・ぐやっ?!」


 商人を名乗ったニホンジンは突如白目を剥き、喉を掻きむしりながらばたりと倒れ、死んでしまった。


「ふむ、これは」


「クロイソス。どうかしたのか?」


 父王が部屋にやって来た。


「残念な事が起きました。ニホンという国から来た商人と商売の交渉をしていたのですが」


「死んでおるようだが?」


「交渉を有利に運ぼうと少々プレッシャーをかけすぎたようです。おそらく心臓発作か何かと」


「それは残念だのう。手厚く葬ってやるがよい」



「これは後にカルチャーアナフィラキシーショックを呼ばれる奇病である事が判明しました」


「カルチャーアナフィラキシーショック?なんだそりゃ??」


「一部魔法学科の学生及び一部冒険者に見られる奇病です。主にニホンジンが発症する事が多いようですね。私は彼らの故郷、ニホンという国に行った事がないのですが、そこは魔法学が極端に発達してはいるものの、基礎科学技術などが大変未発達している非文明国なようなのです」


「日本が非文明国だって?!そんな馬鹿なっ!!」


 俺は大きく驚いたのだが。


「本当ですよふるちんさん。彼らは自分達の魔力に自信を持つ余り、他国を見下す傾向にあるようなのです。そして私達の国ようなメソポタミア、エジプト、ギリシャ文明を保持した大変文明的なローマ的な国家と接触すると自分達の蛮族性と非文化性のギャップに耐え切れなくなり、ショック死してしまうのです。私達はこれをカルチャーアナフィラキシーショックと呼んでいます」


「文化ローマ的なの?」


 俺はももかんに再度聞いてみた。


「ええ。私達の国に民主主義制度があると聞くと、ニホンジン達は皆、『う、嘘だっ!中世ヨーロッパ風異世界に民主主義なんてあるはずがないっ!!?』と言って鼻水を垂らしながら怯えだします」


「・・・あるのか?民主主義が??」


「いえ。象徴国王制に基づく限定民主主義ですからたいしたものではありませんが」


 ももかんはそう言って謙遜した。


「具体的には?」


「選挙権及び被選挙権は男女問わずあります。だだし我が国に対し、税金を納めること。兵役を務めること。犯罪者でないこと。スパイ活動などの利敵行為などをしないことなどの厳しい制限をクリアーしなければいけませんので非常に限定的な民主主義制度と言えま」


「日本よりも遥かに民主的国家なんですがあああああああああああああ!!!!!!!」


「ふるちんさん。カルチャーアナフィラキシーショック起しかけてませんか?」


「い、いやこの程度で俺は死んだりなんかしない・・・」


「そ、そうですか。で、私の名前なんですが」


「ああ。ももかんだったな」


「この時ニホンジンの商人と取引する際に造ったのがももかんでしたよね?」


「ああ。桃の缶詰を用意したって言ったけど?」


「クロイソス王子が部下にカルチャーアナフィラキシーショックで死亡したニホンジンの埋葬を指示しているところに赤ん坊を抱いた母が駆け込んでました。『クロイソス王子!無事に誕生しました!名前を考えて頂けないでしょうか?』」


「おい。その赤ん坊お前じゃね?」


「『名前?そんなもの桃缶に決まってるだろ』」


「いや王子桃の缶詰の名前言ってるだろ」


「はい。王子はてっきり缶詰の名前を聞かれたのばかり答え、即答したのです。何しろ眼の前でニホンジンが死んだことの方が重要だったので母が赤ん坊を抱いていたことをたいして気にしていなかったのです」


「いや気にしろよ」


「え?ふるちんさんは目の前でニホンジンが死んだら驚かないんですか?」


「あ、いや驚くけどさ」


「ちなみに缶詰の候補としてオイルサーディンもあったのですが、たまたま海が時化っていて船が漁に出られなかったため、オイルサーディン缶詰の製造は見送られました。もしこの時完成していたのがオイルサーディンだったのであれば」


「お前の名前オイルサーディンだったのかよ・・・・」


「はい。そうですよ」

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