小学3年生

はむ

石を拾っていた。

堤防を登り、橋を渡り、川を横目に一人歩きつづけた。

斜面を半歩ずつ降りてゆき、小石の山を見つける。

ひとつひとつ、時間をかけて見つめた。

形のよい石を探してはいない。

気に入った石があるわけでもない。

どの石でもよかった。


ひとつだけ、手に取って自分の顔まで持ちあげる。

この瞬間が好きだ。

無造作に積み上げられた無個性な石の中から

この石だけを助けたような。

蜘蛛の糸を垂らしたような、尊大で誇らしい気持ちになれた。


同じ距離を歩いて家に帰り、助けた石と同じ布団で寝た。

石だって夜は寒い。川辺の石たちは震えているだろう。

この石だけが、人間と布団に寝ることができる。

自分に助けられたんだから。


毎日石を拾い続けた。

今日は登校中に、明日は寄り道していこうか。

どんな石でもいい。

冷たく、無機質であれば。


ある日、母親に酷く叱られた。

なぜ布団に石をいれるのか。

石は見逃せない数になっていた。

聞き流して黙っていればいい。

母はいつも怒っているから。

説明しても「石が寒そうだから」じゃ納得できないだろう。

それに、自分はもう小学3年生だ。

バカバカしいことだと自覚している。


ただ、石が寒くないように守らなければ。

自分が助けたんだから。


(終)



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