宇宙船と僕のニール・アームストロング
ぬるめの湯が、足のゆび、甲、くるぶしかかと、足首どんどんと這い上がってくるのを宇宙船の沈没とするなら、最期に見る星は、まどの外に最近できたあかるい街灯。でも僕の宇宙船はそんなにやわじゃないから沈没はしない。崩壊も倒壊もしない。静謐の中を進みつづける立派な湯。僕の知らない内に、湯はすこしだけ宇宙船と対立していて、気付いた時には水に変わっていて、僕がやられたと声には出さずに思う時、アポロ11号で月に着陸した感動と興奮を僕が経験したものにしたいと強く願う。水にあつい湯を入れて、ひざを曲げると足が前後にうごくので、水と湯が一緒になっていく。ブラックのコーヒーにミルクを入れてマドラーで一緒にする行為と同等。世界中に存在する数多の同等を拾って集めたところを宇宙とするなら、新しく産まれる星々は僕の心の葛藤。
すこしだけあつい湯があたまのてっぺんまでを、ゆっくりと這い上がってくる。きこえる鼓動は誰のものかと月面を踏む足から伝わる振動がたずねる。僕は口をあけて、湯がたまる事をニール・アームストロングに伝えたいのだけど、口の中はもういっぱいで、なにもいえない。
ものいわぬ僕を、何万光年もとおくへ連れていってくれないだろうか。宇宙船があってもそれを暗いだけの空へ打ち上げる燃料はここにはない。燃料を持ってきてくれる人はニール・アームストロングであってほしいと過去の僕は強く願って、今はない星を見ようと空を見る。
こういう時に流れ星をみつけることができる人になりたかった。
また僕の知らない内に、湯と宇宙船は仲直りしている。
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