第071話『ふたりで 5』

 魔王親子から目を離してからかなりの時間が経過する。その間、俺はティアの両親とテーブル越しに向かい合い、こちらの事情を全て説明したところだった。



「……つまりティアは今、別世界にいると? 余計に心配になるな……」

「いえ、ティア一人ではありませんので。他に仲間が二人て、尚且つ片方はその別世界の生活に慣れているので安心かと」



 まぁ"慣れている"といえば実際はティアもなんだけど。


 俺の発言を信用してくれたティアの両親は漸く安堵の息をついた。

 

 ……ティアに関しては一旦蹴りがついたので、次は前を向かなければ。


 今この世界で起きていることを把握してないとティアたちが帰ってきた時に安心させてられないからな。



「……で。 今現状の事なんですが、いつごろから魔族たちが襲撃を?」

「……あぁ。 それはですね――――――」


「それに関してはオレが話そうではないか、ミス岩盤浴よ」



 ティアのお母さんが口を開こうとした時、不意に窓から厳ついベルちゃんがちょこんと顔を覗かせ、代弁を名乗り出た。


 きっと捕らえた魔族から話を聞いたのであろう、それは有難いんたが、ミス岩盤浴はなんか可愛くないのでやめてほしい。


 ……てか着替えるか。



 





 ♢








 新たにベルちゃんとセルベリアが家に招かれる。


 そして俺は黒帽子に純白の西洋服セルベリアは漆黒のゴスロリと通常衣装に着替え、5人でテーブルを囲んだ。



 そして話し合いはティアのお母さんが人数分のどら焼きを配布したところで始まった。どら焼き好きよ俺。



「……今回の騒動だが、オレの同胞たちは"幻覚魔法"にかかっていた。 それも"神界級"だ」

「(ふむふむ)」

「………」

「………」

「………」



 ベルちゃんの言葉に頷くセルベリア。

 そして黙り込む残り三名。暫しの沈黙。そして。



「神界魔法ってなんだい……?」

「神界魔法とは何でしょう……?」

「………深海魚?」



 そして更に割れる意見。

 え? 済まない、深海魚はふざけ過ぎました。……でも『深海魔法』ってなんだよ。水圧に耐えられる魔法とか暗闇を照らす魔法かなんかか?


 なぜ深海に幻覚なんだ? あれか? 息が苦しくなって幻覚が見える的なやつか? 際どいなおい。


 クソっ。こんな時にこそティアの無駄知―――――魔法知識に頼りたいどころだ。


 ぽかんとする俺たちを見て、ベルちゃんは少し表情を歪ませる。



「……すまなかった。用語ばかりじゃ伝わらないよな? ははは……」



 そして自虐。

 かの燃え尽きたボクサーの如く白くなるベルちゃんの代替わりにセルベリアが口を開いた。



「つまり"神のみが扱える魔法"というわけで、中途半端な浄化魔法では効果が消せないということじゃ」



 あ、"しんかい"って『神界』の方だったのね。ファンタジー思考とは難しいものだな。それより。



「……それって今回の騒動を起こした奴って―――――――」

「あぁ、"神"だ」



 意識を取り戻したベルちゃんがハッキリとした声でそう答えた。


『神』。

 それは人知を越え、優れた尊い存在。宗教的信仰の対象としても威力の優れたものとしても考えられている。


 そう『宗教的信仰』出だけであり、存在を目視した者はいないとして神話扱いされている存在だ。


 そしてライトノベルなどの小説の神は大体、主人公を異世界転生やら転移やらをさせる陽気な存在。


 そして今、俺がいる世界は正しく異世界。ならば後者の考えが一番信憑性があり――――――そうなれば、



「………それだと異世界転生させたのってその神だったりするのか?」


「あぁ、そうじゃな」

「あぁ、そうだな」



 お得意の即答だった。

 きっとこの二人が言うことだ、デタラメではないだろう。すっげーデタラメっぽいけど。



「……だけどなんで神様が魔族を操って人里を襲わされるんだ? 何の得があんだそれ」



 ただ直感で思ったことを口にする。


 するとその発言にピクリと眉を下げたベルちゃん。キレてる……訳ではなさそうな雰囲気だ。これは過去に何かがあったパターンだな。


 ベルちゃんはどら焼きを無言で一口食すと、皿の上に戻し、神妙な表情を浮かべた。セルベリアもまた、父の表情を見て顔を少し俯かせた。



「……ミス岩盤浴――――いやミレアクン。 生物が生物を殺す理由、分かるかい?」



 思いがけない質問に少し困惑するが、ベルちゃんの表情は真剣そのもの。まるで俺を試しているかのようだった。



「……"怨み"。それが人格を醜悪させ、そしてその発端は小され大きかれども"罪"に変わる―――――と、言いたいところですが、あくまで"生物が生物を殺す理由"ですよね。 そんなものはありませんよ」



 そう、これは人間の固定概念で考えてはいけない。差別的発言のようになってしまうが、セルベリアもベルちゃんも人外だ。同様、神も人外だ。


 つまり人の思考で考えても到底答えにはつかないという事を理解出来ているかをベルちゃんは試したのだ。


 容姿に似合わず、難しいことを語る俺にベルちゃん。そしてセルベリアは笑みを取り戻す。



「……どうやら君は正当な差別ができる人間のようだな。それはセルベリアも惹かれるだけある」

「ふんっ、みれあは無敵なのだっ!!」



 正当な差別という言葉自体は受け入れ難いが、どうやら信用をされたようだ。


 なんの信用? そんなもの決まっている。それは―――――――。


 ベルちゃんはどら焼き片手に俺に手を差し出す。勿論、俺は躊躇わずその手を取った。



「……よしっ。 神様倒す会議を始めるぞっ!!」

「よし――――――って会議?! 慎重だなっ?!」



『今すぐに悪しき神を倒すぞ!』という王道激アツ展開を期待していたが、それもそうだ。


 相手は神。俺たち転生者にチート級の恩恵を授けた云わば父的存在。


 そんな化け物に火力勝ち出来るわけがない。戦略勝ちが妥当だろう。


 ………まぁ、まず勝てるのかって話だけどね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る