第061話『ゆえに 2』

「みれあ? どこに向かっておるのじゃ?」



 朝食を摂り終えた後。

 俺たちは近くの皆風山の山道を歩いていた。 『朝から山登りなんて馬鹿か? お前登山家なのか?』と、昔ならこの光景に対してそうツッコんでいた自信がある。


 だが『若さの至り』というやつか、山登りも大して苦行では無かった。

 

 サラリーマンの頃に上司の付き合いで山登りをする機会が多々あったが、毎度の如く激しい疲労と気圧で嘔吐していた記憶しかない。社会人になってからはロクに鍛えていなかったからな。

 

 ……それにしてもあれは辛かった。会社辞めようかとも考えたぐらいだしな。



「――――と。着いたぞ」

「……ん? ミレアちゃん? なんにも、いですが……」

「――――うむ。ただの更地じゃな」



 俺たちが辿り着いた場所はティアやセルベリアが言うように何も無い山の中の更地。


 よく昔ここで野球をしたものだ。因みに友達はいなかったので木を的にボールを投げたりして遊んでいただけだがな。おっと、目から汗が。


 そんな冗談はさておき、ここなら問題ないだろう。


 

「……ここでなら魔法が使えるはずだ。 山の中なら多少の騒ぎも村の人は気にしないと思うしな」



 この山はよく子供たちが遊び場として使用する場所ため、一日中かなり騒がしい。


 だが今は丁度学校の時間帯なので子供たちはいないし、かといってこんな山の中まで上がってくる元気な爺さん婆さんなんていやしない。つまりベストコンディションなのである。



「……ふむ。なるほどな。なら早速魔力探知を始めるかの――――――」



 セルベリアはこの世界に存在する魔力を全身に取り込むと、隠していた角がぴょこんと出現する。なんか可愛い。


『魔力探知』。

 詳しく話したことは無かったがいい機会だ。こういった魔法の仕組みを知るというのも大事だからな。まぁ、俺の持つ知識はティアが持つ魔導書と、おっさんならではの経験を交えたもののため、実際は正確ではないと思うが。


 まず魔力探知をセルベリアに頼んでいる理由は単純に魔法に慣れているからだ。深い理由はない。


 そして魔力探知は体内に存在する魔力の循環の発生源を探すという仕組みだ。


 異世界人は呼吸と同時に魔力を体内に取り込む性質を持つという。もうここまで来ると哲学になってしまうので『地球人は魔力を吸わない、異世界人は魔力を吸う。しかし転生者は例外』と簡単に解釈してもらえると有難い。


 つまり、実際のところ異世界では皆、一定の魔力を保持しているのでそこまで強大な魔力の持ち主ではない限り、人探しには向いていない。実際は魔獣の索敵に使うものだと魔導書には記されている。


 だが、『地球』ならどうだ?

 俺たちは実際は知りえない『次元転送

 』という禁忌を使い、ソルベガたちは異質な存在『転移補正』の力を借り、こちらの世界にやってきているだろう。


 結論としては異世界人が地球にやってくる事例はほぼ無いということ。

 だからこそ、魔力探知に引っかかる人間は限られるということだ。



 ……どう? ちょっとは異世界っぽいこと語れたかな??



 ――――しかし、承知ではあるが魔力探知には問題点がある。それはある程度の魔力量の持ち主なら魔力探知されたことに気づいてしまうことだ。



「……ま。だからこそ人気の無いこの場所を選んだのだからな」



 俺たちには地球人に魔法を見られてはいけないという掟が禁忌魔法を通して存在するため、無闇に戦闘は行えない。まぁ、人混みの中、剣戟を散らすのも危険だからな。


 久しぶりに心中で葛藤を繰り広げていたうちにどうやらセルベリアの魔力探知が完了したようだ。……だが。やたらと落ち着きがない。冷や汗をかき、ソワソワしているようだった。



「……セルベリアちゃん、どうしたんでしょう?」

「……ん。 小便じゃね?」


 ――――と。冗談を言ってる場合ではなさそうな雰囲気だったため、俺とティアは急いで顔色が悪いセルベリアに駆けつけようとした時。


 セルベリアはある方向を指さし、



「――――――み、みれあとてぃあ。 すまないが直ぐに『戦闘バトル』のようじゃ……」

「「……え?」」



 セルベリアの指さす方角には先程まで全く気づかなかったのだが、小さなテントが張られていた。……そして魔力探知終了から数分が経過した時、テント内から女性と見覚えのある銀髪混じりの男――――――それは写真で見た人物。


紛れもなく"ソルベガ"だった。

……なんでテント生活してんだよ……―――――――



「「「「「あ」」」」」



 その場にいた五人の声が重なったことが全てを物語っている。恐らく、皆考えていることは同じだろうと。

 

 ……案外世界って狭いんだな。って。


別次元なんだが。


 実際、俺たちは初対面だ。

 だが、ディルソードを通じて色々と情報が回っていたため、両者とも直ぐに敵と判断し、睨み合う。


 ―――――その時だった。

 ある矛盾点に気づいてしまったのは。


 俺は先程、『魔力探知の説明の際、魔力探知に引っかかる人間は限られている』と答えを出した。しかしこれは母さんが話していた『晃兄さん』の存在と矛盾しているのだと。


 たしかに転生補正や禁忌魔法以外での次元転送の可能性だって無いとは一概に言えない。


 しかし、それはあくまで可能性であって今、次元転送を行う方法は二つのみ。―――――その点を交えて、ソルベガがこの母さんの実家に近い場所に寝泊まりをしていたということは――――――

 


 ……コイツが―――――『晃』兄さんなのか……?!


 その答えに結びついた俺から込み上げてくるのは再会の感動とは裏腹に"激しい怒り"。


 ――――この時、俺の心にある強い使命感が生まれた。


 ……もしソルベガが晃兄さんならば『こいつを止めるのは俺の役目だ』と。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る