第二部『再会と災厄、そして大魔王さま。』

新たな幕開け

第052話『したじゅんび 1』

「……良いのですか? ソルベガ様」



 月夜に照らされりし砦の祭儀場に銀髪混じりの男の姿があった。


 ――――男の名はソルベガ。

 特殊能力『服従』を手にした彼は様々な人間を手篭めにしてきた。………しかし、ある人物だけは違う。



「……ま、大丈夫だろ。 メイヤ、お前の力があればな」

「仰せのままに。私が想いを寄せるソルベガ様の為ならば……」



 ソルベガはメイヤの顎を掴み、唇に寄せた。……そう、彼女だけは自らソルベガの配下についた。


 ―――――そうとなれば服従の効果が薄れようとも彼への忠誠は解かれない。………だからこそ彼女だけをこの祭壇に読んだのだ。



「………キルシア、"魔法陣を展開しろ"」



 そしてソルベガが前方で待ち構えていた黒フードの女に命令を施すと、ソルベガとメイヤを囲むように魔法陣のサークルが展開される。


『次元転送』。

 それがキルシアが持つ能力である。



「……さてと。日本に戻ったらまだ生きてる母さんと馬鹿な弟、驚くだろうな……。ま、顔が違うから気づいてもらえないか。はははっ」



 そしてソルベガがニヤリと笑みを浮かべた瞬間――――――辺りの暗闇が一瞬にして明るさを取り戻す。


 ……そしてソルベガとメイヤは光がおさまると同時に姿を消すのだった。



 ――――生前世界『日本』へと。








 ♢









「………は? 何で来ないの?」



 ルクセント王国魔法士ギルド本部。


 久しぶりのギルドに思い馳せながらもテーブルに着く四人。


 ………そしてこの品のない言葉をつい漏らしたのは残念ながら俺ではない。



「お、おいティア。 気持ちはわかるが口調! 口調がね?!」

「あ?………あ、えとッ。 すみません……。ついまた……」



 最近垣間見えてきた事がある。

 ……俺たちと以前より心置き無く話すことが出来ているティアだが。



「(こうも荒い口調を見せられるとあのオドオドした喋り方が演技なのかと疑ってしまう……)」



 ……まぁ今重要なのはこちらではない。元はと言えば俺たちを愕然とさせた発言をしたディルソードに問題があるわけで。



「……あ、えっと。 僕がこの世界に残ると言ったのは―――――な訳でして……」

「てぃあにビビってないでちゃんと要件を言わぬか?」



 理由はティアの不意に見せる威圧によって上手く聞き取れなかったが、つまりディルソードは"ソルベガを追わない"という選択肢を選んだのである。


 ……まぁ言い訳ぐらいは聞いてやろう。



「……えとですね。 ソルベガ様が別世界に行かれるのはこの世界の平和と比例している訳では無いと思います。 ですから僕はここに残り、皆様が無事帰還できるよう、この世界を護っていきたいんです」


「「「お、おぉ………」」」



 あまりに主人公的なセリフだったため、俺たちは息を合わせ頷いた。

 

 ……俺にも主人公らしいこと言わせたりさせろ。


 ――――とまぁ、冗談はさておき。

 筋の通った言い分だったため、肯定せざる負えない。



「……わかった。 俺たちだけでソルベガを追う」

「―――あ、ありがとうございますミレアさん……っ!! さすが僕が惚れた――――」

「――――ただし俺たちが帰ってきた時に異世界滅んじゃいました〜! とかほざいたらまた股間に聖剣突エクスカリバーすっからな?」


「………聖剣なんですから下品なことに使わないでくださいよ………」



 そういいつつ股間を押さえるディルソード。 ………うん、これなら異世界が滅ぶことはなさそうだなっ。








 ♢









 ディルソードと別れた俺たちはいつもの馬車引きのおっさんのもと、魔王城へと舞い降りた。

 ……というか、魔王城というか、友達の家に遊びに行く感覚だな。


 城へ入ると、今日も大盛況、勇敢な勇者(笑)たちが何人もエントランスで士気を高めていた。汗臭。



「―――どうした? みれあとてぃあ。 早く我の部屋に来るのじゃ」

「お、おう」

「う、うんっ」



 堂々と勇者たちの目の前で短縮扉を開けるセルベリア。勿論、勇者さんたちは顎が外れてしまったかのように口を開き、唖然としていた。――――すげぇ、入りづれぇ……。









 ♢








 短縮扉を抜けると、お馴染みの最終決戦の間の目の前に到着する。………しかし今日はここには興味無い。


 そうして何気なく最終決戦の間を通り過ぎようとするのだったか、あるものに目がいってしまい、足を止めてしまう。


 そう、最終決戦の間の扉に一枚の張り紙が貼ってあった。ごつい扉に小さな張り紙という謎のインパクトに惹かれ、つい内容を見るべく近づく。



『※ただいまお手洗いに行っております。魔王(代理)レギオス』


「(……相変わらず呑気だよな。魔族って)」



 それより『魔王』と『レギオス』のあいだに薄く『代理』と書かれているのが何とも言えない、、、、。



「みれあ? こっちじゃよー!!」

「お、おうよっ。 今行く――――――」

 


 ―――――♪〜♪〜♪〜♪〜


 ……ん?

 なんか今扉の奥から騒がしい音楽が聞こえた気が、、、、――――――



『あぁぁぁぁ!! 最後のトリルでミスってしまったぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 


 ……そしてレギオスの叫び声。

 ――――『トリル』というのはよく分からんが、魔王の仕事をサボっていることが良くわかった。


 今回ばかりは俺の広い心に免じて見逃してやろう。命拾いしたな、レギオスさんよ。


 ―――――後にティアに聞いたところ、『トリル』とは音ゲー用語らしいです。


 それ以前に音ゲーを知らない自分がいる。 おじさん赤帽子を被った小さなおじさんのゲームまでならなんとか知ってるぞ。










おじさんだけに。

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