第053話『したじゅんび 2』
最終決戦の間を過ぎ、奥の廊下に来たのは案外初めてだった。
少し歩いただけでも50部屋程通り過ぎているが、いつになったらこいつの部屋に着くのだろうか。―――――と、足が悲鳴を上げそうだったその時、セルベリアがある一室の前で足を止めた。
……良かったな足。もう休んでいいぞ――――。
「このとびらの先が我が
「「……し、『神秘の間』―――ッ?!」」
その神々しい名称に俺たちは固唾を飲む。―――――そんな、えと………なんかヤバそうな部屋に俺ら一般人が立ち入ってもいいのだろうか?
―――――という俺のお約束セリフを一応吐いておこう。
セルベリア自身は真面目なんだろうけどな。恐らくこれも俺の補正のせいである。
そして扉を開け、中へはいると案の定部屋は―――――――へ、部屋は………
「―――――い、いやぁ。ここまでのは予想してなかったわ」
「……私、セルベリアちゃんの発言を勝手にミレアちゃんの能力のせいだとばかり思っていました……」
……い、いや。俺の能力のせいだよこれは。
正直なところ、『神秘の間』という名称とは裏腹に入ってみると案外素朴な和室なんじゃないかと思い込んでいた。きっとティアも同じだろう。……だがどうやら想像力が足りなかったようだ。
部屋に入り、最初に目に付いたのは中に浮かぶ無数の本棚。
所々乱雑に移動する本棚を目で追い天井を見上げたのだが、何故か天井が見当たらない。……どうやら天井に果てがないようだ。―――――もうこれ異世界の類で括りきれないような……?
結果として俺たちの予想を遥か彼方斜めをいくカタチになっていたのだった。
「みれあとてぃあはソファーにでも腰掛けててくれ。 我は今から次元転送の魔道書を探すのじゃ」
「……い、いや探すってこの何万もある本棚からッ??」
「大丈夫じゃよ。『ルールル検索』すればすぐに探せるのだからな」
……ルールル検索……?
―――するとセルベリアは
そのリンゴマークあれだよな。 世界的に有名な
……いや、今更この異世界の『定義』に口を出すのは野暮だな。うん。見なかったことにしよう。うん。
……うん。
――――ツッコミを諦めた俺は大人しくティアとソファーに座り、検索を終えるのを待っていると、セルベリアの指が止まっていることに気づく。
「………と。どうやらこの部屋
「……まだあるのかよこの部屋―――――と。なんでもない。 早く行こうか」
いかんいかん、ツッコミ癖がついてしまったのかつい言葉に出してしまった。……なれると怖いな、ツッコミ役って。
因みにいつから自称主人公役の俺が現役ツッコミ役になったのかは考えないようにした。
そうして俺たち一行は神秘の間とやらを後にし、俺たちが向かった先は―――――――
「……"最終決戦の間"だな」
「……"最終決戦の間"ですね」
お馴染みの場所だった。
先程見た張り紙が貼られているのを気にせず、セルベリアは扉をガンガン蹴飛ばす。実に容赦がない魔王だ。
「こら客じゃレギオスッ!! 早く開けんかッ!!」
『ま、魔王様ッ?! し、しばしお待ちをッ――――』
扉越しから聞こえるレギオスの慌ただしい声。もう張り紙の『お手洗いに行っています』の言葉の意味ね。
最終決戦の間はシャワールーム兼トイレみたいなアパート構造なのかと皮肉を考えたりしてみたり。
セルベリアが呼びかけてから約20秒後、いよいよ分厚い扉が開かれる。
そして、レギオスが待つ玉座まで歩こうとするのだが、何やら紳士的に扉の目の前でお出迎えをしてくれた。汗ダクダクで。
「(……サボりの隠蔽って大変だよな)」
会社勤めをしていた俺だからこそわかる苦しみ。俺も一度外せない用事があって会社に仮病連絡をしたことがあったが、次の日出勤したとき、かなり怪しまれたからなぁ。
「なんで汗だくなのじゃ?」
「あ、これはその……。垂直跳び100メートルに挑戦していまして……」
かなり無理のある言い訳だが、幸いセルベリアはバカで、ティアは基本優しい。結果として俺が無視すればレギオスの隠蔽が完了する事になる。
――――だがこういった状況の主導権を握るのも悪くは無いな……。俺の脳内にいる悪魔がそう囁いた。
「うわぁぁぁ!!
「……ミレア……様――――?」
まるで小学生の様な語彙力皆無な嫌がらせで煽る。造作もない言葉こそ一番怒りがそそり立つってもんだ。
安心してくれ、こんな軽率な発言をしたのだから運命は決まっている。『なんでこんな死亡フラグを建ててしまったんだ? 俺』などとマイナスな思考は抱かない。
―――――今起こる事象が現実なのだから。
殺意満ち溢れる目付きを向けた刹那。前方にいたはずのレギオスが消えたと思うと同時に俺の背後から冷徹な殺気が感じ取れた。
そして振り向く暇もなく愚かな俺の口は呆気なくおさえられる。瞬きする時間すら与えてくれなかった。ついでに首も完全に固められ、関節が決まっている。―――――勿論、背後にいるのは戦闘態勢の
「(なぜ知っているのかは敢えて問いませんが、次言ったら躊躇いなく首飛ばす)」
「(はい慎みます)」
こうしてわかったこと。
俺にツッコミ役は向いていないということだ。
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