第038話『いんぼう 4』
………相手が小さな男の子でも気は抜かない。―――――それは先程感じた殺気は此奴から来るものだから。
「まぁまぁ皆さん。 武器を納め下さい。 僕に戦意はありません」
「………殺気をガンガンぶつけられたらそりゃ構えるよ」
……と、皮肉気味にいいつつも、俺たちは武器を納める。すると、目の前から殺気が遠退いていった。
………一概に言えはしないが、かなり危険な相手だろう。
「………名前、聞いていいか?」
――――そう発したのは俺ではなくシグルドさんだった。
何やらショタナイトを目撃したせいか、身体が震えていた。
………そりゃね? ガキの魔法士なんて天然記念物並に珍しいってのに、次は男の子が現れちゃうんだもんな。
誰だって提供確率1パーセントのキャラが連続して出た時ビビるもんな。
だって1パーセントだよ?!
現代で『99パーセントの努力と1パーセントのひらめき』が二度も実現してしまったんだぞ?! 今晩の飯が最後の晩餐かとも思ったりしたな。
シグルドさんの感情に自身のエピソードを交え、共感していると、男の子がこちらへ近づき、俺の顔を下から除く。………案外近くて困る。
「僕の名前は"ディルソード"。 ………僕の名前を聞いたものは大抵腰を抜かすんだよね―――――――」
「おいティア。此奴知ってるか?」
「い、いえ。 全く知りませんよ?」
「………え、えぇー、、、、」
何故かディルソードが腰を抜かし両膝を地面に付けた。
……すまないな。
俺、ハリウッドクラスの人じゃないと他人の名前や顔は覚えないんだよ。
中学の同級生で田中って奴の名前すら間違えるぐらいだったからな。
……あれ? 俺って昔から忘れっぽい?
「―――――『通称、
ん?? ………三銃士?
不意にシグルドさんがそう言葉を漏らす。―――――マリを背負う中、いつ倒れるか定かではないほど顔色が優れていなかった。
そんな中、シグルドさんは震えた声でディルソードに問う。
「………なぁ、ショタナイトさんよ。 お前さんが引き受けたクエストって――――――――」
「……"陽動"。と言ったら今の君たちの立場を理解してくれるかな? 」
その刹那、俺の目の前で膝をついていたディルソードの剣が抜かれていた。
その剣は『赤い刃』に『見慣れない紋章』が描かれており――――――
「―――――ッ?!」
「…………へぇ。 この距離で受けるのか」
ディルソードの起動は俺の腹部付近にて停止した。………いや実際には聖剣で防いだ。
一旦剣でディルソードを弾き、皆いっせいに距離をとった。
………だが、追撃をするつもりは無いのか、ゆっくりと立ち上がり、剣を地面に突き刺した。
「……シグルドさん、此奴の素性、知ってるんですよね?」
「………あぁ。奴は奴隷大国『プレアデス』の三銃士と呼ばれる存在の一人『ディルソード』だ」
「つ、強いんですか?」
「………これは噂に過ぎないが、ひと振りで国を吹き飛ばすとかなんとか」
おい、国滅ぼせるのセルベリアの特権じゃなかったのかよ。
そんなクラスの奴が何人もいてよく成り立つなこの世界。
信じ難いので聞いてみよう。
「おーい、お前国滅ぼせんの〜?!」
「……の、呑気な方ですね。 いえ、僕だけじゃ国なんて規模滅ぼせませんよ?」
うっし、勝ったぞセルベリア。
何故か小さなガッツポーズをとる俺。
……やっぱり国滅ぼすのは魔王特権だよな。
「と。取り乱した。………で、なんで俺――――私たちを狙うんだ?」
取り敢えずわかったことがある。
………先程から気の抜けたふざけた会話を繰り広げていたが、ディルソードの殺気が弱まることは無かった。
――――かといって強まるわけでもなかったが。
あくまで予想ではあるが、コイツは俺
警戒心こそ怠らないが、聖剣は抜かない。………それはまだ弁解して置きたいことがあるから。
神妙な空気の中、ディルソードは再びこちらにやってくる。
………その手に
これはどういった手だ?
………弁解に応じてくれたのか? いやそれは他人を浅く見すぎだ。―――――ならば剣を取らずとも俺を蹴散らせるという威圧なのか?!
敵が迫る中、俺は頭を抱え、キラキラとした銀髪をただただ揺らしていた。
――――冷静になるんだ
ディルソードも同様、クエストを受けに来たと言っている。
それはあくまで『クエスト』であり俺らと同じ狼退治じゃないとしたら―――――――?
…………こいつが引き受けたのは『異世界転生者の排除』というクエストを受けたという事になり、つまり『敵』―――――――――
――――――バシッ!!
俺が聖剣を握ろうとした瞬間、両手がディルソードに握られてしまった。
…………クソっ、一歩考えが遅かったか―――――――ん?
俺の手を掴むディルソードが頭から煙を出し硬直していた。………手汗も半端ない。
新手の発火魔法………?
そう考えた矢先、ディルソードが声を上げた。
………
「やっぱりあなたは最高の女性です。………僕は君のことがす、す、好きなんですっっっ!!」
「…………はい?」
場の空気が一変し、(ある意味)凍りつく。
―――――あれ? いつからラブコメ展開になったの? これはちゃんとフラグ用意しておけよぉ……………。
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