第037話『いんぼう 3』

 シグルドさんの家族とテーブルを囲み、楽しく談話と行きたいところではあるが、俺たちはあくまで仕事出来ている。シグルドさんみたく、他に用事はない。


 シグルドさんとはあとから合流するという形で、俺とティアは情報収集のため、住宅密集地で聞き込みを開始していた。



「そう、狼ッ!! うちで捕った魚全部食われちまって困ってんだよなぁ」



 まずは一人目。漁師のおじさんだ。

 聞くに魚を食われてしまっているだけと言うのも何だが、人的被害の話は一切無かった。


 さらに聞いた話によると、狼は夕方になると、群れで漁港に現れ、漁師たちを威嚇し、魚をとっていくのだという。 ………人間に対して敵意はあるようだ。



「なぁ、ティア。 どう思う? 今のだけで狼の生息地とか――――――」

「ごめん、まだ情報が足りないかな。 あと、狼は魚食べませんし………」

「――――まさか猫とかと勘違いしてたんじゃ………」



 歳って怖いよな。

 長年の経験か、相手に聞かれたことを上手く自身のエピソードに加え、恰も現実で怒ったかのように錯覚してしまう。


 俺も後20年経ってればあんな風になっていたと考えると震えが止まらない。


 

 ………気を取り直して。

 次に訪れたのは村の病院。もしかしたら狼に襲われた人がいるのではないかと思い、受付の女性に許可をもらい、聞き込みをすることに。



「えーっと、102号室と131号室の患者さんが魔獣に襲われたらしいが」

「魔獣化した動物が生息している時点で危険ですね、この村」



 個人情報を伏せたカルテを特別に頂いた俺たちはそれに目を通しながら廊下を歩く。


 たしかに魔獣が狼じゃなくとも脅威には変わりない。 クエスト外の任務もまた魔法士の腕の見せ所ってわけだ。


 

 歩む足を止め、まずは102号室のドアをノックする。

 すると、若者らしい大きな男性声で『どうぞー』と返されたので遠慮なく入らせてもらう。



「……え、? なんの用かな?」



 ベッドで寝そべっていた男性は俺たち見知らぬ女の子を目の前にして驚きが隠せていなかった。


 驚くのも無理はない。

 いきなり小さな女の子が押しかけてくるんだ。『え? 俺、こんな小さな子と連絡エンコーしてたっけ?』と困惑と共に法に触れるという恐怖感に苛まれているに違いない。 うん、そんな考えに陥る俺こそ逮捕である。



「すみません。ルクセント王国魔法士のミレアと申します。 今日はクエストの件についてお伺いしたい所存でして」


「え? 魔法士?! そんな小さいのにかよ、すげーなおい。 俺でよけりゃ協力するさ」



 若者男性の積極性にそっと胸をなで下ろす。


 本当に驚きである。

 前世俺の世界の若者はこういった年下の子の話を聞いてくれる人間が少なく、それまた年上の人間の反感を買う輩も多く、若者の社会離れが進んでいた。


 そんな世界から来た俺だからこそ感じられるこの安心感と喜び。

 これならスムーズにクエストが進められそうだ。



「では、早速ですが、その怪我は何にに襲われたんですか?」



 単刀直入に聞かせてもらうと、若者男性は少々困り果てた顔で右足の包帯を指さす。包帯の巻かれている範囲からするに、噛み傷だとは思うが――――――――



「いやぁね? 旅館の若女将・・・の尻追ってたら脛蹴られちゃいましてね………。 いやぁ、あんなピチピチで力が強いなんて惚れ惚れしちまうなぁぁ――――――と、すまんすまん。 子供相手に惚気話するなんてなぁ」



 狼ではなく女将オカミ違いでした。あまりに強引な解釈に溜息すら出ない。

 

 前言撤回という言葉はこの時のために作られた言葉なのだと思った。ただの盛りの糞猿だったようです。



「これ以上、性欲猿に時間を割くわけにも行かないからそれじゃ。 脱童貞ふぁいとー――――――」

「み、ミレアちゃん?! 待ってよ〜?!」



 なんなんだ? この世界。

 全世代を通してレイパー未遂犯が溢れかえっている気がするんですが?!


 俺は自身の『初めて』喪失という恐怖を身に染みて感じることが出来た。

 俺は純情に生きるぞ。









 ♢








 聞き込みを諦め、俺たちはシグルドさんと合流して村近くの森を調査する…………予定だったのだが、



「すまんなぁ、ロリナイトたちとお仕事と言ったら駄々こねられちまってなぁ」



 シグルドさんは娘のマナを肩車し、上機嫌に鼻歌を歌いながら森を進んでいた。…………なんか家族でハイキングに来た時を思い出した。


 そういえばあの時神社で会った女の子元気かな。


 凄く可愛かったけど、病弱だったため恋愛感情より先に心配するという感情が強かったような?


 そこで俺が性欲だけの男じゃないと知れたいい機会だったよ。


 まぁ、その日はその女の子の面倒を見ていたせいで家族に置いてかれ、駅まで8時間ぐらい歩いた最悪な思い出でもある。


 …………って、俺の昔話なんかどうでもいいんだ。



「いいんですか? シグルドさん。この森は危険なんですよ?」



 狼がここにいるのかは定かではないが。


 

「はっはっは。気にするな、これでも俺さAランク魔法士なんだぞ??」

「そうだそうだー!!」



 ………二人揃って。

 二人の謎の勇敢感に俺とティアは苦笑い。バカ親子だ――――――



「…………んっ?!」



 ………そんなワイワイとした明るい雰囲気の中だった。


 背後からただならぬ殺気の持ち主が近づいてくるのを察したのは俺だけではなく、シグルドさんやティアも同様だった。


 皆、武器を手に取り、構えていると―――――――



「…………やぁ、君たちもクエストかい?」

 

「………え。」

「うそっ?!」

「………おいおい、ショタナイト・・・・・・は聞いてないぞ」



 そう。

 俺たちの目の前に現れたのは聖騎士鎧の軽装備を身に付けた小さな男の子だった。



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