また事件。そしてショタに目覚めそう。

第035話『いんぼう 1』

「ミレアちゃん? 頭が痛いんですか?」「………あ、いや。そういうわけではなくてだな」



 昨晩、俺は変な夢を見た。


 生前。

 過去についての夢だった。


 今更ながら、死ぬ前後の自分を思い出してしまい、少々気分が乗らなかった。ギルド内のテーブルでセルベリアがクエスト発注を済ませてくるまで待っていると、大きな影が俺たちを覆った。



「ようっ! ロリナイト。 今日は元気ないようだな」



 顎髭を生やしたおじさんが深刻そうな表情を浮かべながら、俺たちの向かい席に座った。………相変わらず子供思いだよな、この人。

 

 この盾騎士のおっさんは『シグルド』。俺たち三人組にいつも良くしてくれる心優しいAランク魔法士。これ程まで優しい人間はそう出会えないだろう。

 ………だからこそからかいたくなる。


「………女の子の日なんだよ」

「そ、そうだったのか?! はははっ。そういえば、うちの娘は最近『生理が来ない』とかいってたなぁ」



 ………え、それ笑い事じゃなくないおっさん?! それ出来ちゃってるよ娘さん。 素直に喜んでいいのか反応に困るよそれっ?! 彼氏いること知っているんだよね? 最近そういざこざ少なくないから心配だよ。


こんな感じでシグルドさんは気安く話しかけてきてくれる唯一と言っていい男性だ。

 ………まぁ実際、女性のデリケートな事情を普通に喋るところはよろしくないと思うが、俺はこれで話しやすくてたすかっている。


 まぁ、きっとシグルドさんも俺がそういうやつだと分かって発言していると思うけどね。



「まぁ、元気そうで何よりさっ」

「………ん? シグルドさん、何のクエスト受けるんだ?」



 発注書に目を通すシグルドさんの背後に周り、ティアと共に好奇心ながら内容を覗く。



『・サド村の狼の討伐・報酬金︰2500ペリア』。



 ………うーん、Aランクの魔法士が引き受けるようなクエストじゃない気がするが。



「サド村は俺の家族が住む村なんだ。クエストこなしながら顔出そうかなってね」

 

「……なるほど。それなら納得がいく」

「良いお父さんなんですねっ」



 ティアに褒められると、シグルドは気恥しいそうに頭をポリポリとかく。


 そんな時、一枚の発注書を手にしたセルベリアがこちらに戻ってきた。

 ………何故か超ノリノリで。



「見ろ、てぃあ、みれあ!! レギオス討伐クエストがあったぞ!! みんなでぶっころそー!!」


「………い、いや。レギオス強いじゃん。しりとり以外じゃ勝てる気しないから―――――って、これマルチクエストじゃなくて『ソロクエスト』じゃん」



 発注書の端に青色のシールが貼られており、これは『ソロクエスト』を示すもの。逆にマルチクエストにはシールは貼られていない。


 因みにだが、ソロクエストは一度発注してしまうと、キャンセルはできないのだが―――――――



「………み、みれあぁぁぁ………!!」

「自業自得だ。 二人で仲良く最終決戦でもしてこいっ!!」



 涙目で抱きつかれてもなぁ………。

 魔王が魔王城に乗り込むという謎のシチュエーションが生まれるそうです。

 正直、見たくねぇ。


 このままだと『ついてくるのじゃ!』と言われ、気絶させてでも連れてかれそうなので、早めに退散するのがよさそうだな。



「なぁ、みれあ。 いっしょについていくだけでも―――――――」

「あ、俺とティアはシグルドさんとクエスト受けるからさ」


「お、おいロリナイトさ――――――」



 何やらシグルドさんが失言を吐こうとしているので、背負っていた聖剣を取り出し、シグルドさんの生命ライフに刃を向け、満面の笑みで、



「愛しの妻とプロレスができなくなっちゃうのは嫌ですよね?」

「………幼い子がよくそんな汚い言葉知ってるな。近しい娘を持つ父として心配だよ…………取り敢えず聖剣を下げてくれないか?」



 よしっ、契約成立。

 こう考えると男は弱い生き物なんだとつくづく思う。


 常に生命ライフたるものを無防備にぶら下げてるんだぜ?


 まぁ、女性には女性なりの痛みがあるんだが、生憎俺にはないようだ。


 つまり俺に弱点は無いのだ。はっはっはー!!



「ミレアちゃん?! 女の子が大股で笑うなんて品がないよッ?!」



 でももう少し女の子らしく振る舞うよう、気をつけた方がいいのかもしれない。







 


 

 ♢







 サド村は、ルクセント王国の対岸に位置する小さな島に存在する。


 今時こんとき、俺は初めて海賊船に乗った。正確に言えば貨物船なのだが。


 船のデッキから眺める透き通った蒼い海は贅沢この上ないものだった。


 日本の海は海中にいる魚が見えるほど綺麗じゃないからなぁ。 奄美大島の海は絶景だとドルオタの同僚に聞いたが、もうこの海でお腹一杯だ。



「なぁロリナイトよ、赤頭巾ガールは居るが、ドラキュラガールは置いてきてよかったのかい?」


 

 シグルドさんのネーミングセンスは良いと言っていいものなのかはさておき。



「仕方ないさ、ソロクエストなんて受けちまったんだからさ」



 海を眺め、黄昏たようにそう答えると、シグルドは納得したかのように腰に手を当て笑う。



「そういえばさっきからティアが見当たらないんだけど」

「あぁ、赤頭巾ガールなら部屋で本を読むって言ってたぞ?」

 

「………ったく、仲間と行動を共にする中、インドアだと嫌われるぞ」



 どうせ、サド村がある島のパンフレットか、狼図鑑辺りを読み漁っているのだろう。 努力家というかなんというか。


 ………にしてもセルベリア、大丈夫だろうか。


 フラグとわかりつつも嫌な予感がする自分がいたのだった。………お土産、買ってきてやるからな、ドラキュラガール。


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