第003話『もりにて 2』

「あっ……?! そこの女の子さんッ?! き、危険ですッ!! 早く避難をっ」



 赤頭巾を被った女の子は山菜を地面に落とした事すら忘れ俺の腕を引っ張り、避難を促す。


 …………いやさ? 心遣いはありがたいんだけどね? これ、俺の仕業なのよ? ここで逃げたらただの放火魔になっちゃうからさ?!


 ―――――そう思っていても口に出来ないのが事実。

 女の子は今にも泣き出しそうな表情で俺を助けようとしている。


 …………涙を零しながらも俺を気遣う勇気のある子に今更『あ、ごみん。俺が犯人です』なんて言えるわけがない。


 だからといってこのまま一緒に逃げ出すというわけにもいかない。

 …………自分のケツは自分で拭けってわけだ。



「お前は下がってろ。 俺が火を消す・・・・



 覚悟を決め、腕を掴む女の子を軽く振り払う。そして俺は右手に抱えていた聖剣を女の子に預ける。



「…………ひぇっ?!」



――――ドスンッ!!


 相当重かったのか、女の子は聖剣に押し潰されてしまう。―――――まぁ好都合だ。また避難を促されてはこっちも魔法・・に集中できない。


 俺は燃え盛る木々に手を向け、再び魔法を繰り出す。


 …………この広範囲の火を消す水魔法――――――くそっ、仕方ねぇ。

ネーミングセンス無いからって笑うんじゃねぇぞ?!



「…………燃え盛る炎を鎮めよ、『水源の地ウォーターグラウンド』ッ―――――!!」



 再びあの巨大な魔法陣が構築され、サークルから大量の水が押し寄せ、赤い森を呑み込んでいく。



「おっとすまんなっ。 逃げっぞ」

「………ふぇっ?!」



 このままだと俺たちも巻き込まれるため、聖剣に押しつぶされた女の子を背負い、ただひたすらに走った。








 ♢







 数分走ったところで、水の流れが止まった。―――――ったく、俺の魔法二次災害しか起こさねぇじゃねぇか……………。


 気がつけば、木造建築が立ち並ぶ小さな村に到着していた。

 すると、俺の背負で脱力していた女の子がぴくりと動き出し、



「わ、私の村ですッ」

「お。そりゃ幸運だな」



 女の子を下ろす。

 すると、村の人だろうか、たくさんの人が足を揃え集まってくる。



『ティアちゃん大丈夫かい?! 今森が燃えていたようだけど』

『水の音もしたわ?! もしかして魔獣が現れたのかしら?!』


「い、いえ。私はこの通り無傷です」



 小さい子から老人まで様々の人が女の子……ティアを気にかけ、集まる。

 ……この村で愛されてるんだな、ティアは―――――――


 

「この女の子さんが助けてくれまして…………」



 え?

 いや、ここで話振るか、普通?!

 …………いや、形はどうであれ助けたのには変わりないのか。


 ………だがしかし、こういうのは『自作自演』というやつで、元凶は俺な訳でして…………。


 ティアが俺に話を振ると、村人たちのキラキラした目とした希望の視線が俺に向き、



『こんな小さい子が?! 偉いわねぇ?! ご飯食べて行ってよ! ご馳走させてくれ!!』

『わしの孫ぐらいの体格であの火を消す魔法が使えるとは………ぜひ話を聞かせてくれぬか?!』



 絶賛人気者でした。

 ………やめてくれッ!! 自作自演で讃えられるのはかなり心に痛むからッ!!


 オジサン、メンタル弱いからッ!!

 …………い、今は銀髪ロリですけどねッ!!



「…………あ、あのッ!!」



 村人たちが俺を囲みガヤガヤする中、ティアが大きな声を上げる。


 何事かと村人たちは騒ぎを静め、俺とティアの間に道を作る。

 そしてティアは一歩ずつ近づいてくる。


 異様な緊張感が俺の心臓をバクバク鳴らす。――――――迫り来るティアの圧迫感に俺はつい目を瞑ってしまう。


――――その時ふと手が温もりに包まれる。この柔らかい肌の感触……。これは手を握られているのか?


 ゆっくりと目を開けると、そこには頬を赤らめたティアの顔が目の前にあった。



「お、お礼は私がしますッ!! 銀髪の女の子さんっ。今日は私の家に泊まってくださいッ!!」

「…………お、おう」



 余りの力強さに思わず返事を絞り出される。…………ホントすみませんッ。 ほんの出来心で焚き火を焚こうとしたら、火事になって、たまたまそこに居合わせた女の子を守る形で消火しただけなんです。


 …………恐らく俺の容姿が銀髪ロリではなく、本来の姿である髭を生やしたオジサンだったらこんな優遇はされなかっただろう。

 ―――――見た目って大事だね。








 ♢












 そんなわけで、俺は女の子の家にやってきました。


『女の子の家』。これ重要ですよ? 生まれて初めてだよ?! 女の子の家。

 ………まぁ、ティアからすれば同年代の女の子を家に招く程度にしか考えていないだろうけどね。



「キミがティアを助けてくれた女の子かい?」

「あらあら〜?! ティアと同い年ぐらいの子が立派に聖剣を持って〜! 今日はご馳走ねッ!!」



 ティアの温かい雰囲気の両親二人に歓迎をされ、俺は空き室に案内される。

 ………空き室とはいっても埃ひとつない綺麗な一室だ。


 とりあえず部屋角に聖剣を立て掛け、椅子に座ると、ティアがお茶を持ってきてくれた。

 テーブルにお茶を置くと同時に俺の向かい席に座る。

 

 すると、先程のように頬を赤らめ、更にモジモジし始める。 おしっこ我慢してるのか? 気にせず行けばいいのに―――――――



「あ、あのッ!!」

「ブフゥゥゥッ?! は、はひぃ?!」



 そして先程のように急に大きな声をあげられ、口に含んでいたお茶を吹きこぼしてしまう。…………一見大人しそうに見えるが、かなり大胆な子なのか?!


「…………けほっ。で。な、なにかな?」

「い、一緒にお風呂に入りませんか?」



 あぁ。なるほど。

 そういえばさっき全力疾走したせいか、汗まみれだな…………。そんなに気を使わせてしまって申し訳な――――――



「…………え?」



 ………冷静になれ俺。

 今この子は『一緒に』と言ったよな?

 …………そ、それってティアの発育途中の身体を――――――――


 思考を停止させた。

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