第004話『もりにて 3』

 ――――ちゃぽん。


 湯船に足を入れると、水の弾ける音が浴場に響く。―――――まさかこんな森の中に立派な風呂、しかも銭湯並の大きさのものがあるとはオジサン感心したよ。



「………ま。今は女の子ですが」



 自身の身体を見るだけで罪悪感を感じてしまう。―――――にしても胸も小せぇな俺。


 ムニュムニュと寄せるように触る。

 …………お、小さいくせに中々弾力が――――――だが興奮しないのは何故だろうか?


 いやね? 自分の身体に欲情してたらこの先生きづらくなるから良かったんだけどね?


 ただ、念願であった女性のおっぱいがまさか自分の胸とはな……………。人生、辛なり。

 一先ず身体を洗おうと、湯船から出ようとした時、ガラガラーッと浴場のドアが開かれる。



「…………お、おぉ」



 タオルで胸を隠しているもの、その細くて美麗なボディラインと豊富な胸は隠すことは出来ず。


「お、おぉ………」

「え、えと。 どうして拍手……?」


 俺はティアを裸体を見て思わず生唾を呑み、思わずパチパチと拍手を贈ってしまう。


 何だかイケナイ事をしているようだが、今の俺は女であり、犯罪ではないのだ。


 つまりお触りしても児童ポルノ法には引っかからず、単なる百合として扱われるのだ―――――て、なに馬鹿な事考えてるんだ俺はっ。



「お背中流しましょうか?」

「………お、おう。頼む」



 ティアの誘導のもと、俺はシャワーの前のイスに座る。

 流石に大股で座るのは女の子として品がないので、しっかりと股を閉じ、女の子座りをする。……これ、かなり辛いんだな。



「で、では。た、頼みましゅっ?!」

「はいっ! まずはタオルでゴシゴシしますね?」



 風俗(行ったことは無い)とはまた違う、妙な空気に耐えきれず思わず挨拶をしてしまう。更に噛んでしまい最悪だ。


 早速、背中に柔らかなタオル生地が当てられ、擦られる。

 ―――――ヤバい、すごい変な気分だ。

今の俺は女の子とはいえ一応男心を持っているんだ。興奮はしなくとも妙にむず痒くて仕方がない。 なんか話題を切り出して理性を保たなくてはッ、



「お名前、まだでしたよね? 宜しければお聞きしたいのですが」



 ティアから話を振ってくれたお陰で、悶々とした気分はだいぶ緩和された。


 それより名前、か。

 …………出来るだけ女の子っぽい名前を名乗らなければ――――――



「………『ミレア』。 今日はありがとね、ティア」

「――――ッ!! い、いえっ! こちらこそありがとうございますッ!」



 今回ばかりは女の子らしい口調で話してみる。…………この喋りにも慣れていかないとな。因みに名前の由来は合法ロリ系のエッチなビデオに登場するみれあちゃん(自称12歳)から来ている。ぱっと浮かんだ名前がこれとは実に恥ずかしい。


まぁ、覚えやすいから許す。

なんとか打ち解けた俺たちはこの後も色々な会話を繰り広げるのだった。








 ♢








 ティアに串で髪を整えてもらった後、俺は部屋に戻り、窓から星を眺めていた。


 俺が住んでいた東京の景色からは考えられないほどの星が夜空を照らしていた。…………それはまるで俺が異世界に来たことを改めて教えてくれるように。


 昨日まではビール飲んで、会社行って、上司の飲みに付き合うなど、つまらない人生を送っていたはずなのにな。


 今は銀髪ロリ美少女に生まれ変わり、聖剣を持ち、女の子を助けている。繰り返すが自作自演ではあるが。


 これから一体、俺はどんな人生を歩むのだろうか検討が付かなかった。

 ………でも恐怖はない。


 何故なら自信があるのだ。

 この世界ならば幸せに人生を歩めると。 そう胸で感じながら夜空に深々と浮かぶ星々を眺めていると、隣の部屋からティアと、そのご両親の声が聞こえてくる。


 盗み聞きをするようで悪いが、聞かせてもらう。



『ダメだ。ティア、お前は身体が弱いんだ。 魔法士・・・には向いていないんだ』



 声を荒らげるティアの父。どうやら揉めているようだった。 引き続き、耳を傾けていると、力強いティアの声が響き渡った。



『わ、私もミレア見たいに皆を守れるようになりたいんですッ!! お父さん、お母さんッ、お願いしますッ!!』



 自分の名前が出されると同時にトクンと心臓が跳ねる。


 聞くからに魔法士というものは警察官や自衛隊のように危険が伴う職業であり、両親は娘の心配をし、反対をしている。


 対してティアは今日がきっかけとなり、自身の将来を強く固めたのだ。


 …………どちらとも言い分は良くわかる。 両親が娘の心配をするのは当然であり、かと言って娘が決めた事を曲げられずにいる。


 会話はさらに続く。



『ティア。爺様や婆様は貴方が危険を犯してまで仇をうって欲しいとは思っていないはずよ?』

『そうだ。 魔獣は危険なんだ。 きっと爺様や婆様はティアにそこまでして欲しいとは思ってないはずだ』



 ………なるほど。

 聞くに爺様と婆様は魔獣に襲われ、ティアはその仇討ちをしたいと思っているのか。



『で、でもッ。 私はやりたいんです。 どうしても……大好きだった爺様と婆様の仇を…………それに………』


 嗚咽混じりにそう叫ぶティア。


 …………『愛する者のために戦う』か。

 

 俺は一人笑みを浮かべる。

 …………その気持ちがあるなら引き止める必要はないよなっ――――――!!


 俺の足は勝手に動いていた。

 …………ティアたちがいる部屋へと。

 

 そして強くドアを開ける。

 何事かと三人は唖然とこちらを見つめていた。


 俺は大きな深呼吸を一度だけし、思いを告げた。



「…………ティアならなれますよッ!! 最高の魔法士にッ!!」



 確証などは勿論ない。

 ………だが居ても立ってもいられなかった。――――――人に努力する精神が生まれた時が変われる奇跡ときなんだ。


 人はそこで変われなきゃ一生後悔する。俺はその『変化』を見逃したく無かった。


 …………職業病かな?

 仕事が覚束無くとも努力する人間を見捨てられないのは。

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