リンネ
機乃遙
序幕
序幕
雨が降っていた。すべてを洗い流し、消してしまいそうな雨が。アスファルトをドス黒く染め上げる雨が。
足元では、水溜りが街灯の光を反射していた。でもその水溜りには血が流れ落ちていって、赤く染まって、光は汚れていった。
流れ落ちる雫。
僕はそれに刃向かうように、タバコに火をつけた。マッチを一本取り出して、消えないように手で包んでやって、優しく着火。そうしてその火先を、くわえたタバコに近づけた。
灯る火と、雨の夜空に消えていく紫煙。僕はそれを眺めながら、左手に目を落とした。
僕の左手。それは血に汚れて、もう雨でさえ洗い流せなくなっていた。だけど、そんな指先はいま一人の少女に握りしめられていた。
その少女……日本人離れした青白い肌に、栗色の髪。見かけ十歳にも満たない彼女。そんな少女が僕に身をすり寄せていた。血塗られ、紫煙を吐き散らし、硝煙の匂いに染まってしまった僕なんかに。
少女は寒そうに肩を震わせた。僕はすこしだけカラダを近づけてやる。すこしでも近づけば、お互いのぬくもりが感じ取れると思って。
でも、それでも僕はタバコを吸い続けた。副流煙がどうとかなんて気にしなかった。
――だって、はじまりもタバコだったから。
――どうせ彼女も吸うことになるのだから。
だから僕は右手で紫煙をくゆらし、左手で少女の手を握り返した。まだ暖かいその手を、血に濡れた僕の手で。
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