風守カオル

「怜ちゃん、お久しぶりね。元気かな?」


 風守カオルはこの非常事態でも、何故かマイペースだった。


「……カオルさん、お久しぶりです」


 風森怜にとって風守カオルは遠い親戚に当る。

 苗字の字面じずらは少し違うのだが、風守かざもり風森かざもりも読みは同じである。

 以前から法事などで何回か会ってはいた。


「あ、悪童丸あくどうまる、ちょっと奴を止めておいて」


「御意! ≪犬神いぬがみ≫、≪猫鬼びょうき≫、あいつを倒せ!」


 六歳児ぐらいの子供が元気よく答えた。

 チビの陰陽師みたいな白い狩衣かりぎぬに紫の烏帽子えぼし姿である。

 陰陽五行の紋章が入った扇子をパチンと鳴らす。

 使い魔の≪犬神いぬがみ≫と≪猫鬼びょうき≫は子犬と子猫にしか見えない。

 悪童丸あくどうまるしゅを唱えると、子犬は精悍な狼になり、子猫は一角獣のような角を生やした猫というより大型の虎に変化した。

 そのまま巨大化していく。


「怪獣大決戦みたいな展開ね」


 秋月玲奈がつぶやく。

 高層ビルの向こうで巨大化した黒虎ブラックタイガーと巨大な狼と虎が戦いをはじめていた。


「うん、でも、長くはもたない」


 風守カオルはのんきそうに見えて意外と冷静である。


「結界を張る?」


 秋月玲奈は要領が分かっているようである。


「それしかない。時間を稼いで」


「うわ、無理難題ね。まあ、何とかするわ」


 秋月玲奈はいつのまにか赤いスタジャンの背中から黒い直刀を出していた。

 黒のGパンのポケットから小さな円鏡を取り出して、ペンダントのように首からかける。

 そのまま巨大な三匹の獣に向かって走りだした。


 黒い直刀は風守カオルのもつ<闇凪やみなぎの剣>のレプリカのひとつで、<常闇とこやみの剣>と呼ばれていた。

 威力も同等で遜色ないが、その呪力の性質は秋月玲奈専用にカスタマイズされている。


 裏秋月流の奥義<秋月流道術>を開放する。

 それは九州の秋月流柔術の宗家のみに伝承されているが、風守カオルと同じ日巫女ヒミコの血脈の力でもあった。

 風守家の分家のひとつが九州の秋月家になる。

 黒田官兵衛が吉備国(岡山県)の故郷「福岡」から九州に渡り、福岡という地名が九州に出来た。

 その時、秋月家も九州についていったと言われている。

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