月齢

 月齢14。

 満月である。

 人狼は必ずこの日に現れることは分かっている。

 その目的については分かっていないが、公安警察の神沢優かみさわゆう秋月怜奈あきづきれなと共に人狼の撃退とまではいかないが、人命救助に勤しんでいた。

 神沢優は公安警察というより秘密結社<天鴉アマガラス>のリーダーとして、新宿の怪異を何とか解決したい所だが、そちらの専門である道術士の風守カオルの到着が遅れていた。

 彼女は京都の別件で事件解決に当ってるので、まだ数週間は来れない予定である。


 神沢勇かみさわゆうはそんな事情を双子の姉から聞いて人狼との対決を諌められていた。

 が、結局、その忠告を聞かずに新宿に来ていた。

 やはり、後輩の怜の仇を討たない訳にはいかなかったし、不死身の人狼とやらに興味もあった。

 何より、世界の格闘技の中で「女子プロレスが最強である」という本人にとっては至って真面目な信念に基づく、ごく自然な行動でもあった。


 路地裏の月明かりの中に灰色の体毛をもった獣が浮かび上がる。


「人間、何しにきた?」


 人狼は牙を覗かせながら人語を話した。

 

「後輩の仇討ちに」


 勇は通じるとは思ってないが短く応える。


「――無駄なことを」 


「それはどうかな」


 次の瞬間、目にも止まらない高速タックルが炸裂する。

 人狼はそれを受け止めようと、鋭い爪の両手で神沢勇を捉えようとした。

 が、それはフェイクでそのままの流れで、勇は人狼の背後に回っていた。


 神業である。


 そこからさらに、人狼の両腕を極めてロックする。

 綺麗なブリッジを描いて、勇の身体が竹のように背後にしなった。


 ジャーマンスープレックスホールド。


 神沢勇の得意技であり、アスファルトに叩きつけっれた人狼の後頭部は破壊される。

 血と脳漿のうしょうが飛び散る。

 すかさず、再生をはじめる頭部だが、勇はさらに人狼の腰を掴んで投げ捨てる。


 サイドスープレックス。


 今度は肩自体が損傷して吹っ飛ぶ。

 神沢勇はあらゆる体勢から投げ技を繰り出すことが出来るスープレックスのスペシャリストである。 

 アスファルトの地面の上ではプロレスの投げ技は全て必殺技になる。


 パイルドライバー、パワーボムを畳み掛ける。

 人狼の身体はもはや半身になり、さらに原型を留めないほどの肉片になりつつあった。

 神沢勇の攻撃は人狼が塵になるまで終わりそうもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る