女子プロレスバカ

「人狼? それは一度、対戦してみたいわね。本当に不死身なの?」


 女子プロレスラー神沢勇かみさわゆうからは、やはり予想通りの答えが返ってきた。

 キラキラと真っ直ぐな瞳、ショートカットの髪で爽やかなスポーツ少女という印象である。

 赤地に白い「エンジェルプロレス」のロゴの入った、ジャージの上下姿でトレーニングシューズを履いている。


「私は途中で記憶を無くしちゃって、よく分からないのですが、玲奈ちゃんの話ではそうみたいです」


 風森怜は病院のベットから自分の先輩というか、師匠でもある神沢勇の生き生きとした表情を見ながら、本当に女子プロレスが好きなんだなと思った。

 根っからの女子プロレスバカである。

 

 だけど、それと同時に悔しさもふつふつと湧いてきた。

 女子プロレスラーでありながら、そのたまごだとしても、人狼ごときに・・・・・・ここまでやられたことが情けなかった。 


 客観的にみれば不死身の人狼に勝てないのは当たり前である。

 が、怜にとってはそれは関係ない。


 女子・・プロレスは・・・・・最強・・格闘技・・・でなくてはならない・・・・・・・・・


 怜の中ではそれは真理であり、神への信仰のような信念になっていた。

 彼女も立派な女子プロレスバカに成長していた。


「そうかあ。そうなると仇討ちにいかないといけないわね」


 神沢勇は当然のように言った。


「ちょっと待ってください。私もやつを倒したいです。一緒に行かせて下さい!」


 怜は必死に嘆願した。


「そうかあ。その意気やよし! 立ちなさい、怜!」


「はい!」


 怜はベットから立ち上がろうとするが、背中に激痛が走る。

 肋骨とか方々が骨折してるので無理もない。

 当然といえば当然である。


「何してるの! この患者は絶対安静ですよ!」


 主治医の犬神晶子いぬがみあきこ先生が怒鳴り声を上げた。

 短い髪に白衣が似合う四十代ぐらいの先生である。


「いや、ついつい、いつものノリで……」


 神沢勇は流石に我に返ったが、悪気はないのだが、天然なのだから始末におえない。

 怜も体育会系なので身体が反射的に反応してしまうのだ。


「どうもすいません。うちの勇が迷惑をかけてます。申し訳ないです」


 その時、お見舞いの果物かごを片手に持った神沢優が現れた。

 ダークレッドのサイバーグラスに漆黒のコートを羽織っていた。

 神沢勇の双子の姉である。

 発音が同じなので、いつも話がややこしくなる。

 怜の命の恩人だと玲奈から聞いている。


「勇、ちょっとこっち来なさい」


 あんなに嫌そうな表情の先輩を初めてみた。

 姉は相当、苦手らしい。

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