第10話

 ―――――――――――――。

 一瞬の詠唱の先。眩い光の奔流が過ぎ去ったあと、僕の意識が暗転した。

 何も見えなくなって、まるで海に沈んでいるみたいな浮遊感の中にいた。

 ただ首がほのかな熱を帯びて、僕に宿されたっていう魔導器・エソライズムエンジンが、まだすぐそばにいるかもしれない七月先輩の鼓動と共鳴してるみたい。

 なんとなくわかる。この暗闇は、空想魔術ってやつを発動させるための通過点なんだろう。すぐに僕のところに色んな光が集まってきた。

 記憶、思い出深い光景、意識に焼き付けられたいつかの映像。

 囁きかけてくる声たち、土や草のにおい、肌が覚えていた体験。

 嬉しかったこと、辛かったこと、忘れたくないこと。

 そんなおびただしい情報が、あやふやになった僕を衛星のごとく取り巻いている。


【――――――――あなたの空想(イマージュ)をあたしに見せて――――】


 すると不思議な声が聞こえてきた。輪郭のはっきりしない声色。相手がひとりなのか、それとももっとたくさんなのかもわからない。でも小さな女の子の声だ。


「きみは……だれ……?」


 暗闇はいつの間にか僕自身の放つ光に照らされて、気が遠くなりそうな密度の文字、映像、音が宇宙をつくって周りをせめぎ合っていた。

 誰かが僕の手を取る。指先に触れて、そっと引き寄せられる。


【――あなたの空想(イマージュ)をあたしに見せて。代わりに未来(リアル)をあたしがあげる――】


 その声はまるで溜息。梢に歌う小鳥のように、そっと耳元で囁いてくる。


【――――さあ、教えて――――あなたは、だあれ?】


「僕はうさみ…………ううん、違う。そうじゃないな」


 なんだかおかしくなって、ちょっと笑ってしまう。

 そうして、自分の本当の名を思い出す。


「――――そう。我は裁き、斃し、屠る者」


 不思議なことに、やり方をちゃんと覚えていた。

 一字一句唱えるたびに、自分がいつの日か思い描いたあの空想が、次第に紐解かれていく感覚に意識が飲まれていく。


「我は黒き逆徒――神叢木刹刃」


 言葉こそが力だ。いつかの空想が、自分を形作るすべてにさえ感じられた。


【――――承認します(approval)】


 誰かの小さな手が頬に触れ、温かく包み込んでくれた。語りかける〝彼女〟が嬉しそうに微笑んでくれた気がした。

 そう、〝俺〟は彼女に認められたのだ。


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