第7話

 それからの僕はとてもまともじゃなかった。

 改札口側に向かう階段に飛びついて、死に物狂いで駆け上がった。ホーム連絡橋をどっち方向に進めばいいのかの判断すらできなくなっていた。

 ヘンだな、駅構内には利用客どころか、避難誘導にあたる駅員の姿すら見当たらない。どこぞのホラー映画みたいな状況に、平常心は今にも砕け散りそう。

 なのに再び外では続きの銃声。怒りとも焦りともつかない感情に突き動かされて窓ガラスに飛びつく僕。暴れ続ける鼓動を休める余裕なんてない。

 窓の外に広がる光景。霧で覆われた眼下に線路が無数に伸び、あの彼が乱れ撃つ光弾が瞬いている。そしておびただしい数の青い光。あの幻みたいなホログラムの怪物たち。それも一体ではなく、ちょっとした軍勢だ。駅の方へと侵攻しているのか。

 停車中の電車の中には、まだ乗客たちがいる。怪物が襲わないだろうか、あいつの流れ弾に当たらないだろうかと、不安は無尽蔵に増幅されていく。

 逃げなきゃ。いや違う、乗客たちを助けなきゃ。でもそんなのどうやって?

 とにかく動かなきゃ。そう意志を奮い立たせた直後、バキンと大きな音を立て、さっきまで外を覗いていた窓ガラスがひび入った。

 驚きのあまり尻餅をついてしまっていた。何が起きたのか確認する間もなく、今度は床が揺さぶられ始める。


「なっ……地震――――!?」


 壁際に設置された無料配布紙のスタンドが倒れた。この揺れは尋常じゃない。ただ振動は不自然に断続的で、駅舎の壁を重機でぶっ壊してるみたいな感覚だった。

 怖くなって後ずさりしてすぐに、さっきの窓ガラスが砕け散る。サッシがひしゃげて、外から気味の悪い腕みたいなのが伸びてきた。

 悲鳴すら枯れた僕の喉。尻餅をついたままでいても、今度は床がどんと跳ね上がる。

 窓から順に崩れ始める壁。いや、砕けてひび割れ始めているのは床だって同じだ。

 途端、視界が傾いた。斜面を転げ落ちるような感覚が襲い、亀裂の入った床が抜けた。


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