第4話

「うわ、量子崩壊――来たっ!? 場所どこっ?」


「わかんない。震度Cだって……特異点、近いかもっ」


 口々に騒ぎ始める、通学途中の生徒たち。

 より正確には「量子災害特別警戒区域の出現による崩壊警告レベルC」――ヤバさで言えばど直球のレッドゾーンだ。

 慌てて僕も情報収集のためスマホを弄り始めた途中で、ネット回線が死んだ。

 車内はすぐに騒然としだした。

 車両が少しずつ減速していく。録音のアナウンスがお決まりの定型文を繰り返し始める。量子崩壊警報が発令されました、乗客の皆様の安全を考慮して最寄り駅に臨時停車します、落ち着いて避難をどうのって。

 怪獣の爪痕とも呼ばれるこの未知の災害現象を、偉い人たちが〈量子崩壊〉って命名した。

 量子崩壊は「空間が歪んで起こる地震」みたいなものらしい。予期なく出現する〈特異点〉を震源地に、影響を受けた物体を内部から破綻させる。

 建物の倒壊に巻き込まれれば、当然犠牲者が出る。逆に、量子崩壊が世界同時多発災害の原因だったって説まで唱えられてるみたい。

 七月先輩がああなった気持ちが僕にもわかる理由は、この世界がどうにもヘンだからだ。

 もし大災害が大切なものを奪ったとするなら、人はその先を生き抜くために、己の在り方を変えることだってある。

 そして今の世界には、最新科学でも解明できないこんなオカルト現象が跋扈してる。怪獣の日の辛い記憶が、十年経った今も〝量子崩壊というリアル〟によって呼び覚まされ続けている。

 そうしてセカイが無力な自分の敵になるなら、抗う力を内に求めても不思議じゃない。

 だからこそ、もし今度会えたら先輩には諸々謝っとかなきゃな。

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