第7話
成人式の日は町中がごった返していた。いたるところにスーツを着た男性と袴姿の女性がいる。柳地は達也と共に会場に行った。
「おお! 達也と柳地じゃないか! 久しぶり!」
「義孝こそ。中学校以来だね」
「お前何も連絡寄こさねえから。結構心配したんだぜ?」
「ははは。高校に行った後大変だったんだ。親が事故に遭ってさ、無事だったんだけど。それに年に2回もインフルエンザにかかるし」
見渡せば同じ中学を過ごした懐かしい人たちでいっぱいだ。凜子や晃志郎、洋子、愛海、陽太、慎吾もいる。
でもその中に栞の姿がない。
「ごめんちょっと」
そう言って席を外した。
「栞…。どこなんだ栞…。いるんだろう?」
小声でそう呟きながら会場内を回る。
でも栞はどこにもいなかった。
学年末試験が終わるともう春休み。1人で小久保商店街に残っていてもやることは特にないので実家に帰る。
自分の部屋の卒業アルバムは捨てられていなかった。それを取り出して見る。3組のページ。栞は笑顔で写っている。剣道部のページも見ると自慢げに賞状を持って写っている。
「そういえば中総体で準優勝してたもんな…」
当時の記憶が蘇る。自分は栞のことを祝った。何度も何度もおめでとうと言った。栞は初戦敗退だった自分のことを少し笑って慰めてくれた。
アルバムをめくる。色々な写真から栞の姿を発見する。どれも元気そうだ。笑顔で写っている。何をやっても絵になる子。それが栞だ。
「栞…生きているのか…。この地球上に…」
次に小学生の頃のアルバムを見た。相変わらず栞はあの可愛らしい笑顔で写っているし、個別の写真は自分のすぐ隣。簡単に探し出すことができた。
「死んでるわけ、ないよな? そうだよな?」
ページをめくる。すると紙が1枚、アルバムから落ちた。それを拾って広げる。
「これは…」
小学6年生の頃の連絡網。それがアルバムに挟まっていたのだ。
「これなら…!」
栞の家の電話番号が書かれている。
やることは一つ。この番号に電話をする。かなり無謀で大胆な一手。でも栞の安否を確認するにはこれしかない!
次の日。1人で山尾花公園に出かけた。雪がかなり積もっていて子供たちが雪合戦をしたり雪だるまを作っていたりする。そんな中柳地だけはベンチに座る。
「このベンチ…。これで自転車ぶっ壊したんだよなあ」
栞と2人きりで歩いたあの時が懐かしい。
さっそく携帯を取り出すが、まだかけない。
話す内容を決めなければ恥ずかしい思いをするだけだ。ちゃんと準備せねば。
まずは名乗ろう。山尾花中学でお世話になっていた三ツ村柳地です。お久しぶりです。
そして誰が出るかはわからない。彰が地元の大学か浪人していれば出るかもしれない。いや彰より5つ下の葵が出るかもしれない。いきなり親かもしれない。
聞きたいことは1つ。娘さん、栞は元気ですか? それだけだ。今どこの大学に在籍していて、どこで生活してますか? そこまで聞くとストーカーっぽい? でも知りたい。
最後に言うこと。自分は無事です。また会う機会があれば会えるかもしれませんね。それで切ろう。深追いはしないし変に詮索されたくもない。
電話番号を入力する。市外局番から入れる。そして通話ボタンを押す。
するとワンコールもせずに無機質な声が帰って来た。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません…」
信じられなくてさらなる行動に出た。栞の住んでいるはずのマンションに来る。
インターホンはやめておく。このマンションのインターホンにはカメラがある。悪質な嫌がらせと思われかねない。
すぐ横の郵便受けに行く。確か部屋番号は806。見ると表札はついていない。はがされた跡が残っている。
監視カメラが付いていないことを確認すると柳地はその郵便受けの投函口を覗いた。手紙が1通来ている。今度は指を突っ込んだ。細いので簡単に入れることができる。そして器用にその手紙を投函口から取り出した。
「山部…」
栞と苗字が違う。城島じゃない。ここに栞の家族は住んでいない…。
その事実が衝撃的で、受け入れられなかった。
ついに何もできず、ただ家に帰って来た。もうこれから先栞を、いや城島家を追跡するなら探偵か何かに頼まなければならない。そんなことはできない。変に親に怪しまれる。バレた時の言い訳もおかしい。栞が生きているかどうかを確かめたかったなんて。言えない。
達也に聞いてもいつ引っ越したのかはわからなかった。周りには知らせないでどこかへ引っ越したようだ。
ここである疑問が浮かぶ。あのマンション、達也の家にしか行ったことがなかったが豪華な造りだったはず。そんなマンションから何故引っ越したのだろうか?
自分の両親は今のマンションにずっと住んでいる。達也もあのマンションにずっと住んでいる。
引っ越す理由が見つからない。一軒家が手に入ったからそっちに移ったのだろうか? でも周りに知らせずに引っ越すのはおかしい。普通は何か一言、挨拶してから行くものではないだろうか?
「まさか…」
頭にある考えが浮かんだ。それは現実的でありえない話ではない。
でも否定したい。そんな考えが本当であって欲しくない。
栞は本当に死んでしまったのではないだろうか?
しかもその死は事故死とか病死とかではなく、変死だったのではないだろうか?
呪いで発狂し死に至ったのではないだろうか?
だから周りに知らせることができず、黙ってどこかへ行ってしまった…。
そんなはずない。でも確かめようがない。そのことがますます柳地をその考えへと追い込む。
「確かあの夢は…」
あの、栞が死んでいるという夢を見たのは7月の中旬ごろ。そして栞の誕生日は5月13日。もし栞がムラサキカガミの呪いで死んでしまったとすれば、時期的に矛盾はしない。
「呪いは、本物だった…?」
でも自分は生きている。何故だ? 呪いが本物なら俺は既に死人のはずだ。まさか栞にだけ、作用したとでも言うのか? 自分には効かなくて。
「そう言えば…」
自分の二十歳の誕生日のことを思い出す。確かあの時、上の階に住人はいなかったのに音がした。それも激しくて大きな音が。あれは何だったのだろう?
また夢のことを思い出す。あの夢で栞は何て言っていただろうか…。
「あっちで待ってるよ…柳地…」
「あと3か月…。楽しみにしてるよ」
あっちとはどこのことだ? あの世?
楽しみにしてるよって何を?
駄目だ。どうやっても栞が死んだということしか考えられない。そして自分のことをあの世に連れて行こうとしていたのだ。ムラサキカガミを忘れなかったから。
だとしたらやはり栞はもう…。
もう、この世にいない…。
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