第5話

「それと初めまして三ツ村柳地。君の活躍は森谷から聞いてるよ。去年英語で満点だったとか、赤点を取ったことがないとか」

「ああ、初めまして。それはまぐれだよ。今年はどうかはまだ怪しいし。あとさっきは本当に助かった」

 挨拶を交わす。

「さっきのは何だったんだい?」

「1組2組の落ちこぼれだよ。本当に成績が悪い人は一般クラスに落とされたけど、ああいう中途半端は残ってるんだ。成績が良くないから渡辺先生に叱られるのも当然」

「その渡辺先生って1組の担任だよね? 外岡は怒られなかったのかい?」

「叱られたよ。でも当然。だって自分が悪いからね。君たちに恨みはない。それどころかどういう勉強法なのか聞いてみたいくらいだ」

 真面目な人だ。幸山は見習うべきだな。

 そうだある疑問を聞いてみよう。

「森谷は何で、上のクラスに行かなかったんだい? で、俺を目の敵にしてるんだい?」

 森谷が答えた。

「俺は三ツ村が上がるなら上がりますって言った」

「でも外岡の方が頭が良いんじゃないのか? 外岡と競うってのは考えなかったの?」

 それが1番の謎。

「最初の1年はそれを考えたけど。でも外岡は文系だし。最終的に敵にならない。そこで三ツ村、お前を見つけたんだ。俺みたいに一般クラスで理系、そして頭が良い奴を。そして勝つと決めた」

 なるほど。森谷は本当に自分と同じ立場の人と競うことが目的なのだ。それが今はっきりわかった。そして負けるわけにはいかないことも。

「もう今日は帰ろう。中間考査も近いんだし。それと幸山たちには2度とあんなことをしないように言っておくよ」

「それなら助かる。頼むぜ」

 外岡は1人先に帰って行った。

 森谷と2人で帰りの準備をし、駅まで歩く。

「…最初は俺はおまえのこと、ただのうるさい奴だと思ってた。だけど訂正するよ。森谷、おまえは立派な奴だ」

「実は俺も、三ツ村のことは2組に上がれなかった出来損ないとしか思ってなかった。でもよくよく考えると今回の実力テスト、お前がいたからあんなに頑張れた気がする。俺も訂正しなくちゃな」

「そしたら今度は何で勝負する? 化学はどうだ? 担当の先生一緒だろ?」

「おっいいね。次も俺が勝つ!」

「もう負けねえよ。俺はもうそう決めた」

「何を。覚悟しとけよ」

「それは俺の台詞だ」

 森谷悠生。コイツは俺の高校生活での最大のライバルだ。


 2人の戦いは激しく、そして互角だった。一方が勝てばもう一方が次に勝つ。それの繰り返し。この1年間はお互いに戦い続けた。

「で、その森谷って奴との戦績はどうなんだ?」

 この春休みが終われば、大学受験生になる。達也と遊ぶのは今日が最後だ。

「今のところは俺が勝ち越してる。でも貯金があるわけじゃないから、油断してるとすぐ追い抜かれる」

「なら決着が着きそうにないな。大学受験で決めるのか? 例えば偏差値の高い方に合格した方が勝ちとか」

 柳地は首を横に振る。

「それはない。俺は生物系に進みたいし、森谷は工学系に進むと言っている。それに大学はやりたいことをするところだ。難関大学が必ずしも自分に合うとは限らない」

「じゃあ前に言ってたセンター試験? あれで決めるのか?」

「いいや。ちょっと意外なことに俺と森谷、志望校一緒なんだよ。学部は森谷がシステム科学技術学部で俺が生物資源科学部だけど」

「なるほどな…じゃあ受かるか受からないか。それで決まるのか。いや二人とも受かれば戦いの舞台が大学に移るのか」

「受かれば、な」

 高校受験の時みたいに失敗するかもしれない。それに大学受験は浪人生も参加する。そして全国から受験生が集まる。高校受験の時よりも倍率は高くなるだろう。

「ところで、頼まれていたこれ、グスタフ・マックス。本当に3000円?」

 カードを渡すと達也は財布から千円札を3枚取り出し、柳地に渡した。

「ああ。今流行ってるデッキには必須なんだ。しかも元々生産数が少なくてな。柳地が持っててくれて助かったぜ」

 お金を受け取った。そしてそれを財布の中に入れた。

「柳地は長野県立大学を受けるんだろ? 他の志望校は?」

「そうだな…。私立をいっぱい受ける。浪人はしたくないから。でも1人暮らししたいから、他は首都圏の大学にする予定」

「じゃあ、ますます会えなくなるな…」

 達也は高専に通っているため、この県に残る。対する柳地は受験する大学が全て県外。

「今の時代新幹線を使えばすぐ戻って来れるよ。それに達也、おまえが俺のところに遊びに来てもいいんだぜ?」

「そうだな。全く便利な世の中になったもんだ」

 そんな会話をしながらゲームをした。遊べるのは今日が最後だが、達也は手加減してくれないので負けまくった。

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