第3話

 土曜日の部活は午前か午後に3時間と決まっている。筋トレやランニングもあるが台で打てるいい機会だ。

「ふー。疲れた」

 ランニングだけで汗びっしょりである。ひょっとして俺は運動は向いてないのか? 自分に聞いてみた。

「早く台出しなさい」

 顧問の先生がそう指示する。柳地は言われた通り動き、倉庫から台を引き出しに行った。だが一人では運べないので誰か来るのを待っていた。

「陽太か。一緒に運ぼうぜ」

 相沢あいざわ陽太ようた。違う小学校の出でクラスも違うが、同じ部活なのですぐ仲良くなれた。

「んーよいしょ!」

 倉庫の扉の下の溝のところで台を持ち上げる。力は無い方だが一生懸命力む。

「ふぅ、後はそっちだけだ」

「今やるから待ってて」

 陽太が持ち上げる。そしてその間に柳地が台を引っ張る。

「もう大丈夫。下していいよ」

「やっぱ重いなあ古い台は」

 この倉庫に新しい台は1台しかない。その台は運びやすいのだが古い台はかなり重く運びづらい。全て最新式にして欲しいと思う。


 台を準備したところで卓球の練習ができる。最初の相手には陽太を選んだ。始めはフォアハンドの練習だ。陽太は真面目に活動する方なので安心だ。でもしゃべり出した。

「剣道部の、何て言ったっけ? 城島栞?」

「…栞がどうかしたのか?」

 打ち続けながら返答する。

「柳地は仲良いよねあの子と。この前廊下でしゃべってるの見たよ」

 栞とはクラスが違うが良く会う。たまに教科書を忘れたから貸してもらったり、逆に貸したりしている。

「まあ同じ小学校だったし。前はよく隣同士になったもんだよ。合計で8回はそうなったかな」

 それに陽太は驚いて、

「それ、すげえじゃん!」

 だが柳地は冷たく、

「そう? もう見飽きたって俺は感じたけどなぁ。席替えの度に隣になると、他の人と仲良くなる機会が減るよ」

 と答えた。

「俺なんて、そんなに同じ人と隣にならなかったぞ? それって運命なんじゃね?」

「運命?」

 そんなこと考えたことがなかった。確かに栞とは仲が良い。

「確かあの子、頭良いじゃん。学年20位以内には入ってるんじゃない?」

「前のテストは17位だったってよ。俺は70位だけど」

「何で知ってるの?」

「本人に聞いたんだよ。全く栞はしつこいぜ。俺は言いたくないのに順位を言わされるし、言うまで全然引かないし。言えばまるで親みたいに成績の心配してくるしさ」

 それを聞いて陽太はさらに驚く。

「もうそんな仲なんだ。見かけによらずすげえな柳地は」

「そんな仲って、どんな仲だよ?」

 陽太は黙った。柳地はそれ以上追求せず、言われたこと意味を考えていた。

 順番が変わる。今度は凜子だ。

「さっきの話聞いちゃったんだけど…」

 そう言ってくる。

「成績の話? あれは忘れてくれ。俺が馬鹿に見えるだけだよ」

「そうじゃなくて」

「じゃあ何?」

 そう言うと凜子も黙る。

 やがて休憩時間になった。本来ならここでスポーツドリンクを飲むのだが、柳地はそんなことより陽太や凜子に言われたことについて考えていた。

「栞…」

 栞についてはだいたい知っている。頭は良いし運動神経も抜群。自分が栞より優れているのは虫の知識ぐらいか…。

 そういうことじゃない。何か、考えるべきことがあるのではないか…?

「休憩時間終わり!」

 顧問の先生がそう叫んだ。柳地は自分の世界から呼び戻された。

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