第2話

 卓球部に与えられた活動範囲は狭い。運動場の5分の1程度である。当然卓球台は多く出せない。5台くらい出せればいい方である。

「今日は先輩が少ないな。打てるかも…」

 期待しながら運動場に入る。

「先輩。俺打ってもいいですか?」

 先輩の内1人が許可をくれた。が、肝心の打つ相手がいない。どうしようかとしているうちに、凜子がやって来た。

 凜子とはクラスが違う。だから日常的に会話はあまりしない。でも同じ卓球部だ。部内では割とよく話す。

「ちょうどいいや。おーい凜子。今暇?」

「暇だけど」

「なら打とうぜ」

「うん。わかった」

 サーブは球を持っている柳地から行った。それを凜子が返す。あとはラリー。

「…前から聞きたかったんだけど」

 凜子が話し出した。できれば真面目に黙って打ってもらいたいが、それを言って怒ってやめるって言われるのも嫌なので黙って話を聞く。

「何で柳地はペンハンドなの?」

 卓球のラケットにはペンハンドとシェイクハンドの2つがある。18人いる1年生の中で柳地だけがペンハンドであとはみんなシェイクハンドだ。

「…何でって、これが1番手に馴染むからだよ。俺からすればどうしてみんなシェイクハンド? って言いたいくらいだぜ」

「そんなに変わるものなの?」

「何なら、試してみるか?」

 一度柳地は球を左手で掴みラリーを中断した。そしてラケットを凜子のと交換しサーブする。

「あー」

 球は変な方向に飛んで行った。凜子がそれを追いかける。

「もう。変な方に飛ばさないでよね!」

 そう言われても…。シェイクハンドは初めてで、どう振ればいいのか全くわからない。

 今度は凜子の番。サーブをするが、

「えええ」

 球は台の上で大きく跳ねた。このサーブは大失敗。相手に簡単にスマッシュを打たれてしまう。そして柳地はそのつもりだった。

「いけぇ!」

 思いっきりラケットを振った。球に当たったのだが、とんでもない方向に飛んで行く。

「もう! さっき言ったばかりじゃない! バドミントン部の方まで飛んじゃった! 柳地が取りに行ってよね!」

「…わかった」

 そう言って柳地は球を追いかけた。

「すみません…」

バドミントン部の部員は球を取りに来た柳地を睨んだ。練習の邪魔をしたから少し怒っているらしい。

 戻ってくると凜子とラケットをまた交換した。

「やっぱペンハンドはないわ。今のではっきりわかった」

「いいや。シェイクハンドこそないだろ。全然卓球できねえよこんなの」

 やっぱり手に馴染むペンハンドの方がいい。改めて柳地はそう感じた。


 木曜の放課後は部活を休んだ。達也の家に遊びに行くためだ。卓球部はそれほど厳しい部ではないし1年生はいても邪魔なだけだ。簡単に休めた。

 達也のマンションに行く。外見は相変わらず豪華。自分も住んでみたくなるぐらいだ。でもマンションの公園は小さく、草もあまり生えていないので虫取りには適していない。

 104をインターホンで押し、入り口を開けてもらう。そしてマンションの中に入る。

 エレベーターの前を通った時、誰かと目が合った。

「あっ栞じゃん」

「柳地? 何でここに?」

 そう言えば栞もこのマンションに住んでるんだよな…。ここで会うとはちょっと驚きだ。

「別に栞に用はないよ。達也の家に遊びに行くだけだ」

 栞は残念そうに、

「…そうなんだ」

 と返した。

 達也の家に行く。玄関のインターホンを鳴らして中に入れてもらう。

「さっき栞とすれ違ったよ」

「そうなのか。俺はあまりこのマンションでは見かけねえけどな」

「だって栞は8階に住んでるんでしょ? お前がエレベーターを使う機会はないし、当然だよ」

 それもそうだと達也は頷いた。

「はいこれ。インフェルノ・ウィング。兄がいらないって言うからもらってきたよ」

「お! サンキュー。これで3枚揃ったぜ」

 達也が欲しがっていたカードを渡した。

「でも、お前は本当に何もいらないのか?」

「え?」

「俺だけタダでもらっちゃあ、何か悪い気がするんだけど…」

「そんなことないよ。達也だからこそ、信頼できるからあげるんだよ。それに俺は欲しいカードないし」

 そのような譲渡は何度かしてきた。毎回達也はそれに見合ったものを渡すと言うのだが、柳地は何も求めなかった。

「じゃ、さっそくこのカード入れて…。始めようぜ」

「おう! 望むところだ!」

 最近の楽しみは部活か達也と遊ぶことだった。それ以外のことで楽しいことを探せなかった。

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