第9話
【勇者でも魔王に恋がしたい!】
九話
パタン。なにかが後で倒れたような音がした。振り返ると、頭がひとつなくなっていた。
いや、白髪なんだし雪で同化してたりしないか?
目をこすってもう一度確認してみるが、やはりあのあほズラがない。
「……バニラ?」
呼んでみても反応がない。
「……おい!大丈夫か!」
いち早く気がついたライドンさんが、彼女に駆け寄り、身体を揺さぶると、反応はあったみたいだ。だが、息遣いは荒く頬は赤く染まっていた。
「なぁ、これって……」
俺は予想できたが、アンナは全くって感じだった。
「……らしいな」
一言、ライドンさん俺の顔を見て頷いたので、今思ってることを確信した。そして、今思っていることを自信満々に口に出す。
「発情してんの?」
「そうだな。発情……って、違うわ!!」
「はぁ……勇者ってなんでこんなに変態で馬鹿なの?」
呆れ返ったような眼差しで、二人は俺を見た。
「……え?バニラが発情してるんだし俺が変態はおかしいと思うんですけど!?」
「そういう所が馬鹿って言ってるのよ」
ため息を吐いて彼女はそういう。間違ったことは言ってないと思うんだけどな。
「風邪よ風邪!こっちまで頭が痛くなるわ……熱い……早く医師にみてもらわないとまずいかもね……」
バニラのおでこに手を当てて、彼女はそう言う。
「風邪?」
「そう。風邪だ。小さい頃よくかかったりしたろ?」
「…………身に覚えがありません。」
そう答えると二人が、キョトンとした顔でこちらを見た。
「風邪だぞ?一回もないのか?」
「無いですね……え?なに?おかしいですか?」
「んー。勇者だからおかしいことはないかもしれないが……」
「いや、ライドン違うわ。なんとかは風邪ひかないっていうでしょ?」
「あぁ……そうだな」
なんでか、二人は可哀想な人を見るような憐れんだ目で、こちらを見てきた。
なんですかね?やっぱり勇者だからかな!
*****
それから緊急で町を探すことになった。薬がないとその風邪ってのは治らないらしい。
ライドンさんの背中にバニラを乗せて、雪道を歩く。
こんなことなら馬車で来るんだったな。なんて後悔しながら、俺らは山から降りると街を探す。
だが、そんなに都合よく村があるわけでもなく、迷いに迷った結果、日が沈んでいた。
「大丈夫か?バニラ……」
「寒い……」
十分に衣服をきせたつもりだったが、まだ寒いらしい。
「じゃ、これ着ろ!」
そう言って小刻みにライドンさんの上で震えるバニラに、俺が羽織っていたコートを上から掛けてやる。
「あ、ありがと……ライドンさんもごめん……」
吹雪に掻き消されそうなほど小さな声なのにその声ははっきりと聞こえた。
「なぁに、気にするな。さっさと街を探すぞ。止まるわけにはいかないしな!」
そして、辺りを見回すと東の方に小さな光がポツポツと見えた。
「あれって……街じゃない?」
「そうっぽいですね!早く行きましょう!」
足場の悪い積雪の中、目的地まで走って向かう。雪が降ってなかったのが不幸中の幸いか。
*****
そして、雪の中にひっそりと佇むに街に着いたのは、もう夜がふけてからだった。みんな寝てしまったのか外には人っ子一人居ない。
「あの!すいませーん!!」
街の真ん中の噴水っぽいオブジェの前でで俺は叫ぶと、レンガ造りの街の中で一番大きな建物が淡い光を窓から漏らし、そこの人であろうか中から優しそうな白髪のおじさんが出てきた。
「……どうしましたか?」
「仲間がとにかく大変なんです!だから、助けてやってください!」
そのおじさんは戸惑ったような顔を浮かべたが、「とりあえず、中へ」と言って、快く家の中に入れてくれた。
外装に見合うくらいに家の中も立派なもので、正面玄関をくぐると、まず目に飛び込んできたのは大きなシャンデリアだった。
こんなものがあるなんて……ここはなんだ?
こんなの栄えてる王宮レベルじゃないと無いぞ。
俺らは圧倒され、言葉も出なかった。
「旅のお方や。それでどうされたのでしょうか?」
ここの主だろうかさっき外に出てきてくれたおじさんが、奥からあったかい飲み物と共に現れた。
そして、それぞれに飲み物を配る。
「あ、ありがとうございます……」
お茶を渡されるがままに俺らは受け取ると、寒かったからか、それを一気に飲み干した。
このおじさんの手馴れた執事のような佇まいに色々と圧巻というところで、皆は顔を見合わせる。
「……旅のお方や?」
「……あ、ごめんなさい。お茶ありがとうございます。……えっと、ここに医師っていらっしゃいますかね?」
「医師?ですかね?それですと一応お力になれると思います」
「じゃ、こいつを見てやってくれ!」
ライドンさんが俺に返事をする間も与えずに、背中に乗っていた彼女を床に下ろし、そう答えると、床に頭をつけて「どうか……頼む」と、付け足した。
俺もみんなもそれに習い頭を下げる。
「……わかりました。最善を尽くします。でも、その前にこの方をあちらの部屋まで運んでいただけないでしょうか?」
そう言って指した方向を見ると、西洋風の大きめの扉があった。
「はいっ!」
とりあえず、俺とライドンさんでバニラを運ぶ。
気候でだろうか、かなり冷たくなっている。脈はあるので生きてはいると思うが、素人目でもわかるほどに危険な状態であった。
「とりあえず診てみます」
そして、色々なチェックがあったが、身体の方には目立ったものはないらしい。
「……本当に問題ないんですか?すごい苦しそうなんですけど」
「……いや、魔力が無くなりかけてますね」と、おじさん。
「無くなるとどうなるんですか?」
「……死ぬわね。確実に。確かに魔力反応も薄くなっている。このまま減り続けたらあと持って二日ってところかしら?」
冷静にアンナがバニラを見て、一言そういう。
そんな事実に全く現実味がなく感じた。
「…………嘘だろ?」
いやいや嘘だ。昨日まであんなにぴんぴんしてたあいつがあと二日で死ぬだって?
嘘に決まってる。だって、有り得ないだろ……
「まさか。嘘だよな?」
静寂が辺りを包む。
誰一人、それに返してくれる人はいなかった。
「な、なんだよ?どうしたってんだよ……嘘なんでしょ?アンナ」
「……嘘でこんなこと言ったりしない。私だってもう仲間なんだからな?」
悲しそうな顔をして、じろりと俺を睨む。
「……ごめん。でも、なんか対処法はないのか!?」
「……いや、ありますぞ。旅のお方、見たところ強そうですね。なら、ここから南西に進んでいただくと、洞窟の中に小さな祠があります。そこで魔力の源と呼ばれる“鍾乳洞の欠片”を手に入れることが出来れば、薬をお作りすることが出来るのですが……」
「行くよ!今すぐに!この時間がもったいない!早く行こう!」
俺はその家から飛び出すように走り出す。だが、ライドンさんの馬鹿力で引き戻された。
「な、なんで止めんだよ!!」
「アホか!少し冷静になれ!バニラのために早く行かないといけないが、準備もあるんだよ。ついでに見ろ」
ライドンさんは俺の頭をを掴むとクイッと首を強引に動かし、アンナとミカエルさんに目が合った。二人は旅の疲れのせいか辛そうだった。
「……この雪山を一日中歩き回ってたんだ。みんな辛い。だから、また明日出発だ」
そう言って、笑ってみせる。
「は、はい……ごめんなさい」
確かにそうだ。バニラが危険だからって他の仲間まで危険に晒して結局全滅なんてしたら意味無いもんな。
___でも、ごめん。明日までは待てないんだ。
俺はみんなが寝静まった後に、書き置きだけを残して、こっそり屋敷を抜け出した。
バニラを館まで運んだ時は降ってなかった雪が、ピューピューと音を立てて体を蝕む。
こんな時に雪。いや、吹雪か……
「でも俺は負けない。こんな吹雪ごときに負けてらんねえんだ!」
気合を入れて南西に進む。
暫く歩き続け、外の寒さのあまり指先の感覚がまるでない。
みんなを置いてきたのは正解だったかもしれないな。
そんなことを思いながら、ただひたすら雪の中を進む。
そして、あんなに降っていた雪はいつの間にか止み、太陽の光で白い地面が光って見える。
そんな光景に呆気にとられていると、俺は目的地であるその洞窟の前にたどり着いた。
「……よし、やるか」
自分に気合いを入れ、洞窟に足を踏み出す。
「っても、魔物なんていないか。魔王はもういないんだし」
なんて言って、洞窟を進んでいくと奥によくわからない絵の書かれた変な扉を見つけた。
「なんだこれ?でも、普通に開きそうだ」
ゆっくり開けるとそれはキィーッと音を鳴らしながら開いた。中には幻想的な光景が広がっていた。それはこの世のものとは思えないほどに美しく、触れれば消えてしまいそうなほんな幻想的な場所だった。
まるで、夜空のような鮮やかな藍色が、氷柱のような形をした白いものを下から照らし上げ、月のように淡く光っていた。
「……凄いだろ?勇者よ」
どこからともなく声が聞こえてきた。
「だ、誰だ!?」
剣をいつでも抜けるように構え、出来るだけ強く威勢を張る。
仲間も誰もいないのでかなり怖いが、やるしかねえ。
「……ふふ。笑えるね。本当に勇者なのかい?」
「……どういう意味だ?」
「君が勇者でも勇者でなくても、どっちでもいいや。とりあえずあれ、鍾乳洞の欠片が欲しいんでしょ?」
「あぁ。そうだ。それ以外に用事はないからさっさと帰らせてもらう」
こいつの目的はさっぱりだが、俺はあれさえ手に入ればそれでいいのだ。
「いや、それは出来ないね。君は死ぬんだよ。ここでね」
その謎の声がそう言うと、後ろから強烈な殺意を感じた。
ひらりと身を交わすと、レイピアのような細剣が見えた。
そして、その先には馬に乗っていた訳では無いが、イメージ的に白馬に乗って現れるような紳士っぽい金髪の奴が、タキシードと仮面をつけて現れた。
「お前は……誰だ?」
「僕かい?まあ、覚えても仕方ないとは思うけど紳士らしく名乗っておくよ。僕はベルゼブブ」
紳士なら不意打ちなんてしてくるんじゃねえよ。と思いつつも、ベルゼブブという名前になにかが引っかかった。
そう言えばサキュバスを倒した時に言っていた中に、そんな名前が混じってた気がする。
なら、こいつも残党か?
「君がここに来たのなら彼女はやられてしまったんだね……でも、残念だがここで終わりだ」
「は?」
そして、奴はノーモーションで突きをやってきた。
ギリギリで剣が間に合い、それを止める。
「おお。よく止めたね。なら、これはどうかな?」
剣先が見えない程の速さで突きを連打しながら、こちらに近づいてくる。だが、この程度なら腐るほどいる。
「……流石に油断しすぎなんじゃないか?」
剣先が見えなくても細剣なんて子供の頃からの訓練で、対処法なんて腐るほど知ってるんだよ。
そして、レイピアを俺は自分の胸に刺さる前にそれを掴むと動きを止めた。
「な、なんだと!?」
「最初の一撃からレイピアなら急所を狙うはずだ。……俺を舐めすぎたな。こんなの子供の遊びにすらならないぜ……」
そう言うと奴にもう片手で持っていた剣を持ち直し、腹に切り込むとそれは綺麗に入った。
「……終わりだな」
「……ふふ。どちらが終わりなのかな?」
だが、やつは倒れるどころか笑ってみせた。
その瞬間、俺は立ちくらみでも起こしたかのように視界が暗転した。
「な、なんだ?」
「油断したのは君の方、だったみたいだね」
奴の高笑いが聞こえる。
……毒?……あのレイピアに毒が塗られてたのか?あんな紳士っぽいことばかり言って、毒だって?
「敵をそのまま信じる君が悪いんだよ?どんな手を使っても勇者を殺せれば僕らは安泰だからね。じゃ、さよなら。勇者さん」
朦朧とした意識の中見上げると、先程のレイピアとは違い、普通のサーバルみたいな剣が俺に向かって振り上げられた。
ここで終わるのか?ここで死ぬのか?
「サファイア!!!」
そんな咆哮と共に、青いなにかが俺の上を通ってサーバルを弾いた。
「大丈夫か!?マルク!!」
「大丈夫……に見えますか?」
やばい……身体から力が無くなるみたいだ……
「う、うぅ……」
うっすらと目を開くと、ライドンさんが俺と奴の間に入っていた。
「……何をしたんだ!?」
「ふふっ。いいね。その怒った顔。思わずわらっちゃうよ………あはははっ!」
「……お、おい。大丈夫か?」
アンナの声がした。だが、もう、俺は目を開けることも体を動かすことも、出来なくなっていた。
「で?勇者の飾り達は何をしに来たのかな?あの飾りを助けるために来たのかな?」
興味津々といった弾んだ口調でそんなことを言った。
「……飾り?誰がだ?」
これはミカエルさんの声か?
「君達さ。でも、その様子じゃ、勇者まで脇役扱いになるのかな?」
「……笑わせてくれるな。私が飾り?こいつらはそうかもしれないけど私は除外してほしいわね」
笑わせてくれる。だなんて言っていたが、声音はそれとはかけ離れたものだった。むしろ怖い。
「……それはミカエルやり過ぎだろ?」
「うるさい!筋肉バカ!」
「なっ!?」
過剰反応するライドンさんをよそに彼女は、寝ている俺にもわかるくらいに殺気立っていた。
「気に入らないわ。あんた、すごく気に入らない。だから、死んでもらおうかしら?」
「……ふふ。それは無理な相談だね。全滅するのは君達だしね」
「……筋肉?それ持っててもらえる?私とアンナで欠片は取りに行くから」
彼女は奴の声なんて届いてないかのように、ライドンさんをコマのようにつかう。
「わ、私は良いが……奴は大丈夫なのか?」
「そうそう。魔王の言う通りさ!僕を無視してこれを取れると思う?」
「……大丈夫。もう決着はついてるから」
「……え?」
ふたつの足音が俺から離れ、欠片のある方に行った。その時だった。
「………ぐはっ」
何かを吐くようなそんな声が聞こえた。
「……な、なぜ?」
「はぁ。毒を使うのにそんなことにも分からないの?」
深いため息を吐いて、彼女はそういう。
「……そっか。君のさっきの言葉はそういうことだったのか……なら君は脇役なんかじゃないね……」
何かを察知したような奴はそう言葉を紡いだが、バタンと倒れるような音がした後、聞こえなくなった。
「な、何をしたの?ベルゼブブは毒のスペシャリストなのよ?」
アンナの声は少し震えている。
「綺麗な物には刺があるっていうでしょ?」
「……た、確かにそういうが」
「そういう事よ」
「全く回答になってないんだが……」
「どうでもいいでしょ?さっさと行くよ。筋肉はその一人先走った馬鹿を背負いなさい」
「……はい」
苛立っているのかアンナは低いトーンでそう言うと、ライドンさんは小さな声で返事をした。
そして、俺は背負われて戻っているそんな時に、ライドンさんが元魔王であるアンナとこそこそと話す声が聞こえた。
「……なぁ。ミカエルって魔王さんより魔王っぽいよな」
「そんなことは言わない方がいい……」
確かにそうだ。今機嫌悪いんだし尚更だろ。
「……何か言ったかしら?」
「い、いえ!!何も!」
「まあ、いいわ。帰ったら……ふふ」
あぁ。ざまぁねえな。
*****
「……ここは?」
目覚めると見知らぬ白い天井があった。身体を起こして辺りを見回すと、そこは病室みたいになっていた。
そして、俺の右左のベットにはバニラとライドンさんが眠っていた。
「……ライドンさんはなぜ倒れてるんだ?」
頭を掻きながら俺はスクっと立ち上がり、ドアから出る。
すると、二人がけのソファーで向かい合うように座っているアンナとミカエルさんが、紅茶をすすりながら雑談をしたり、茶菓子なんかをつまんでいたりしていた。
「起きたのね」
「はい!おはようごさいます!」
「……おはよ。どうしたの?座れば?」
……よかった。てっきり一人で飛び出したかは怒られるのかな?なんて思ったけど、いつも通りの冷たさだ。
冷たいのは相変わらずだが、そろそろデレてくれてもいいんですぞ?まあ、いいか。それもそれで俺には需要大だし!俺はアンナの横に腰をかけた。
そして、俺が出てきた方奥にあるドアではなく、俺らを挟むような形で作られている手前のドアから命の恩人であるおじさんが、水が入っているであろうヤカン片手にやってきた。
「……おお。お目覚めになりましたか。素晴らしい回復力ですね。さすが旅のお方です」
「いやぁそれほどでも〜」
「……ひとりで勝手に飛び出していっただけのアホですけど」
その一言で瞬時に暖かな部屋が凍りついた。
「そ、その件に関しましては……なんといいますか……本当にすいませんしたぁぁ!!」
紅茶を真顔ですすっているミカエルさんの前に土下座。そして、少しだけ顔を上げると組まれた脚にニーソックス。そして艶々とした太ももがチラリと見える。これが絶対領域ってやつか。
『たまんねえなぁおい!!』
心の中で叫ぶ。
「そこから便汚い顔を上げなさい?」
背筋がゾクッとした。
なんだこれ?なんかに目覚めそう……
というか、便汚いってなんだよ。俺は便器じゃねえぞ。でも、なんでだろ?もっと言われたい……
「は、はい!!」
俺はすくっと立ち上がる。
「………ズズズ」
そして、彼女が紅茶をすするのをただ呆然と見る。
「……いつまで立っているのかしら?迷惑なのだけれど。さっさと座ったらどう?」
「はい!」
俺は返事だけするとまたアンナの横に戻った。
そして、席に戻るとただ秒針がチッチッチッチッ。と、鳴るだけで静かであった。
「……勇者勇者」
アンナに小声で話しかけられ、彼女に目をやると手を招き猫のように二度動かす。そして、彼女に耳を貸す。
「敵は選んだ方が身のためだぞ勇者。彼女は魔王であった私でも手に負えんほどの恐ろしいなにかを持っておる……間違いない……」
顔を真っ青に染めて頭を抱えるアンナ。俺の寝ている間に一体なにがあったんだろうか?
「そろそろ夕方になりますけど、夕飯のご用意は致しましょうか?」
「……ええ。ありがとう。助かるわ」
「畏まりました」
そう言い残すと部屋からまた出ていった。
どっかのお嬢様とその執事みたいなやりとりだ。すげえ……
「ねえ、ライドンさんも怪我したのか?なんか横のベットで寝てたんだけどさ」
ふと思い出したので二人に聞くと、アンナは顔を真っ青にし、トイレに行くと言い残して部屋から去っていった。
「あぁ。その事ね」
「え?あぁ……うん」
「まあ、色々あったのよ。これ以上は聞かない事ね」
表情ひとつ変えずに、彼女はそう言う。
「そうか。てっきりライドンさんがミカエルさんが魔王より魔王っぽいとか言ったからあーなったのかな?って思ってたけど違うんだな!」
俺が言い切ったあとに彼女は静かに立ち上がると、俺の前までやってきた。
「ん?どうした……」
グギッ、と、腕があらぬ方向にねじ曲げれ、力を入れるたびにコキコキと変な音が鳴る。
「あんたまでそんなこと言うの?」
「ギブギブギブギブ!!!取れちゃう!!腕取れちゃうからァァ!!!」
「おっはよー!!みんな……って。え?」
そんな時に扉が勢いよく開き、明るい伸び伸びとした声が、部屋中に響いた。
「バニラ……助けてくれ!」
「えー?嫌だ。だってどうせマルクがなんかしたんでしょ?」
そう言って反対にあるソファーに腰をかけた。
「してないしてない!!したのはライドンさんだから!俺無罪だから!」
と言ったところで、ミカエルさんが離してくれた。
「痛ってぇ……」
その場に倒れ込むと、右腕を抑える。
というかみんな勇者より強いんすけど。せこくない?俺飾りなのかね?
「あ、そう言えばたまたま思い出したんですけど、一番最初のアンナのあのカチューシャ取りに行った時にミカエルさんに俺が大好きって言った時、むっちゃ可愛い声で「ふぇ!?」って言ってましたけどあれはどういう……」
そう訊いた瞬間だった。ゴンッ!!と、鈍器で殴られたような鈍い音がし頭に強烈な痛みが走る。
「……記憶って殴れば確か消えたわよね?」
ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!
「……だからって、殴らなくても……」
喋っている俺に容赦なく次、また次と、重いのがくる。そして、俺の意識は暗転した。
続く?
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