第2話

【勇者でも魔王に恋がしたい!】


二話


街を出ようと門前まで来ると、ミカエルさんが待ち構えていたのか門の柱に寄っかかって待っていた。


「待って。本当に行くの?」


いつも通りに冷たい声でそう言う。


「そのつもりですけど?」


「……なんで魔王なの?幼馴染のバニラだって別にいいじゃない。胸はそんなにないけどいい子でしょ?」


胸はミカエルさんも言っちゃ悪いが、バニラよりはあるが、そこまでって感じだろうに……

だが、おかしい。何が起きても冷静沈着で時に冷酷。効率の事しか考えてないようなそんな完璧主義者だ。故に、人のことには無頓着なのだ。そんな彼女が、ここまでバニラの肩を持つのはなにかおかしい。なにが彼女をここまでさせるんだろうか?

わからねえ……


「……ごめん。バニラは家族みたいなもんだからな……それに俺は魔王が好きなんだ」


「……なんでよ?相手は魔王よ?実る訳のない恋なの。なのに……攻略難易度が低いバニラだって別にいいじゃないの……」


「……バニラは好きだよ。でも、恋も冒険もハードな方が燃えるじゃねえか」


そう言うと彼女は押し黙ってしまったので、俺は門をくぐって魔王城へと駆けた。


「…………男ってほんとばかね」


****


どこかしらで悪口を言われたような気がしたが、そんなことはどうでもいい。俺は三度目の正直と言おうか魔王の城の前にまた立っていた。

今度こそやってやる。

前のような緊張感も勿論あるのだが、それより俺は燃えていた。

魔王の心というボスを攻略してやる。と。


「…………決まった」


早く伝えよう。

さっきは告白したからって油断してしまった……まだ俺と魔王は敵同士なんだ。


「にしても、いつ見てもでかい扉だな」


ノックをしてから扉を開けて中に入る。


「また懲りずに来たのか。はぁ。また燃やされたいのか?」


「俺には戦う気は無い」


そう言って装備していた片手剣を滑らして彼女の方へと送った。

全く同じことをした俺に怪訝な目を向ける魔王。


「……なんの真似だ?」


「俺は魔王が好きだ!俺と付き合ってくれ!」


今度は殺されないように、目線をきっちり合わす。魔王の方が先に逸らした。


「……またそれか。私とお前はそんな関係には慣れっこないだろう?それに、名前も知らない勇者と……そんな関係に……なんで……」


「あの、なんて言ってるんですかね?」


彼女は顔を赤らめながら、んっん、と、咳払いをして、まっすぐと俺を見つめた。


「勇者よ。名をなんという?」


「あ……そういえば名乗ってなかったな……俺は勇者。マルクだ」


そう自己紹介しながらポケットに手を突っ込むが、指輪がなかった。……どっかで落としたか?


「そうか……私はアンナ……大魔王アンナだ」


「アンナ……いい名前だね」


「変なことを言うな。なんか……変な気分になるだろ?」


と、彼女は顔を赤らめる。

やっぱり可愛い……なんだよ。この萌える生き物は。

折角似合いそうなの買ったのに無い。でも、まだ彼女は本気だと思ってない。なら、もう一回言うしかないよな!


「……好きだ!俺と付き合ってくれ!」


二度目の告白を彼女を見つめて言うと、耳まで真っ赤にした魔王は背きながら言った。


「……その気持ちは素直に嬉しいと思う。だが、それは出来ない」


「な、なぜ!?何故だ!?」


「もう時期、お前らの街の結界は破れ、私の部下達がお前ら人間を殺しに向かう」


「……は?なんで?」


「私は大魔王だ。この世界中から魔力を搾り取らないと私は死ぬ。お前もわかるだろう?魔力が世界から無くなるということは……」


「……世界の終わり……」


「その通りだ。だから、私が死ぬか。おぬしらが死ぬかそれしかないんだ。お前らが生き残った世界では私は生きれないし、私らが生き残った世界ではお前らは生きれない」


「な、なんかしら方法は……」


「あるわけがないだろう。私は人を自分の手で殺めることはしたくないのだ。………魔王失格と笑うがいい」


その声、表情は明らかに沈んでいた。


「アンナも見た目通りの女の子なんだな……よし、決めた!」


「……早く私を殺せ」


諦めたようにそういう彼女。


「え?なんで?」


「……聞いてなかったのか?私を殺さないとお前が死ぬぞ!!」


実に意味がわからなかった。なんで魔王が死のうとしているのか。理由はわかるが命を落としていい訳では無い。

誰も殺させない。あの時に俺はそう決めたんだ。


「方法なんて探せばいいだろ!俺を誰だと思ってるんだ!俺は勇者だぞ?世界を救おうとしてるんだ。女の子一人助けれないなんて勇者の名が廃るぜ」


「……ふふ。魔王の私が勇者に助けられるなんて話があると思うか?」


俺が笑ってみせると、彼女も初めて笑った。


「……勇者に不可能はない。俺に任せておけ」


そう言ってクールに踵を返して、魔王の城から街まで戻った。


*****


「かんぱーいっ!!」


いつもの酒場で飲み会を始め、女性陣はいつも通りにいい具合に出来上がり、向こうのほうでどんちゃん騒ぎを始めた。だが、そんなことに気にかけている時間はなかった。


「どうしたマルク。元気ないじゃないか。いつもならあっちで「ビール一気しまーすっ!」なんて言って一緒に暴れてるじゃないのに」


「……ライドンさんですか。まあ、そうなんですけどね……」


水を飲みながらそう答える。


「ん?わしでよければ相談に乗るぞ?」


彼はカウンターテーブルの端に座っていた俺の横に陣取った。


「あのですねー。かくがくしかじかという感じで……」


説明し終わると酔いが覚めたのか、ライドンさんは石のように固まり、絶句といった表情を浮かべていた。


「どうしよう……あんな勢いで啖呵切っておいて全く目処がたってないなんて……いつもは戦歴見ればわかるのに今は平和だ。なんて書いてあるだけ。ふざけんな……俺の唯一の勇者ポイントなんてそれくらいしかねえのによ……」


イラつきながらもミートソースパスタを流し込むように食べる。


「あ、そう言えば俺の家に言い伝えがあったな……」


「え!?本当ですか!?それってどういうのですか!?」


がちゃんがちゃんあっちでは物音がうるさいにも関わらず、自分でもびっくりするくらいの反応速度でそう訊いていた。


「まあ、そんなに焦るな。あと、しっかりかんで食べろ」


「……はい。すいません」


謝ると彼はニコッと笑って話を始めた。


「俺の小さかった頃の話だしウソかもしれんが、一応……な。ううん。地底の奥底に眠る闇の中には魔力を永遠に失くす防具が………なんやらって………あの魔王に着せて魔力を無くせれば普通の女の子になるんじゃないか?でもあるかはわからないし、本当にそうなるって訳でも……」


「……いや、今から行こう。地底っていえば海か……でも、海には行けたとしても海底には行けないよな……」


「魔王に頼んでみれば?なんかそんな道具あるんじゃないか?」


ライドンさんは適当なことを言っているが、それ以外に選択肢がないので一日空けてからまた魔王の元に赴くことにした。


****


まだ日も昇りきらないそんな時間に俺は魔王城へと駆けていた。


「アンナ!!」


大きな扉を、バコン!と勢いよく開く。


「……朝早くからなんだ?勇者よ」


純白で艶やかなキャミソールを身にまとった彼女が目を擦りながら奥の方から出てきた。


「両者が生き残れるかもしれない方法の鍵になるものが地底の奥底にあるそうなんですけど、その技術がこちらには無くてですね……」


「……そういうのは無いが、三十分だけなら地底でお前らの呼吸を海の中でも出来るようにしてやれるぞ」


さすが魔王さん。持ってるもんが違うぜ!


「本当!?じゃ、とりあえず仲間に話聞いてくるから待ってて!!」


速攻で街へと戻ると、仲間が俺を探し回っていたのですぐに見つかった。


「あー!!居たー!!全くどこに行ってたの!?馬鹿なの!?」


戻ってすぐにバニラの説教タイムが始まった。


「わかったわかった。お前は馬鹿だってわかったから落ち着け」


ガミガミとうるさいバニラの口を手で塞いで黙らせる。


「んー!ん!」


何を言ってるかはわからないがとりあえずうるさいことには変わりがないので抑えておく。

そうこうしていると残りの二人もやってきたので俺は意を決して言う。


「みんな!地底に行くぞ!!」


「……その前にバニラ離してあげれば?」


「……おっと、悪ぃ……」


抑えていた彼女を離すと、盛大に咳き込みを起こしたあとに、ナックルを装備して殴りかかってきた。


「無言で殴りかかってくんなっ!!」


「黙って殴られろ!!」


「殴られたら死ぬだろ!!」


あいつ……本気だ。短剣スキル以外にナックルを護身用に持ってたんだよな。

なぜナックルなんだ……


「じゃ、死ねぇ!!」


「二人も見てないで止めろよっ!!」


ライドンさんはバカ笑いを始め、ミカエルさんはねむそうに欠伸をひとつしていた。

ダメだこりゃ。

そして俺は病院送りならぬ教会送りにされた。


「無駄にお金が無くなるんですけど……」


教会から出ると、みんなはテラスに集まっていた。


「で?なんの話だっけ?」


先程俺を殺したことなんて忘れたように、バニラが話を振ってくる。めんど臭いしいいか。


「地底に行こうって言ったんだ!」


みんなの中に入りながらそういう。


「……は?何言ってんの?無理でしょ?」


蔑みの目でこちらを睨みながら、ミカエルが呆れるように言う。

まあ、こうなるよな。別に魔王を倒せば終わりだし、こんなことやる必要は無いのだ。でも、魔王のために引くことは出来ない。


「海からなら行けるでしょ!行こう!」


「なんでそんなことを?というか魔王を倒せば私たちの旅は終わるでしょ?」


「それは……」


「無理よ。ミカエルさん。そいつは狙ったターゲットは逃さないじゃない。……だから、私はここまで付いてきた。マルクがそう言うなら私はついて行くわ!」


ん?な、なんだ?

言葉に詰まっていた俺には何が起きたのかさっぱりわからなかった。

これ、ドッキリか?いつもならばバニラがこんなことを言うわけがない。何を企んでるんだ?でも、これは丁度いい。乗るしかないだろこのビックウェーブに。


「やるったらやるんだよ!」


みんなに目を配りながらそう言う。


「わしも乗った!生温い旅は体が訛っちまうからなぁ」


後ろで座っていたライドンさんは肩を回しながら立ち上がると「よっしゃ!」と、雄叫びをあげた。


「流石ライドンさん。男の中の男だぜ!」


「……はぁ。仕方ないわね」


面倒くさそうにため息を吐いていたが、ミカエルさんの承諾も頂けたので、俺らはそのまま魔王城へと向かう。


「よく来たな」


奥の暗闇から彼女は出てきた。声は魔王そのものって感じだが、見た目はやはりただの可愛らしい女の子だ。

なんだか凄くそそります。


「……やらしい」


「うっさい馬鹿バニラ」


「お前らを30分だけ深海へと送ってやる」


「あぁ。頼む!」


全く……真剣に話をしてるってのにバニラは本当に緊張感ねえよなぁ。

それから俺らは不思議な光に包まれ、気づくと真っ赤で綺麗なサンゴや、色とりどりの魚達が優雅に泳いでいた。


「……すごい!本当に海だ!呼吸も出来るし剣も振れる!でも、ちょっと動きにくいな……」


「すまないな。動きまでは私の力を持ってしても無理だ」


「なにこれ!頭の中に直接響いてくる!」


バニラが別によくあることなのに騒ぎ立てる。海で呼吸ができるんだからそのくらいできるだろ。アホなのかよ。


「いや、充分だ。ありがとう」


「……私がこういうのもおかしな気もするが……その…………いや、やっぱり何でもない」


何を言おうとしたのかはわからないが、とりあえず尊いってことだけはわかった。今はそれだけわかれば十分だ。


「俺は勇者。助けられねえ命はねえっ!!」


続く。

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