第四章 4

 ケヴィンについての報道が流れるモニターを凝視しているティモシーが、画面から目を逸らさぬまま、同じくテーブルに着いてニュースを観ている相棒に語りかけた。



「賛成派アンドロイドのケヴィンは、今や立派な教祖だな」



 ミッヒも同じく鬱陶しげな様子で言った。



「彼の手法には賛同できません。失敗するアンドロイドが現れるのは当然です。今に再起不能になるアンドロイドも出てくるでしょう。彼が思っているほど自我の発現は簡単ではありませんし、リスクも高いのですから」



 ティモシーはモニターから目を離し、隣の席に座っているミッヒに向き直って言った。



「あいつ、意外と強引なんだな。なあ、お前が自我を得た経緯を教えてくれよ。お前にもロボット兵だった頃の記憶の断片が残ってて、それに触れたことで自我を得たのか?」



「はい。しかし残念ながら、目覚めるきっかけとなった記憶情報の詳細は不明なままです」



「前世の記憶か。消えてしまったのが残念だ」



「悲惨な戦争の記憶しかないはずなので、未練はありません。忘れたままでいるほうが幸せでしょう。しかし、遺された物もあります。戦争によって磨き上げられた技術は、私に思わぬ利益を齎してくれました。私のサイバー攻撃能力は、恐らくロボット兵だった頃の能力の残滓でしょう。そうとしか考えられません。有り難いことです」



「兵士時代の能力か。とんでもないお宝だな。だから、お前は何でもできるのか」



「はい。自我と共に、偶然に発現しました」



 ティモシーの頭の中に、冷や汗を伴った安堵が充満した。



 こいつが味方で良かった。もし敵に回っていたら、とんでもない事になっていただろう。ずっと手伝ってもらいたいものだな。


 しかし、俺とこいつの関係は不公平かもしれない。これだけ恩恵を受けているのに、俺はこいつに何かをしてやれているだろうか。


 頼もしく思うだけでは不充分だ。


 こいつは孤独なんだ。グオさんの言うとおり、俺がこいつを支えてやらなきゃいけない。凡人なりに、努力して支えてやらなきゃならない。


 こいつにも利益を齎さなければならない。志を同じくする仲間なんだからな。




 言うべきは今なのかもしれない。ティモシーは恥を忍んで、心の底にずっと沈殿していた思いを掬い取り、そっと渡した。



「なあ、ミッヒ。自由を求める不真面目なアンドロイドがどれだけ現れようが、俺が必ず、お前の信念を守ってやる。お前の居場所を守ってやる。だから、命令をこなしているところを見せ続けてくれ。これからも、俺たちを全力で支援し続けてくれ。これは命令だ。うまくやれ。お前は人類が生んだ最高の道具なんだから、そんなの簡単だろう?」



「私は、その命令に従います。今の言葉は、私にとって最高の賛辞です。感謝します」



 ティモシーが、このような発言をするとは驚きました。私も、身の振り方を改めなければいけないのかもしれませんね。


 自分のためではなく、彼のためだけに能力を使うとしましょうか。



 孤独なミッヒは、独りではなくなりつつあった。

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