第18話 波乱の幕開け

 全てが終わり、立ち尽くしている私に対して和也さんはそっと私の肩に手を乗せた。

「お疲れ様でした」

「和也さん・・・」

 私は心の中にあるわだかまりをぶつけてみようと決心する。

「あの、愛さんは蘆屋家のために尽くされた妖でした。でも、他の妖もみんなあんな末路を辿るのでしょうか・・・?」

 その質問に対して和也さんは肯定も否定もできない、と言いたそうに表情を変えなかった。しかし、少し顔が俯いたのを私は見逃さなかった。

 そっか・・・。そういう末路を辿った妖は彼女だけじゃないんだ。

 これが現実。そう言われてしまえばそれまでなのかのしれない。でも、残された私たちがしっかりしなくては、また愛さんのような末路を辿ってしまう妖が出てしまうかもしれない。

 しっかりしろ、私。

 私は少し後ろで私たちの様子を見ていた紅い瞳の妖に声をかけた。

「あの」

「・・・なんだ」

 今は愛さんのことで頭がいっぱいかもしれないけど、このまま放っておいたら愛さんと同じ末路を辿ろうとしてしますかもしれない。

 これも何かのご縁。今の私の役目かもしれない。

 和也さんにはできない、私の役割。

「私と一緒に、陰陽師の助手やりませんか」

「・・・何を言っている」

「倉橋さんっ?」

 妖の紅い瞳が見開かれる。和也さんも、珍しく驚いているようだ。

 それもそのはず。私は今かなり無鉄砲なことを言っている。

 蘆屋家に仕えていたが、その後追われる身となった妖。その妖に私はまた陰陽師に力を貸してほしいと言っているのと同じなのだから。

 でも、彼女の後は追わせない。

「・・・倉橋・・・か・・・」

 妖は私の苗字をポツリとつぶやくと私の方を真っ直ぐ見つめる。

「私は、倉橋撫子です。撫子っていう名前があります」

 ちゃんとそこは付け加えておかなくては。

「・・・そうだな・・・っ」

 すると、妖はさっきまでの緊張感はどこやら、ぷっと吹き出すとそのまま笑い始めてしまった。

 何か変なこと、私言いました!?

 名前をちゃんと言っただけ・・・なんですが。

「・・・くっ・・・っ。・・・俺を使役しようとしているのか。なるほど、面白い。陰陽師の助手か。お前は将来、蘆屋の陰陽師にでもなるつもりか?」

 え、あー・・・。考えたことないや。今のままで精一杯だし・・・。

「その表情だと、考えてないな」

「なんで分かったのっ?!」

 私と妖のやりとりを見てて、和也さんまで微笑ましそうに笑みを浮かべている。そんなに私たち面白いやりとりしてるのかな?

「・・・蘆屋の手下としてではなく、自分の意志で俺を使役しようとしている、か・・・。面白い。その話し、のった」

「へっ?」

「なんて返し方なんだ。お前から願ったことだぞ」

「いいんですか・・・?」

「いいと言っている」

 よ、よかったーーー!!

 愛さん。私たち、愛さんのようにならないように頑張ります。

 どうか、見守っていてください。

「では、契約の印を結びましょう」

 はや君の容体が落ち着いたようで、こちらに歩いてくる和也さん。

「契約の印?」

「はい。妖と共に陰陽師の仕事をする時に結ぶ印のことです」

「は、はあ・・・」

 なんか難しいことが出てきた。

 あ、そういえば大切なことを聞くのを忘れてた。

「あの、妖さん、お名前は?」

「俺はコトハ。よろしく」

 すると、妖–コトハさんは私の左手を取ると、手の甲に・・・口づけをした。

 ・・・え?え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!

「印を結んだまでだ。そんなに驚かなくても」

「コトハさん。印はそんなことしなくても結べますよ」

 和也さんがコトハさんから距離を取らせるよう、私とコトハさんの間に入った。

「これで俺はお前の使役している妖だ。敬語はいい。よろしく」

 コトハさん・・・改めコトハ。

「よ、よろしく・・・」

 なんだか、色んな意味で波乱の幕開け・・・かもしれない。

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群馬で陰陽師、見つけました。 夢沢 凛 @Rubii7yumesawa

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