第14話:蘆屋家当主
−あんたは近づかない方がいい−
あれはどういう意味なんだろうか。
近づけばさっきみたいに襲われるから?だったら「俺にも近づくない方がいい」なんて言うだろうか?
何が起こっているんだろう。
そんなこんなで放課後。バイトがあったため、私は書店のカウンターにいた。昼休みに和也さんに相談したいなとは思ったけど、はや君が一緒だったから変な事は言えない。という事で、和也さんとは書店で待ち合わせることになった。私の方が授業は先に終わっていたため、今書店にいるのは私と弘文さんだけ。
「なんだか浮かない顔をしているね、どうかしたのかい?」
何気なく本を並べていると、いつの間にか隣に弘文さんが立っていて、こちらを覗き込んでいた。
「い、いえ、特には」
そう言えば、和也さんから自分が陰陽師だって明かされてから気になっていたけど、和也さんが陰陽師で蘆屋家の次期当主なら、弘文さんは当主・・・ってことになるのかな?
陰陽師の世界ってまだまだ分からないことが多すぎてよく分からないけども、もしかしたら複雑な事情とかがあって聞いちゃまずい事とかあるかもしれないし、弘文さんは関係なくて、陰陽師の事が知られたらまずいかもしれないし・・・。なんて色々と考えていたら聞く機会を毎回逃してしまっていた。
そんな時、扉が開く音がした。
「ただいま戻りました」
入ってきたのは、学校帰りの和也さん。
「おかえり、和也」
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました。あ、当主。店先に使いの者が来てますよ」
「何かあったのかい?」
・・・え?和也さん今、弘文さんのことを当主って・・・呼びました?
弘文さんが店先に出ると、弘文さんの真上から黒い羽を生やした人間の形をした・・・妖?がすぐに姿を現した。
「か、和也さん。弘文さんって・・・その・・・」
「あれ、お話してませんでしたか?それは失礼しました。父はれっきとした蘆屋家の現当主です。当主の仕事と両立して書店の仕事をしています」
確か、蘆屋家って本家の次権力を持っている御四家の1つで、群馬県の陰陽頭で・・・東日本の陰陽師のまとめ役・・・とか言ってませんでしたっけ?
え、その家の当主が弘文さんで、書店と両立?
疑問しか並ばない私を横に、和也さんは肩を振るわせていた。
「・・・そんなに笑わないでくださいよ」
「すみません。動揺がこんなにも顔にでる方は初めてでしたので、つい」
和也さんの意地悪。
しかし一通り話しが終わったらしい弘文さんが店の中に入ってきた時、ピリっとした空気がその場を包んだ。
すごい気迫・・・。
「・・・御当主」
さっきの笑みとはうって代わり、真剣な面持ちで弘文さんに声をかける和也さん。
「本邸から、ここ最近の妖怪の出現についての報告が上がってきた。ここ2週間で2人が通う学校近辺が異様なほどに妖力が集中している事がわかったそうだ。和也、報告を」
学校付近に妖力が集中している・・・。それって、あの事が関係しているのかな。
「はい。おそらく妖力の集中は学校内に潜伏している妖および妖怪の仕業であると考えます。今日の昼頃、凄まじい妖力を感じました。そして妖怪はどういう理由かは分かりませんが、倉橋さんにご執着のようです」
そう言って和也さんはその真剣な表情を私に向けた。
「倉橋さんが自ら気がついた事でしたので、なるべくなら手を出さないようにしたかったのですが、事は急を要することのようなので私も一緒に解決させてください」
私よりも先に和也さんと弘文さんは最近の異常に気がついていたんだ・・・。私、まだまだだな。
「いえ、私1人では未熟者ですので、和也さんの助手として精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
「陰陽師の助手、初仕事だね」
そんな私たちの姿を見て、弘文さんはうんうんと頷きながら笑みを見せた。
その後、状況を確認すべく奥の居間に移動した私と和也さん。
「首を・・・絞められた・・・?」
今日起こったことを一通り話し終わって1つ息をついた時、和也さんのそんな声が聞こえてきた。
「はい。こう、ぐっと両手で」
私は分かりやすいように自分の両手で妖怪に首を絞められた時を再現してみた。すると、すぐに和也さんの手が伸びてきて私の左手を首から引き剥がすかのようにぐっと引っ張った。
「そんな大変で苦しい目に合わせてしまって・・・すみませんでした・・・っ」
和也さんの苦しみに眉を寄せる姿は、まるで和也さん自身が体験したかのように苦しそうだった。ふと顔を下に向けた時に、いつもかけている眼鏡が重力に逆らえずに落ちた。
「和也さん、私は大丈夫ですから!ほら、こんなに元気ですし!」
ゆっくりと顔を上げた和也さんの瞳と視線がぶつかる。
眼鏡越しじゃない瞳はとても力強くて、ヒシヒシと伝わってくるのは強い霊力と信念だ。きっと陰陽師の端くれの私にも分かるくらいなのだから、相当の力の持ち主なのだろう。
もしかして、和也さんが普段眼鏡をかけているのは・・・。
「それに、私は和也さんの助手なんですから、本来なら自分の身は自分で守れるようにならないと!私、頑張りますね」
「倉橋さん・・・ありがとうございます」
畳の上に落ちた眼鏡を拾って差し出すと、和也さんは優しい手つきで受け取ってそのまま眼鏡を胸ポケットに入れた。
「私も倉橋さんが自身のことを自身で守れるように、しっかりと指導しなくては。腕がなりますね」
「はい!よろしくお願いします!」
でも、この時はまだ知らなかった。
危険は私の”すぐ隣”にまで来ていることに。
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