無言vsトーク どっちが辛いか決定戦!

ちびまるフォイ

そして、二人は何も言えなくなった…

「これからあなたには2つのコースを選んでもらいます。

 1年間、言葉を交わせない。

 1年間、言葉を交わし続けなければならない。

 どちらにしますか?」


「どっちを選んでも報酬金額は同じなんですか?」

「はい」


「じゃあ、言葉を交わさな――、いや待って」


よく考えたら、急に驚いたときに声が出てしまって

うっかり達成できないなんてこともありそうだ。


「やっぱり、言葉を出し続けるほうでお願いします」


「かしこまりました。最後にはテストもしますので、

 こちらをどうぞ」


「これは?」


「言語メーターです。毎日このメーターを使い切ってください。

 使い切れなかったら、失敗として報酬はお支払いできません」


「……わかりました」


「あなたはこれから、別のコースを選んだ人ぶん

 つまり、2人分の言葉を1日で消費する必要があります」


「がんばります」


家に帰ると、さっそく言葉を消費するために友達と飲み会を開いた。

しゃべり倒したものの、メーターは半分くらいしか減っていなかった。


「これでまだ半分……2人分の言葉を消費するのって大変なんだなぁ」


また別の友達に声をかけて会話をしまくった。

そうして、やっと言葉のメーターを使い切ることに成功し初日を終えた。


でも大変だったのは最初の1週間ほどで、

自分から積極的にしゃべることに慣れてしまえばメーターの消費は早かった。


「この調子でどんどんしゃべっていくぞ! 明日も男子会だーー!」


こんな生活を続けていくうちに友達はひとり、またひとりと去っていった。


「もういい加減にしてくれよ! 毎日毎日しょーもないこと報告しやがって!!

 お前の話を聞き続ける身にもなってくれよ!」


「そんなっ……!!」


サンドバックのように友達へ言葉をぶつけていたのも限界が来てしまった。

途方に暮れたまま部屋にこもり、消費し切れていないメーターを見つめた。


「ああ……どうしよう……まだこんなに残っている。

 こんな量、とても消費しきれないよ……」


誰もいない部屋でひとりつぶやいた。

すると、メーターがわずかに減っているのに気が付いた。


「ま、まさか! これひとり言でもいいのか!?」


メーターは微減する。間違いない。相手がいなくてもよかったんだ。

それから毎日、誰かに話しかけるように朝起きてから今日までの流れを

すべて話し続ける自分語りをするようになった。


それだけで1日分の言葉消費量には事足りる。イージーモードだ。



1ヶ月が過ぎると、医者に心配されるレベルまで俺は病んでいた。



「あなた、いったい家で何をしているんですか?」


「なにって……別に変なことはしていませんよ」


「そんなわけないでしょう。あなたの精神はボロボロ。

 のどの筋肉は今にもちぎれそうになっています」


「ただ、毎日自分のことを壁に話したりしてるだけです。

 そうでもしないと、毎日の言葉が消費しきれないんですよ」


「このまま続けていくと、心が壊れますよ!

 お金が手に入るのと、廃人になるのとどっちを選ぶんですか!」


「お金です!! 金さえ手に入れば人間性なんて買い取れる!!」


医者からのドクターストップも振り切り俺は生活をつづけた。

そのバチが当たったのか、のどの筋肉がはじけて飛んだ。


「か、かはっ……!! がっ……!!」


声は完全に出なくなってしまった。

無慈悲にも言葉メーターはたっぷりと残っている。


このままじゃ、今までの努力がすべて台無しになる。


ふと、ある言葉を思い出した。



――別のコースを選んだ人ぶん

  つまり、2人分の言葉を1日で消費する必要があります



俺の選んだコースとは別のを選んだ人がいたはず。

必死になって聞き込み調査を続けて、ついに特定へこぎつけた。


なにせ1日で1言も発さない人間なんて、悪目立ちするに決まってる。



『あなたが、1日も言葉をつかえないコースを選んだ人ですか?』


俺はフリップに文字を書いて男に見せた。

男はこくこくとうなづいた。


『私は言葉を使い続けるコースを選びました。

 でも、のどの調子が悪くて話せません。

 そこで、お互いのメーターを交換しませんか?』


男は驚いたように目を開けたあと、首がちぎれ飛ぶほどうなづいた。


お互いのメーターを交換すると、

男は一度たどたどしく声を出した後に獣のような雄たけびをあげた。


「うおおおお!!! しゃべれる!! やっとしゃべれるぞぉぉぉ!!!」


「あんた、ありがとうな!! ずっと言葉をかわしたかったんだ!!

 毎日、誰かに聞いてほしいことがあるのに何一つ伝えられない!

 こんなのはもう限界だったんだ!! ありがとう!!」


"どういたしまして"と書こうとすると、男が制止した。


「書いちゃダメだ。話すのはもちろん、書いたりするのも禁止されている。

 だからここまで辛かったんだ」


「まばたきでモールス信号送ったり、

 手話で会話したりするのももちろんダメ。

 しゃべりたくなったら電話をしてくれ。話さなくてもいい。

 着信が来たら、メーターをまた取り換えよう。それで会話ができる」


メーターを一時的に入れ替える。


「それがいい。それじゃ3日ごとにメーターを入れ替えよう。

 辛くなったら、お互いに電話する約束で」


メーターを取り換えて解散した。

3日間という期間設定は秀逸で、ちょうどしゃべり疲れた時に無言3日になり

誰かとのコミュニケーションに飢えたころ、しゃべり続ける3日がくる。


ちょうどいいバランスを繰り返すうち、

たいした困難もなくついに開始から1年が過ぎた。


2人でメーターを元の所持者に戻して、

ズルがばれないよう別々に報告に向かった。


でも、報酬の受け取りは同じ場所だった。


「メーターは1日も欠かさずに使い切ったようですね。

 2人とも、これまで本当にお疲れさまでした。

 やっぱり大変でしたか?」


「「 はい! 」」


2人で声を合わせて答えた。


「あと、賞金ですがキャッシュがいいですか?

 それともローンで少しづつもらうのがいいですか?」


「「 キャッシュで!! 」」


これも2人の声が合わさった。


「かしこまりました、では貴方たちは2人とも不合格です」


あまりの急転直下な報告に言葉が出なかった。

無言の男がそれはないとばかりに怒った。


「ローンを選ばないと、賞金は渡さないのか!?

 そんなのお前らの都合じゃないか! ずるいぞ!!」


「いえいえ、違います。

 最後のテストを実施した結果、貴方たちが不合格だったのです」


「え……?」




「1年もしゃべらなかった人が

 急に「はい」と声を出せるわけないでしょう。

 まして、1年もしゃべっていた人が「はい」とだけ

 短い返事で答えられるわけがないでしょう?」

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