第2話-2 視線と爪痕
後藤が先に分かれ、俺と仁美は駅に向かって歩を進めた。
いつもなら気にしないかもだけど、俺にはどうしても聞きたいというか確認したいことがあった。
「あのさ、仁美」
「ん? なに?」
赤信号で呼吸を整える。
「なんか行きたいとことかないの?」
「え。どうしたの(笑)」
「――いや、ないならいいんだけどさ」
「そりゃ北海道とか沖縄とか行きたいよ。瞬のお小遣いでいけるならね」
「無理っす」
「だったら私はちょっとしたことでいいのー。毎日、ちょー楽しいから」
「ふーんそっか」
青信号に変わる。一斉にスタートダッシュを決める車の横を進む。
「でも、ありがと」
気恥ずかしい台詞だ。返すほうも恥ずかしくなる。
「――うん」
◆
駅まですぐのスクランブル交差点。そこで俺は、おととい空メールが来ていたのを思い出した。
「あ、そうだ。俺、寄り道してくから先帰っててよ」
「どこいくのー?」
「別に立ち読みするだけ」
仁美には悪いけどこれだけは誰にも知られたくないから嘘をつく。
「んー、じゃあ帰ろっかな。またねー」
「おー」
斜めに渡る仁美を見送りながら俺は左に折れ、郵便局に向かう。
「局留めの郵便を受け取りに来ました」
学生証を見せて局員さんにお願いをする。「お待たせしました」と若い女性が一通の封筒を奥から持ってきた。
市内で一番大きな郵便局留め、宛名は『有平 瞬 様』とある。
仁美が乗った電車が出てからどのくらい経っただろう、遅れて駅に着きいつもの電車に乗る。二人掛けの座席に座り、リュックを隣に置く。空いてるから許してもらおう。
電車が動き始めてからしばらくしてさっきの封筒を手に取る。微妙に斜めになりながら途中で真っ直ぐにしようとしている住所と宛名。消印は東京都。
封を切ると、中には便箋が二枚と無地のルーズリーフが一枚ある。
便箋にはすっかり見慣れた手書きの文字が書かれている。
【おひさしぶりです。ようやく、無事に?というんでしょうか。高校生になれました――】
他愛無い話題が続く文面。一文字一文字を下書きしたのだろう、鉛筆の上からボールペンでなぞった跡が見てとれる。
読み終えてから、続けて無地のルーズリーフを取り出す。どこかの建物の屋上だろうか、そこから見える街の景色が鉛筆だけでスケッチされていた。
白黒の中に色が浮かび上がる。儚くて、狭くて、乾いた街だった。
俺が見たことの無い、街だった。
◆
その夜、22時を回ったころ、俺は机に向かい古文の「や」にすべて丸印をつけていくというつまらない作業をしていた。
そこへ後藤からメッセージが届いた。
『宗孝、GW暇だろ~』
グループ送信しているらしい。すぐに返信が届く。
『どうした』
『勉強会を開催します! 拍手!』 鶏が手(羽?)で拍手をしているスタンプ。
『なにそれ? 瞬説明して』
せっかく既読スルーしてたのに名指しされた。
『苦手科目を教えあって暇つぶししようってこと』
『な! いいだろ~』
『別に俺は苦手な科目ないけど』
ごもっとも。
『そんなこというなって 瞬くんを助けてあげて』
『後藤も他人事じゃないだろ』
『いいよ。どこでやんの?』
『ウチを提供しよう』
よかった。ファミレスとか言われたら破算するところだった。後藤の部屋なら安上がりだ。
『さんせー』
『わかった』
『じゃなー!』
鶏のケッコースタンプが三つ続いた。
そのあと、スマホを消してしばらくすると追加でメッセージがきた。また後藤だった。
『そうだ、春コン行こうぜ』
鶏スタンプが二つ続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます